青の国の病院事情と夏の国に関しての報告②
青の国まで蒸気二輪車で行こうと思いましたが、黄の国には鉄炭が無いそうで、とても青の国まではいけないということが分かりました。そのことを、黄の国の王様に伝えると。
「ふむ、では少なくとも境界まではゾウマを貸そう。その二輪車も全く動かないわけでは無いのだろう。境界からなら何とか青の国までは行けるだろう」
「はぁ・・・。でも、ゾウマ?なんですかそれは、動物ですか?」
「おや、まだ見たことは無かったか?この国において、人間の次に多い動物だ。力が強いので、この国を支える我らの隣人である」
人ではないと思うのですが・・・。とりあえず、その他諸々準備していただき、私は青の国へと旅立つことになりました。
それで、私はゾウマさんの引く荷台の上に二輪車を乗せて青の国を目指しました。それにしても、ゾウマさん。予想以上に大きな生き物でした。一見すると一般的な馬のようですが、体がこれまた大きいのです。あと、違いは長い鼻と大きな耳でしょうか。優しくて力持ち、ということです。ただし、怒ると家でも人でも、その巨体で踏みつぶして暴れるというので恐ろしいものです。
「・・・おや」
私は空気の変化を肌で感じ取りました。つまり、暑くなったのでした。
パオーン!
ゾウマさんの鳴き声が聞こえました。どうやら、自分が送って行けるのはここまでだ、と言っているようでした。
「はいはい、ちょっと待ってくださいね。よいしょっと!」
私は、荷台から二輪車を下ろし、ゾウマさんにリンゴをあげました。
パオーン!
ゾウマさんは、また大きな声で鳴くと、もと来た道を帰っていきました。
「さてと、じゃあ行きますか」
私は服装を夏服に着替えると二輪車に乗りました。幸い、ここは坂の上です。ここから、うまく節約して青の国に向かいましょう。
三時間後、予想外のことが起きているのでした。まず、この国の夏は白の国に比べて暑いです。暑いというよりか熱い、かなり苦しい夏なのです。また、水の問題・・・。黄の国から持ってきた水筒に穴が開いていたのです。さらに、それに気が付かず、ガブガブと飲んでしまったのでした。・・・水が無くなってしまいました。
「ぜぇぜぇ・・・・・・。死ぬ・・・」
まずい、これは若くして命を散らしてしまいます。
私は、必死に二輪車を操り、坂を登ります。なんとか、池でも川でも水分を補給しなければいけません。
「ぜぇぜぇ・・・。えっ!う、うわぁ・・・!!」
坂を上がると目の前には驚きの光景が広がりました。見たことも無いような大きな湖。私は全速力で坂を下ります。
本来ならば、いきなり湖の水を飲もうとはしないのですが、その時は体が水分を欲していました。
湖のほとりまで駆け込むと、一気にその水を飲みます。すると―――。
「し・・・、しょっぱぁぁぁぁぁ!!ぐ、ぐはっ!!」
それで、意識が徐々に無くなっていきました。
「あ、あなた!大丈夫!?まさか・・・、海水を飲んだの!?」
その女性の声が、私の意識が切れる前に最後に聞いた言葉でした。
病院のベッドの上、私は頭を抱えたままでした。つまり私は行き倒れてしまい、青の国の病院に運ばれたのでしょう。情けない話です。
「こんにちわ~」
と、部屋に誰かが入ってきました。入ってきたのは若い女性でした。褐色の肌に、綺麗な金髪、明るい笑顔の女性でした。初めて見る顔の気がしますが、声には聞き覚えがあります。そう、私の意識が無くなる前に聞いた声です。
「あ、あの・・・」
私は恐る恐る状況を説明してもらおうと、女性に話しかけます。しかし、その、前に女性の方から声が上がります。
「シロナさんだっけ?外交員なのに、この国こと何も知らないの?なんにせよ、海を飲んじゃ駄目よ~。あはは」
「す、すいません・・・」
女性は、笑っています。なんともフランクな感じです。まるでお友達のような・・・。もしかしたら、記憶がないだけで、意識を失う前に私とこの女性はお互いに自己紹介をしたのかもしれません。そうなると、改めて自己紹介をするのは、おかしい感じがします。
「それで、体調は大丈夫?」
「は、はい・・・。ご心配をおかけしました。ちなみに、私はどれ程眠っていたのでしょうか・・・」
「一日、と言ったところよ。もう大丈夫だったら、この国を案内するわ。準備をして着いてきてね~」
「えっ!?は、はい。お願いします」
予定は狂いましたが、どちらにしても病院から出て、王様のところに行かなければいけません。女性に連れられて、病院の外に出ます。目の前には、大きな湖が広がっていました。これを飲んで、私は倒れたのです。昔、本で読んだことを思い出して私は言います。
「気が付きませんでした。この湖は塩湖だったのですね」
女性が答えました。
「塩湖~?」
「塩分が溶け出した湖のことです。違うのですか?」
「どうかしら?私達は、『海』って呼んでいるけどね~。まぁ、きっと大きな湖なのよ。この国の人たちがね、冒険に何回か行ったんだけどね。結局まだ、対岸を見つけてないからね~」
