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裁判による国際問題と秋の国に関しての報告③

 森を進みながら、王様は話を始めました。

「君はこの国に来て、どの様な感想を持ったかね?」

「はい、冬が続いている白の国から私としては羨ましいですね。果実も食肉も十分に流通している様子ですし」

「そうか・・・」

 王様は少しがっかりしたように言いました。私は続けます。

「まぁ、数年後はどうか分かりませんが」

「ほう、頭は悪くないようだな。一部の国民はすでに気づき始めておる。このまま秋が続けば、この国は亡びるだろう。我が国は、古来より豊かな山の恵みによって発展してきた。山の幸を、適度にいただきながら。山に住まう獣たちと、共に生きてきたのだ。しかし・・・・・・」

「その共存が不安定になっているということですか?」

「ふむ。この国は秋に多くの果物や野菜が取れる。また、動物たちもこの時期に果物を取ったり、狩りをして栄養を貯める。冬には果物は地面に落ち、種を地面に落とす。動物たちは冬眠に入る。中には寒さで死んでしまう動物もいるが、彼らは栄養として山に帰る。春には地面に落ちた種は芽を出し、動物たちは冬眠から覚め、恋をするだろう。夏には芽を出した植物はより成長し、動物たちもより活発に活動する」

「なるほど、季節のサイクルに合わせてのライフスタイルなのですね」

「ふむ、おそらくこのまま秋が続けば一年ほどで山は枯れ、山の動物たちは人のいる里に、餌を探しに来るだろう。そうなれば・・・」

「人間としては、駆除をしなければいけなくなると?」

「・・・外交員殿。この国では山に住む動物たちは友であり、対等な存在だ。駆除などと失礼なことは言わないでほしい」

「失礼しました。発言を取り消させてください」

 失言でした。彼らが野生動物たちを大切にしている。ということは、この国にまだ、数時間しか滞在していない私でも分かることでした。確かにこの国では、あまり機械技術は発展していないようで、移動など様々な作業に動物を使っているようでした。しかし、それは白の王様のいうようなものでは無く、動物たちを一人の友として、仲間として認めているということを私は感じ取っていました。

 王様は続けました。

「それに、もし争いになれば。こちらも命がけになる。・・・戦争になるよ」

「なるほど。確かに危ない状況のようですね」

「そこで、君にお願いがある」

「お断りします」

「何も言ってないだろう!?良いか、秋の女王様には何度も使者を送っている。しかし、出会うこともできていない。そこで、冬の女王様と面識のある君に頼みたい」

「だから、嫌ですって」

「秋の女王様のもとに向かい、交渉に当たってもらいたい。報酬も出そう」

「・・・だから拒否します」

「そうか・・・ありが・・・えっ!?」

「なんで驚いているんですか。自分の国のことは自国で何とかしてくださいよ。私は早く元の生活に戻りたいんです」

「・・・そうか」

「はぁ、でも良ければ私のような女性を送ればあっさり交渉に応じてくれるかもしれませんよ」

「・・・いや、悪いが君のような女性は我が国にはおらんだろうな」

「いや、そんな風に褒められると照れちゃいますけど・・・。えへへ」

「・・・我が国の女性は豊満なスタイルが特徴でな」ボソッ

「・・・今、なんて言いました?」

「いや、残念だと言ったのだ」

「まぁ、私も悪いとは思いますけど・・・・・・。早めに白の国に帰らないと」

「裁判を再開するのは面倒だがしょうがないな」

「・・・どういうことで?」

「ん?中断している裁判を再開して、罰則を与えようという話だが?」

「ひ、卑怯ですよ!ずるいです!」

「ふっ、分からんかね。交渉はすでに、脅迫に変わっているのだよ。・・・だいたい、白の王からの手紙を読んだが、君の目的と我々の目的は一致しているだろう?頑張ってくれたまえ」

「・・・はい、わかりました。成功の暁には、それ相応の謝礼を請求しますのでどうぞよろしく」

「・・・ここまでずうずうしい、国家職員もわが国にはいないな」ボソッ



 王様と話しながら森の中を歩くと、大きな広場に出ました。

「おや、てっきり塔に案内されているものだと思っていたのですが?」

 見た限り、塔のようなものは見つけられませんでした。

「女王様に住んでいただく塔は神聖な森に建っている。選ばれた者しか入れない場所ということだ。少し、待っておれ」

 そう言うと、王様は指をくわえて高い音を出しました。指笛という奴です。

 タッタッ

 森の方から、馬の蹄の音が聞こえました。

 森から出てきたのは美しい馬でした。銀白の体毛に覆われているその馬の頭には美しい金色の角が生えていました。そう、ユニコーンという奴です。

「す、すごい・・・」

 私は感嘆の声をあげました。確かにペガサスにも驚きましたが、このユニコーンは確かに聖獣という雰囲気を感じます。

 王様はユニコーンの頭をなでながら私に話しかけます。

「よしよし。よく来てくれたな・・・。ふふっ、この種族はこの国でもこの森にしか住まない希少な種類だ。色々伝説を持った動物だが外交員殿はご存知かな?」

「え、えぇ。物語にはよく出てくる動物なので・・・。子供しか乗せないとか、罪人を乗せると罪人は死んでしまうとか、純粋なものしか乗れないとか」

「ふむ、しかしそれら伝承は全て間違いだ。なんてことは無い、彼らは面食いなのだよ」

 王様は笑いながら答えました。

「自分が気にいった者しか乗せんのだ。こちらの顔を見て乗せる人間を選んでいるのだよ。あははは・・・・・・!?」

「そうですか。では、よいしょ。っと」

 王様の説明を聞きながら、私はユニコーンの背中に乗ります。

――――と。

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!」

 ユニコーンが急に暴れ始めました。私は必死にその背中にしがみつきますが、さらに激しく暴れます。しかし、手がしびれて。

「ぎゃふん!!」

 私は見事に弾き飛ばされてしましました。王様が駆け寄ってきます。

「何をやっているのかね!?わしの説明を聞いていなかったのかね!?」

「説明を聞いたから乗ったんですけど!?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 いやな沈黙が流れました。

