確信、核心。
「あなたが、狗藤組を敵に回したことがあるからですか?」
それまでとは違い、重々しい口調で放たれた質問。単なる挑発や、当てずっぽうじゃない。何か確信があるような言い方だ。それを探るべきか、話を変えるべきか頭では悩みつつ、口からは反射的に言葉が出てきた。
「それは無いかな。狗藤組はアタシを拾ってくれた、恩人みたいなものなんだから」
「それは建前でしょう。あなたをどん底に突き落としたのもまた、狗藤組なんじゃないですか?」
こいつ、どこまで知ってるんだ。
反射的に否定したのは、まずかったかもしれない。
「私にとって猿怒冷酸の構成員は皆、家族のような存在です。だから、敵対するチームとの抗争などでこいつらが怪我を負った時は、すごく悲しかったし悔しかったし、怒りが沸いた。……あなたも、そうだったはずでしょう?」
ダメだ、こいつのペースに呑まれてきた。そう分かってはいるんだけど、出てくるのは否定の言葉ばかりで。
「分からないな。そんな経験はないから」
「あくまで否定し続けるんですね。では1つ、提案させてください」
「提案?」
「狗藤組ではなく、こちらに つく気はありませんか?」
「は?」
何言ってんだコイツ。けど、動揺しているのは周りの構成員たちも同じだった。
「何を言っているんですかリーダー! この女は、狗藤組が飼ってる殺し屋です! オレたちと相容れる存在じゃねぇでしょう!」
「次郎さんの言う通りですよリーダー! 確かに猿怒冷酸には華やかさがありませんが、けどだからって、この女を入れるのは――いや、待てよ。殺し屋も黙っていればそこそこまともな顔はしているし、意外とありなんじゃ」
「心揺さぶられてんじゃねぇぞバカ英司。ダメに決まってるだろうが」
「落ち着け次郎、英司。他の皆もだ。あくまでただの提案だろう。そう一々騒ぐんじゃない」
アタシには、利伊田の意図が掴めずにいた。
「そんな怖い顔をされるほど、私は深い考えを持ってこの提案をしているわけではありません。狗藤組に詳しいあなたが味方になってくれれば、スパイとして情報をくれるだけでも良いのですが、そうなったら猿怒冷酸と猿山組が、有利に立てるのになぁ。くらいの気持ちなんです――」
「ああ、そう」
「――今はね」
「……今は?」
「でも、真剣に考えてもらえるのなら、仲間として、家族として、歓迎しますよ」
猿怒冷酸は皆、単細胞なアホばかりだと思っていたけど、利伊田は食えない男だな。
「確かに、狗藤組にとってアタシは、仲間でも家族でも無くて、ただの捨て駒なんだろうからね。悪くない提案かもしれない」
「でしょう」
「でも、狗藤組の傍を離れるつもりは無いんだ」
「どうしてですか」
「教えるわけないでしょ。どうせ理解してもらえない」
「まぁ、そうですね。私とあなたは、仲間ではありませんから」