不良集団の一大イベント
ためらうこともなく、アタシは事務所の扉を開けた。もう少し機会を窺ってから、慎重に侵入する予定だったが、緊張が切れたので予定変更。
「お、お前はっ! 狗藤組が飼ってる殺し屋!」
中にいた構成員たちは動揺しつつ、アタシから距離を取る。
「どうしてここに……。というか、何だその恰好は」
「お前らに言われたくないよ!」
女王様の恰好をしたアタシは、死神の仮装をした構成員にそう返した。
「お前らこそ、そんな恰好で何してるんだ」
そう尋ねると、警察官の仮装をした構成員が答える。その口元には血糊が付いていた。
「知らないのか? 見ての通り、ハロウィンパーティーだよ」
「確か今日は、11月も半ばを過ぎた頃のはずだけど」
「先月は何かと忙しかったんだ。かと言って、猿怒冷酸にとっての一大イベントであるこのパーティーを中止するわけには行かねぇだろ」
「そもそも不良集団の一大イベントに、仮装パーティーが含まれていることがおかしいと思うのはアタシだけなのかな」
「構成員同士の親交を深め、信頼関係を強めることが目的だ。何も、楽しむためだけにやっているわけじゃない」
「次郎さんの言う通りです」
いきなり横から割り込んできたのは、セーラー服を身に着けた男だった。
「……どうした殺し屋、そんなにこっちを見て。俺に何か付いてるか」
「付いてるからこそ、その恰好は犯罪臭がするんだよ」
「英司、公然猥褻罪で逮捕されたくなければ、少し下がっててくれるか」
「さすが次郎さん。警察官のキャラ作りもばっちりですね」
「いやホントに、ホントに気色悪いから下がってて」
「仕方ないんです。衣装が間に合わなくて、妹の制服を勝手に借りてきちゃって」
「ところで殺し屋」
血(糊)に濡れたミイラ男の構成員が、話を戻す。
「狗藤組専属の殺し屋が、わざわざ何をしに来たんだ。見たところ、1人みたいだが」
「ああ。今日は話し合いがしたくてさ」
「殺し合いじゃなくて?」
「こっちは1人だ。気になるなら探してもらっても良いけど、武器らしい武器も持ってない。穏便に話をしたいだけなんだよ」
「穏便に……。ムチとローソクを持ちながら言われても、説得力が」
「これは……アタシにとっても想定外というか……」