「とりあえず。儂が最初に乗る。その後ろに乗りたまえ」

「・・・はーい」

 少々納得できませんが、王様が乗るとユニコーンはおとなしくなりました。私もその後ろに乗ります。王様がユニコーンに何やら話しかけるとユニコーンは進みだします。ただ、こうなると美しい者しか乗せないという王様の話も信ぴょう性が薄れます。

 本来なら、馬の背中に直接乗るとお尻が痛くなるものですが、ユニコーンの背中のせいなのか、歩き方が良いのか痛むこともなく無事に塔まで到着しました。

「儂も何回もこの塔は訪れているが、この秋になってからは、秋の女王様は扉を固く閉じていらっしゃる。儂がいると出てきてはくれまい。ここからは、お主に任せたい」

 そう言うと、ユニコーンに乗った王様は帰ろうとしました。

「はぁ、それはいいですけど。帰りはどうするので?」

「女王様に説明すれば、動物を貸してくれるだろう」

「えっ!?じゃあ、女王様と会えなかったらどうするんですかーー!?」

 王様はどんどん先に行ってしまいます。

「こらー!帰ってこーい!!恨むぞー!死んだら化けて出てやるぅ!!!」

 王様の背中は見えなくなってしまいました。



「・・・はぁ」

 こうなったら、何としても秋の女王様に会わなければ・・・。私はトボトボと扉まで歩くとノックをします。

 コンコン!コンコン!

「すみませーん!白の国の外交員の者ですがー!秋の女王様はいらっしゃいますかー!」

「はーい!ちょっと待っててねぇ!」

「・・・えっ!?」

 予想に反して、秋の女王様と思われる方の声が聞こえました。階段を下りるような音も聞こえます。

 ガチャ。

 扉が開きました。出てきたのは、これまた美しい女性でした。栗色の美しい髪に、丸みのある愛嬌を感じる顔。瞳は金色。・・・そして何より。

「・・・でかい」

「何が?」

 その身体は、実りの秋という言葉にふさわしく。たわわ、と大変大きく実っておられました。

「ちょうど今、食事の準備をしているのだけど。手伝っていただけるかしら?」

 確かに、女王様はフリルのエプロンをつけていられました。私はそのスタイルと元気なキャラクターに圧倒され、話の主導権は、秋の女王様のものなのでした。私は力なく返事をします。

「は、はい・・・・・・」



 夕食の準備ができると、食事会となりました。赤と黄色の鮮やかな室内用のドレスに着替えた女王様が向かい合わせに座ります。

「さぁ、この食事会は無礼講でいきましょう。固い敬語なんて無用だわ」

「・・・はい」

 最初は緊張して、何とか季節の話をしようとしましたが、おいしい食事をたべていくうちに口の滑りは良くなり、かわりに話の趣旨はずれていくのでした。


「この国も昔は、動物を好き勝手に狩ってしまってね」

「へぇ。そうなんですか」

「当時の王様が狩人たちと対立してね。最終的に保護する法律が成立したのよ――――」

「国に歴史ありってことですね」

「でも、次の王様ったらね――――」

「ふむふむ」

「今の王様だって、子供の時は大変だったのよ。この森のユニコーンの乗れるようになるまで何百回落馬したのか」

「ほうほう、もっと詳しく。今からメモ取りますから」

 ・・・・・・楽しい時間は、やがて去りゆき。そろそろ、日はドップリ落ちてしまいました。食事も終わり、デザートまでおいしくいただきました。

 しかし、私は大切な話をすることを忘れていたのでした。

「・・・秋の女王様、お話があるのです」

「・・・良かったわ、てっきり忘れてしまったのかと。こちらから話を振る訳にもいかないし。・・・それで、何かしら?」

「女王様」

「はい」

「今日は泊めてください!!」

「・・・・・・えっ!?」

「もう遅いし、今更帰れません」

「そうね・・・。別に、部屋は空いているのでいいけど・・・。あなた、お願いってそれ?」

「あと、ついでに」

「ついでなの・・・」

 私は、白の国と黄の国の現状を話したのでした。秋の女王様は静かに話を聞くと頷きました。

「なるほど、分かりました。色々な方に迷惑をかけてしまったようね」

「ま、まぁ」

「状況は理解しました。国民の方々に迷惑をかけることは、私の本意ではありません」

「で、では・・・」

「準備ができ次第、私は塔を移ることにしましょう」

「本当ですか!?やったー。これで、私は億万長者の上に、国をまたいだ英雄です」

 これで、多くの国民たちが救われることになるでしょう。

「あなた、正直者なのかしら。・・・それとも、おバカなのかしら」

「で、では早速・・・」

「でもその前に」

「その前に?」

 秋の女王様は微笑みました。

「青の国にいる夏の女王をどかせてちょうだい。私、困っているから」

 そう言う秋の女王様の顔はちっとも困っていないのでした。


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