組長の性癖?
タクシーの車内で流れるラジオの音すらも聞こえないほどに、次郎は集中して考え事をしていた。彼がそこまで深く考えている理由は、言うまでも無く彼の手元の紙にあった。猿飛組長直筆のおつかいメモ。そこには2つの短い単語が書かれている。
『鉄パイプ ← 多めに』
これは先ほどホームセンターで購入したから良い。普段から使っているものだから、これを購入することには大して疑問は抱かない。問題は、2つ目。
『変態グッズ ← 人数分』
確かにそう書かれている。何度見てもそう書かれている。次郎は頭を抱えた。
「(変態グッズ……だよな、これは)」
小声で、横の英司に確認した。英司は頷きながら返す。
「(そう書いてありますね。俺でも読めます)」
「(変態グッズって、何だ?)」
「(やっぱり……ムチとかローソクとかじゃないですかね? SMチックな)」
「(鉄パイプと、SMチックな変態グッズか。それを組長が欲しがっているのか)」
「(組長、なかなかバイオレンスなSMプレイを始める気ですね)」
「(しかも人数分とあるからには、オレたち構成員が、組長を相手にそのプレイをするわけなんだよな)」
「(もはや、ただの集団暴行にしか見えませんよ)」
「(組長の性癖をどうこう言う立場でないことを承知で言うが、組長なかなかドぎつい癖をお持ちだな)」
「(若干引きました)」
「(かと言って、組長の命令は絶対だ。買い出しは何としてもやり遂げないといけない)」
「(そうですね)」
「(けどSMショップはやっぱり恥ずかしい)」
「(行くならプライベートで行きたいですもんね)」
「(ああそうだな……いや行かねぇよプライベートでも。危うくオレまで性癖暴露するところだったよ)」
「(今更隠さなくても)」
「(とにかく、他にこういうグッズが売っていそうなところに行こう)」
「(ありますかね、そんな店)」
2人して腕を組み、悩むこと暫し。
「(あ、ドンキならあるんじゃねぇか?)」
「(あの何でも揃う、ディスカウントストアですね。確かにドンキにならありそう)」
窓の外を見て周辺の道を頭に思い浮かべつつ、近くにあるドンキを必死に思い出そうとする次郎。
「そういえば最近、この辺の住宅街で強盗事件が起きていますよね」
「ああ、俺もその事件聞いたことありますよ。そんな身近に悪い人間がいるんですね。怖い怖い」
――オレはお前のその、呑気ぶりが恐ろしいよ。
と、運転手と他愛もない会話をする英司を睨みつつ、次郎は呆れる。
「すみません運転手さん、そこの道を右に曲がってもらっていいですか? その先にある店が目的地ですので」
「かしこまりました。でもそこって確か、なんちゃらって言うディスカウントショップじゃないでしたっけ」
「そうそう、そこで良いんです」
「SMショップじゃないんですか?」
「あぁえっと。オレたちの業界では、ディスカウントショップをそう呼ぶんですよ。なんちゃらって言うドイツ語を略してるんですけどね」
苦しい言い訳だが、運転手はとりあえず納得したようだ。タクシーは右折し、少し走ってからドンキの前で停車する。
「到着しました。ありがとうございます」
「おいくらですか?」
「3456円です」
「運転手さん、領収書ください。宛名は猿怒冷――」
「レシートだけで結構です」
学習しない英司の頭をはたきながら、次郎は後部座席のドアをくぐる。先に降りた英司は、トランクに積んだ鉄パイプを降しながら思い出したように言った。
「次郎さん、ムチだけじゃなくて手錠も買った方が良いんじゃないですか?」
「まずは店に行ってからだな」




