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利伊田飛鳥

 利伊田飛鳥りいだあすかは、1人で事務所へと来ていた。彼は、猿怒冷酸のリーダーとして日ごろ、30人弱の構成員を率いている。『リーダーたるもの、常にポーカーフェイスであれ』という信条を持つ彼だが、現在は強張った表情を浮かべていた。その要因は、目の前の男――猿山組組長、猿飛仁義さるとびひとし。飛鳥を、猿山組の事務所に呼びつけた張本人である。

 猿飛は、他の組員を立ち並ばせ、その前に置かれた高級感ありすぎの椅子にふんぞり返っていた。その手にはワイングラス。中に注がれた液体は、シャンパンだろうか。


「悪いな、急に呼びつけて」


 組長の言葉に、伸びていた背筋を更に伸ばし、上ずった声で飛鳥は返答した。


「い、いえっ! いつもお世話になっている猿飛組長直々のお呼び出しということで! とてもありがたいですありがとうございます!」

「そう堅くなるなって。一杯飲んで、少しリラックスしたらどうだ?」


 そう言って、後ろに控えた組員に指示を出す。組員は流れるような無駄のない動きで、空のワイングラスを取り出し、液体を注ぎだす。猿飛が飲んでいるものと同じ色の液体だ。


「わ、私ごときがよろしいのですか?」

「ああ。気にせず飲めよ」


 受け取ったグラスをじっくりと見てから、ゆっくりと口元へと運ぶ。


――こういうのは、やや時間をかけて味わうべきだろうか。それとも勢いよく飲み干した方がいいのか? いや、でもそれだと、もっと味わえと怒られるんじゃ……しかし、時間をかけても、遅いと怒られるんじゃ……うわああああああ誰か! 正解を教えてくれ!


 心の中で発狂しそうになりながら、結局飛鳥は、液体を勢いよく飲んだ。ただ単に、喉がカラカラだったのである。


――緊張しすぎて味が分からないが、落ち着いて、味わうことに専念しろ私。この、少し舌に残るような、独特で、どこか懐かしさすら感じるこのシャンパンの……ん? 違うな。これ、シャンパンでも、そもそも酒ですら無くて


「美味しいか? ヤクルト」


――ヤクルトだったかー。通りで濁った色していたわけかー。


「と、とても美味しいです」

「そりゃ良かった。お腹にとても優しいからな。腹をよく下す俺の必需品だよ」

「そ、そうなんですか。健康的ですね」


――なんか、あんまり知りたくなかった情報かもしれない。


 飛鳥は内心そう思いつつ、グラスに残ったヤクルトを飲み干した。

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