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柊木凛香

――翌日


 柊木凛香ひいらぎりんかは、休日を利用して街へ買い物に来ていた。彼女は来栖刻也が社長を務める株式会社シトルで、秘書をしている。厳格な父と、教育熱心な母に育てられた彼女は、幼い頃から真面目な努力家であり、その性格が現在の仕事に生かされているのだろう。が、その反面、彼女は自らの性格があまり好きではなかった。例えば人が冗談を言ったとき、彼女はそれを冗談だと気付かずに真面目に返事をしてしまう。例えば学生時代、校則を破って制服を着崩す同級生の女子生徒に、「その姿はみっともないです」と真面目に注意をしてしまった。それらは間違った言動ではないのかもしれないが、それらのせいで周りには、つまらない人間だと陰口を言われ、友達も出来にくかった。だから彼女は、その性格を直さなくてはと常日頃から考えていたのである。

 しかし性格を変えるというのはなかなか難しいし勇気が要る。一体どうすれば良いのだろうかと考え、雑誌を読み漁り、メモを片手にテレビを見て、その答えを必死に探した。そして遂に、彼女は答えを導き出した。普段の休日は資格などの勉強をして過ごすのに、今日は珍しく街へと繰り出しているのは、自分を変えるのに必要な道具を買う為だった。

 表情に乏しいせいで周りの人間には分からないが、彼女は今、とても嬉しそうな顔をしている。鼻歌でも歌いだしそうな顔をしている。繰り返すが、その感情は周りには読み取ることが困難である。

 そしてその顔のまま、バッグの蓋を開け、中からあるものを取り出した。片手で軽々と持てるそれは、カチューシャであった。カチューシャ自体は黒く、どちらかというと地味な印象を受けそうだが、全体的な印象は正反対のものだ。何故ならそのカチューシャには、愛らしい2つの装飾品が付けられているから。

 何故ならそれは、ピンクの猫耳が付いた、猫耳カチューシャだから。


「…………ふふ」


 凛香は小さく笑った。一切表情筋を動かさずに笑った。

 性格を変えるのは難しい。が、外見を変えることは出来る。髪型を変えたり、化粧を変えたり、服装を変えたり。真面目な性格を変えたかった彼女は、考えに考えた末、猫耳カチューシャを身に着けるという答えを導きだしたのだ。なにも、これを着けて会社に行こうというわけではない。そんなことをしたら、益々周りから人がいなくなりそうだ。特殊な趣味を持った男性なら集りそうだが。


――もしこれを着けた わたしを、社長が見たら何て言うでしょうか。


 凛香はほんの少しだけ頬を染めてから、頭を振った。

 このカチューシャは会社に着けていくわけではなく、家で、誰に見せるわけでもなく、強いて言うなら自分に見せるために買ったのだ。これを着けた自分を客観的に見れば、少しでも性格を変えられる、そう彼女は信じている。


――自分を変えることが出来れば、社長とも楽しくお話が出来るかもしれません。


 そう思って、また無表情で笑った。

 それからふと、これを買った店で見掛けた、少し気になる客のことを思い出す。


――そういえば、あの方たちはどんな物を購入されたんでしょうか。


 しかし所詮は他人事なので、あまり深く考えることもなく、足取り軽く家へと向かった。

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