目を背けたくなる
事務所の中の様子を見るため、窓へと忍び寄る。
気持ちを切り替えて、緊張感を持って仕事にあたらないと。相手は仮にも、暴力団組織をバックに持つ不良集団なのだから。狗藤組の情報どおりなら、窓の向こうでは、猿怒冷酸の構成員が集まる、年に1回の大事なイベントが行われているはずだ。イベントという名目ではあるが、その楽し気な雰囲気は名ばかりで、もしかすると非合法な恐ろしい内容かもしれない。
これまでにも、アタシはそういう光景を見てきた。たくさんの、理不尽な暴力を見た。それで傷つき苦しむ人を見た。溢れる血も見た。積み重なった死体を見た。その様子を見て嗤う人を見た。アタシは善人じゃない。仕事柄、そういう現場に居合わせて、大抵は嗤う側の人間についていた。理不尽な暴力を振るう側に立っていた。死体を積み重ねるためにその場に居た。もう慣れているはずだ。だから、どんな光景が窓の向こうに広がっていたとしても、今さら目を背けることもないだろう。
息を殺して、そっと、窓を覗き込む。眩しい室内の明かりで、一瞬くらんだアタシの目に、構成員たちの姿が写る。
その光景は、思わず目を背けたくなるようなものだった。
血。血。構成員の手や、口元や、服にまで赤黒い色が付いている。ボロ布を身に纏い、死体のような顔色の人もいる。大きすぎる斧を握る人もいる。包帯でグルグル巻きにされた人もいる。黒いマントを身に着けた人もいる。警察官のような恰好の人も、囚人のような恰好の人も、魔女のような恰好の人までいる。それらに付着した血は、どう見たって本物ではない。
ただの仮装だ。コスプレパーティーだ。暴力団組織が、コスプレパーティーをしている。そのカオスすぎる光景に、アタシは目を背けたくなった。
コイツらは一体、何てアホなことをしているんだろうか。さっきまでの緊張感を返してください。