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「……の、あの……」

「ん……」

 図書室の椅子を繋げて寝ていた有野真夏は、小さな声と共に腕を揺さぶられて片目を開けた。眉尻を下げて自分を見下ろすのが同じクラスの女子であることを確認すると、腕を振り払って寝返りを打つ。

「うるっさいな……寝てるんだけど」

 相手は少し怯んだようで、腕を振り払われたまま黙って立ち尽くしている。そのまま帰ってくれ、と片目を開けて様子を伺っていると、彼女はおもむろに靴を脱いだ。

「じゃあ、足元だけちょっとお借りするねー。」

 そう言うと、真夏が足を伸ばしている椅子に躊躇いなく上り、高めの窓枠に指を掛けた。驚いたのは真夏のほうで、ずるずると体を起こして2人が乗っていた椅子から撤退する。

「……な、なにしてんの。」

「あ、譲ってもらっちゃったねー。ありがとうございます。」

「いや、そうじゃなくて……」

 なんだこいつ、と見上げると、彼女は窓から外を見ていた。何やら手に持った写真と見比べ、感嘆の声を漏らしてすらいる。

 横の椅子に登って手元を覗き込む。彼女が持っていたのはここから見た風景の写真のようだった。建物はだいぶ違うが、川が同じように流れていた。

「昔の写真?」

「そうなの。私のおじいちゃんがくれたの」

 素敵でしょう、と依然外を見たまま微笑む彼女。真夏はなるほど、と頷いて現実の空を見上げる。

 写真の抜けるような青空と、この窓から見えるショッキングピンクの大気圏は、どこからどう見ても同じものとは思えなかった。

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