準備
狗藤組長から受けた仕事を成し遂げるため、アタシはこの園内へと忍び込んだ。あらかじめ組長からは聞いていたが、猿怒冷酸の構成員は園内にある事務所に集結しているようで、誰の姿も見当たらない。普段はゲートに2人、見張りがいるらしいが、今日は猿怒冷酸にとって大事なイベントがあるとかで、それすらもいなかった。そのイベントが一体どんなものなのか……。組長が言うには、年に1回の恒例行事らしいけど。「どんなイベントかは、見てからのお楽しみ」と無責任なことを言われただけで、その内容までは教えてもらえなかった。つくづくムカつく男だな。
まぁ、あえて教えないくらいだから、仕事に支障を来すようなものではない、と思いたい。
そう願いつつ、園内を走り抜け、猿怒冷酸の倉庫の前へ。電飾の明かりも届きにくいような、人目につかないところにある倉庫の鍵をピッキングして開ける。
「何か、めぼしいものは無いかな」
あ、泥棒をしにきたわけじゃないからね。泥棒は犯罪だから、そんなことはしないよ。
基本的にアタシは、武器を持ち歩かない。その場にあるものを拝借して仕事を行うことがほとんどだ。だから今日も、ここから使えそうなものを拝借していこうと思ったのだ……けれど……
鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ
あれ。ここは資材置き場だったかな。鉄パイプしか見当たらないんだけれど。
さすがに鉄パイプはちょっと。田舎のヤンキーみたいでカッコ悪いんだよな。他に何か――
鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプドンキの袋鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ鉄パイプ
ん? 鉄パイプに埋もれているドンキの袋を発見。暗くてよく見えないが、中に何か入っているみたいだ。使えるものがあるかもしれない。
ごそごそと中から物を取り出してみる。えーとなになに? やたら太いローソク――これは武器に使えるかもしれない――、おもちゃの手錠――構成員を拘束するのに使えるかな――、そしてムチ――構成員を痛めつけるのには丁度いいか――、あとは……服? 丈が短いような気がするけど……まぁ、着てきた服を汚さなくて済むから、このエナメル製の服も拝借するか。
暗くてよく見えないから、どんな服かはあまり分からないが、とりあえず着替えてみよう。私服はドンキの袋に入れてっと。
「よし、準備万端だな」