どうしてこんなことに・・・・・・
ここ最近 登場していなかった神奈が、やっと働きます。念のため、今一度確認しておきますが、彼女は殺し屋です。決して女王様ではありません。
「……うん、仕事。殺し屋の。……出来る限りとっとと仕事終わらせて帰ってあげるから、すき焼き用意して待ってて。……はいはい、んじゃまたね」
電話の向こうで、まだ何か喚いている刻也の声を無視して、アタシは電話を切った。コートのポケットに通信端末をしまい、一呼吸おく。
さてと、
「どうしてこうなったんだろう」
電話から現実へと意識を戻したあと、湧き出た疑問が思わず声に出ていた。
落ち着いて、今自分が置かれている状況を確認してみようか。アタシは現在、廃業となった遊園地の園内にいる。規模はやや小さいものの、観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドにコーヒーカップと、定番の遊具が並ぶ。それらの電飾が眩しいくらいに光っていて、夜だというのにとても明るくて目が痛い。
廃業しているのに遊具が動いているのは、とある組織がここを買い取って、四六時中稼働させているからだ。そんな、余程の金持ちか能天気が考えるようなことを実行しているのが、暴力団組織猿山組である。そしてここは、そんな能天気の傘下にいる不良グループ、猿怒冷酸の溜まり場。
見渡す限り、アタシ以外誰もいないみたいだけど、昼間はあのメリーゴーランドやらジェットコースターやらで 猿怒冷酸 の構成員は遊んでいるらしい。アイツらの頭の中は年中お花畑なんだろうな。
今日ここに来たのは、もちろん遊びに来たわけではなく、仕事をしに来たのだ。3日前に、暴力団組織狗藤組の組長から依頼された仕事。それの為に来たのだから、ここに居ること自体は何も不思議なことはない。じゃあ何で疑問が浮かぶのか。それは、ここまでアタシが目を背けてきた現在の状況にある。
より詳しく言えば、アタシの服装。もっと言えば、まるでSMプレイでも始めるかのような、女王様のコスプレをしている現在の自分。羽織っているコートの下に、エナメル生地の黒光りしたワンピースを身に着け、手には大きなローソクとムチ。
「どうしてこんなことに……」
もう帰りたくなってきた。恥ずかしいし、すごく寒い。アタシがこんな格好になっているのは、狗藤組のせいだ。