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英司と次郎

 佐分英司さぶえいじは、自分より少し年下で23歳と若い癖に、組織の中では先輩の立場にいる脇野次郎わきのじろうと、ホームセンターへと来ていた。彼らは暴力団組織『猿山組さるやまぐみ』の傘下にある『猿怒冷酸えんどれす』という名の組織の構成員だ。猿怒冷酸は簡単に言えば不良集団で、猿山組の使いっぱしりをしている。


「英司、遅くなって悪かったな」

「気にしないでください、次郎さん」

「リーダーに呼ばれててよ。全く……頼りにされるのも大変だよな。お前みたいにオレも、暇になってみたいもんだよ」


 あとから合流した次郎は、軽い調子でそう言った。


――年下の次郎に呼び捨てされるのには慣れたけど、いくら組織では先輩だからって、俺を軽く見下してんのはムカつくわ。豆腐の角に頭ぶつけて死なねぇかな。


 と内心ぶち切れつつ、外面はへらへらと笑ってみせる英司。


「じゃ、早速探しに行きましょうか、鉄パイプ」

「おう、そうだな」


 彼らは、猿山組組長から頼まれた物の買い出しへと来ていた。

 今日買うのは主に2つ。その内の1つである鉄パイプを求めて、ここへ来店したのである。


「鉄パイプなら既に猿怒冷酸うちでも持ってるのに、わざわざ買わせるなんて。またこの前みたいに、抗争仕掛ける気なんだろうか」

「ああ、あの抗争、ニュースでも取り上げられてましたよね。警察サツに捕まる人はいなかったみたいですけど」

「噂じゃ、その抗争の流れ弾に当たって負傷した奴が、訳ありらしいぞ」

「一般人だってニュースでは言ってましたよ」

警察サツが大事にしたくないってことで、一般人って報道するように仕向けたみたいだ。詳しいことは知らねぇが、警察サツ猿山組うえとで取引があったんじゃないか?」

「だから誰も捕まってないんですね」

「つまりそういうことだろ。つかお前、バカの癖にニュースとか見るんだな」

 

 心の中で舌打ちをしつつ、へらへらと笑う英司。

 そして鉄パイプを見つけ、どれが良いのか選んでいると、


「本当にイケメンだったのよ」


 鉄パイプが陳列された棚を挟んだ通路から、女性の声が聞こえる。気になった2人がそっと覗き込むと、女性店員2人が談笑していた。近くに英司たち以外の客がいないからか、声のボリュームは通常の話声とあまり変わらない。


「高そうなスーツがよく似合うイケメンでね。あの時ほど、防犯グッズ売り場の担当やってて良かったって思った瞬間は無かったわね」


 どうやら、以前来店したイケメンな客についての話で盛り上がっているらしい。


「へぇ、そのイケメン、防犯グッズ見てたんだ」

「カッコいいと、色々狙われることもあるんじゃないの? ストーカーとかさ。いつもは自分からお客さんに話しかけることってあんまり無いんだけど、流石にダッシュして話しかけに行ったわよね」

「やだ、お客さんを差別しないの」


 そう言いつつ、笑いだす2人。英司と次郎は鉄パイプを選ぶフリをしつつ、耳はその店員へと向けた。


「でもそのイケメン、ちょっと変なことを言ってたわ」

「変って?」

「私が、防犯の鉄則は危険人物を家に入れないこと、って言ったらね、危険人物を受け入れて、家で寝泊まりさせるのはどうですか? って聞いてきたの」

「やだ、それ面白い」

「ね。凄く真剣な顔で言ってたから一瞬本気なのかと思ったけど、やっぱりあれは冗談だったのよね」

「そりゃそうでしょ。命がいくつあっても足りなくなるわよ」

「そうよねー。イケメンは、冗談もイケメンだわ」


 あははは、と笑う店員。


「良いですね、イケメンは。何しても許されるみたいな」

「滅びてほしいよな、イケメンは」


 店員とは対照的に、小声で落胆する英司と次郎。

 が、すぐに気持ちを切り替えて、大量の鉄パイプを大きなカートに乗せ、レジに並ぶ。 


「いらっしゃいませ。1.5メートルの鉄パイプを……30本のお買い上げですね。ありがとうございます」

「領収書お願いします」

「かしこまりました。宛名はどうしましょうか」

「猿怒冷」

 

 言いかけた英司の足を、思い切り踏みつける次郎。


「いっ!」

「(なにあっさり名乗ろうとしてやがんだバカ。そんなんだからお前はバカなんだよバカ英司)」


 小声で英司を罵ってから、店員へと向き直る。


「レシートだけで結構です」

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