ぶー。
30人近くの、仮装をした構成員に取り囲まれる女王様、という現在の状況には未だに慣れないけど。まぁそれはさて置いて。
構成員たちの視線は鋭い。とても警戒されているのは、嫌でも分かる。こいつらと直接こうやって対峙したのは初めてかもしれないが、それでも向こうには、アタシがどういう人間なのかくらいは伝わっているのだろう。女だからって油断も容赦もしてもらえそうには無い。アタシの言動1つで、ここは一瞬にして戦場にだって成り得るんだ、慎重に行こう。入りこそ雑だったけど、ここからは慎重に、慎重に。
「あ、リーダー!」
セーラー服の構成員が、アタシの背後に向かって声をかけた。
猿怒冷酸のリーダー、利伊田飛鳥のことは聞いたことがある。個性と癖の強い構成員を束ねる、ポーカーフェイスの常識人。彼となら話し合いを穏便に進めることができそうだ。そう期待しつつ振り返って
「…………!」
絶望した。
「きちんと面と向かって話すのは初めてですね。私は、猿怒冷酸のリーダーを務める利伊田飛鳥と申します。お話は聞かせてもらいましたが――って、聞いてます? どうして口を開けたまま微動だにしないんですか」
利伊田は、不思議そうに首を傾げる。その彼も、仮装をしていた。まぁ100歩譲って、そこまでは受け入れるとしよう。けど、どうして。どうして――豚の着ぐるみなんだろうか。
「どうしてその恰好をチョイスしたんだ……」
彼との穏便な話し合いを期待していたアタシは、その緊張感の欠片もない恰好に絶望しつつ、尋ねた。
「え、可愛いでしょう?」
そんな真顔で返されるとは思わなかったよ。
「それに、こういうイベントはリーダーが率先して取り組まないと、他の構成員も付いてきてくれませんからね。そういう配慮をした上での恰好なので、決して喜んでこのような無様な姿をしているわけではないんですブー」
「いや、誰よりも楽しんでるだろお前。ブーとかやめろ腹立つ」
誰だ、こいつが常識人だなんて言った奴。猿怒冷酸の構成員みんな、頭おかしいじゃんか。