「えっ!?それって・・・・・・。それこそ、神話とかの世界の話なんじゃ・・・・・・」
「まぁ、どうでもいいわ。この海から食材を採り、この海で体を鍛え、この海と一緒に、この国の人たちは生きているのよ~」
女性はのんびりと答えます。
「それより、お腹が空いたわ~。食事にしましょうよ」
確かに、お腹が空きました。しかし、私には大切な任務があります。
「いえ、それよりも。この国の国王様に会わせてはいただけませんか?大切な話があるのです」
それに、王様に食事を用意してもらった方が豪華そうです。
「そうなの?残念ねぇ。せっかく御馳走しようと思って準備していたのに~。この国の中で最高級のもてなしよぉ~」
「えっ!?奢りで高級なら、話は違ってきますよ」
「あはっ。あなた面白いわぁ~」
そう言うと、女性は崖上ある小屋まで案内してくれました。小屋に入ると確かに御馳走が準備されていました。
それを女性の指示でわざわざ外に出します。
「あの・・・。なんでわざわざ外で食べるのですか?」
「あれを、見るためよぉ~」
そう言って、女性は浜辺を指差しました。そこには、人々が集まっていました。
「今から、サーフィンの大会があるのよぉ~。王様も参加するから、その後ならきっと時間を作ってくれるわぁ~」
「なるほど、ありがとうございます」
「ちなみに、一番大きいのが王様ね」
「わっ!?」
サーフィンとやらが、何かは分かりませんでしたが、王様は分かりました。身長として、私の倍はあろうかと言う大男、きっと彼が王様なのでしょう。それだけではありません。この国の人たちはどうやら、皆さん体が大きい様子でした。男性だけでなく女性までが身長が高く、かなり筋肉質です。
その服装は、黄の国の王様が言うように、かなり露出をしたものではありました。しかし、この国とは随分あっている印象で、野蛮なイメージはありません。むしろ爽やかさを感じます。正直、私も黄の国で夏服を揃えましたが、この気候では、これでも厚着でしょう。
「あ、始まるわよぉ~」
サーフィンは、木で作った板使用して、海で起きる波に乗る競技のようでした。筋骨隆々の男女が波に挑戦しては、板の上でポーズを決めたり、技を披露していきます。私は初めての見学ながら、楽しませてもらいました。
と、急に競技会場がざわつき始めました。
「何かあったのですか?」
「ん?トラブルみたいねぇ~。あれよぉ~」
女性が指さす先には、大きな魚のような生き物の影がありました。
「シャメねぇ~」
「シャメ?ですか?」
「凶暴な魚なのよぉ~」
「えっ!?やばくないですか?避難した方が良いのでは」
「大丈夫、大丈夫~」
その時、私はある意味、野蛮な光景を見たのでした。
何人かの人々は、陸に上がりましたが。王様を始めとした数名は、海に入っていきます。そして―――。
・・・素手でした。凶暴な、牙を持った大きいシャメと言う生き物を。屈強な男女が素手で倒す光景でした。
「す、すごい・・・」
「ね~」
のんびりとした女性の声が聞こえます。そして、ある意味最大のイベントを終えて競技は終了した様子でした。
「私、待ってるから~」
「は、はい・・・」
私は砂浜に向かいます。砂浜では、優勝したらしい王様が国民の方々に囲まれています。
その人々を押しのけて、私は王様の前に進みました。王様が怪訝な顔で私を見ます。
「・・・そなたは?」
「申し訳ありません。青の国の王様とお見受けします。私は白の国の外交員の者です」
「なるほど、国に入ったとたん、海水を飲んで病院に運ばれた娘か」
王様の発言に周りから嘲笑と、驚きの声が上がります。
「・・・あの、内密な話があるのですが」
「分かっている。ついてまいれ」
私は、王様に連れられて、お城と思われる建物の中に入りました。椅子に座り、王様が話しかけます。
「ふむ、取りあえず。荷物は確認させてもらった。手紙も読ませてもらっている」
黄の王様からの手紙のことでしょう。ならば、話は早いです。
「書いてある通り、白の国、黄の国共に危険な状況です。季節を巡らせるため、ご協力をお願いします」
「ふむ・・・・・・」
王様は考え込んでしまいました。
「お願いします。このままでは・・・」
「ふむ・・・・・・」
「このままでは、危険なのです。危機なのです」
「ふむ・・・・・・」
「あの、どうか協力をお願いします。このままでは私の、ゆっくりとした自堕落的生活の危機なのです!」
「国の危機ではないのか!?」
「いや、もちろん、そっちも危機です。でも、一人の生活守れずに!人ひとり守れずに!国が守れるわけがありません!」
「いや!最低な発言だぞ!それ!全然名言になってないぞ!」
王様は、つっこみを入れた後、ため息をついて続けました。
「・・・・・・守ってほしいのはこちらだ。外交員殿」
嫌な予感がしました。王様は、さらに続けます。
「・・・この青の国は、秋を待っているのだ」