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白の国の近況報告

 私はヘリポポとやらに乗って岩山を下りました。風の流れに乗ってゆっくりと白の国のはずれに着地します。ヘリポポは着地すると枯れてしまいました。私は服装がかなり寒いことに気が付きましたが、そんなことを言っている場合ではありません。取りあえず、急いでお城に向かって王様に赤の国のことを報告しなければ。私は、なぜか二輪車に積まれていた上着を着て二輪車を発進させたのでした。鉄炭はお城までギリギリ持ちそうでした。

 お城に向かっていく途中で、私はおかしなことに気が付きました。夕暮れなのに、ほとんどの家に灯がともっていません。私が旅に出るときには無かったことです。普段なら蒸気自動車がいくつも走っている道路には人っ子一人いません。私は嫌な予感がして、お城まで急ぎました。

 お城に入ると給仕をする人はいるものの、やはり全体的に暗くてどんよりしていました。私は王様がいるという、お城の会議室の扉を開けました。

 ガチャ!

「王様!外交員のシロナ戻りました!至急報告したいことが!」

 テーブルの奥に座った王様は少し瘦せたようでした。顔には疲れが張り付いています。

「ふむ、君か・・・」

「あ、あの!報告を!」

「いや、必要ないな・・・。報告書は受け取っている」

 私は、黄の国を出るときに、状況をまとめたものを旅人さんにお願いして送ってもらったのでした。

「いや!しかし!」

「外交員・・・。我が国は黄の国に戦争を仕掛けることが決まった」

 王様は、疲れた口調で言いました。

 私は、春の女王様が言ったことを思い出していました。



「ど、どういうことですか?」

「君が出かけて、少し経ったところで、異常が起きた。薪だ」

「薪?」

 この国の冬は、もともと寒いのです。だから、何年もかけて薪を備蓄しているのです。今回のことは予想できないとしても、異常気象で森から木々が採れない場合や、冬が長く続いたことを想定してのことです。

「薪なら・・・。備蓄の分が、全国民が使用したとしても、後一年分は保存していたはずです」

「それが、全て使えなくなっているのだ。新しく森から切り出しても無駄だった。含まれている水分の量が突然変異か知らんが変化しているのだ。使おうとしても黒い煙が出るだけでちっとも部屋を暖めることができん」

「そ、そんな馬鹿な・・・・・・」

「君は不真面目かもしれんが、この状況が分からないわけでは無いだろう。このまま、放っておけば、この国は滅びる。どんな方法を使っても、それだけは避けなければいかん!!幸い原因は分かっておる!」

「原因って・・・。まさか・・・」

「黄の国だ。彼らが秋の女王様を塔から出さないことが原因だ!」

「それについては報告書に記述したはずです!!」

「君の報告書がすべて真実とは限らん!大体信じられんな!ペガサスだの!ユニコーンだの!残念だがすでに兵士たちは準備をしている!我が国の技術を結集すれば一週間以内に戦いは終わるだろう!」

「無理です!技術は上でも、あちらには我々の想像を超えた動物たちを兵士とするはずです!戦えば消耗戦になります!それに赤の国の問題もあります」

「あの岩山を挟んだ国になんの関係がある!まずは、黄の国だ!本日より、進行を開始する!!」

「聞いてください!赤の国は空を飛んでこちらに攻め入ることが出来る植物を開発しています。それを使って攻めてきます!それに戦争になれば青の国とも戦うことになります。青の国とは兵士個々の戦闘力が違いすぎます!一度戦争が始まれば取り返しがつきません!!」

「貴様と話すことは何もない!おい!誰か!この者を部屋から追い出せ!!」



 私は兵士さんに部屋から出されてしまいました。しかし、悲しんでいる場合ではありません。私は、走ってお城を出ました。私は、確かにサボりやかもしれません。不真面目だったかもしれません。図々しいかもしれません。

 でも、多くの人が傷つくかもしれないこの状況を見て見ぬふりをすることはできません。

「はぁはぁはぁはぁ」

 息を切らせて、走ります。こんなに一生懸命に走ったのはいつぶりでしょう。足が痛くて死にそうです。急に走ったせいで内臓やら肺もすごく痛みます。

 それでも、私は止まりませんでした。雪道を全力で、冬の女王様の塔へと向かいました。ここまで来たら、私には何もできません。女王様に頼るしかありません。もしかしたら、女王様は会ってくれないかもしれません。出会っても笑って話をはぐらかされてしまうかもしれません。

 それでも、私は信じたかったのです。お茶をしたとき、この国の冬の歴史を、人々の話をする女王様はとても楽しそうでした。それは、他の季節の女王様達も一緒でした。彼女たちはきっと人が好きなのだと私は信じていました。雪に足を取られて何回も転びます。それでも、足だけは止めません。



 

 ドンドンドンドン!!

「女王様!!女王様はいらっしゃいますか!!」

 ドンドン!ドンドン!

 塔に到着した私は、全力で扉を叩きます。この前は数秒で帰ってしまいましたが、今回は何時間でも待ちます。

 何回でも、この扉を叩きます。

「女王様!!女王様!!」

 ドンドンドン!ガチャ!!

「きゃあ!!」

 強く叩きすぎたせいで、扉が開いた拍子に私は塔に中に飛び込んでしましました。

「い、いたた・・・」

 私は、顔を上げます。そこには、冬の女王様がいました。

「大丈夫?」

 女王様は心配そうに私の顔を覗き込みます。

「じょ、女王様!!大変なんです!」

「大変!手が切れているじゃない!見せてみなさい」

 確かに、扉を強く叩きすぎたせいで手袋は破れてそこから皮膚が切れて血が出ています。

「そんなことはどうでもいいんです!早くしないと!!」

「そんなことでは無いわ。・・・大丈夫です。外交員のシロナ。なんにせよ手の治療を先に行います。手を見せなさい」

 そう言われると、何も言えませんでした。私は手を出します。女王様は優しく私の手に触れると手を離します。少しひやっとしたと思って手を見ると、傷が治っているだけではなく手袋まで治っていました。

「あ、ありがとうございます・・・。でも、緊急事態なんです!」

 



 私はこの国の現状を話しました。冬の女王様は終始、私の話を聞いてくださいました。

「このままでは、4つの国すべてが戦争を始めます!何とかしないと!それができるのは季節の女王様達だけです!!どうか助けてください!!」

 冬の女王様は静かにうなずきました。

「状況は分かりました・・・。でも、一つ間違いがあります」

「間違い・・・ですか?」

「この状況・・・。何とかできる人物がいるとしたら、それは私達ではなく貴方だけなのよ」

 そう言って、女王様は微笑むのでした。

「あなたに、渡すものがあります」

 そう言った女王様は、いつしか大きな箱を持っていました。箱を置いて、中を開けます。

「まず、兵隊のことは大丈夫です。今日の進行は無くなったでしょう」

「で、でも・・・」

「あなたは、赤の国に行きなさい。・・・これを使ってね」

 そう言って女王様は、私に種を渡しました。それは、ヘリポポの種のようでした。

「次にこれを」

 次に渡されたのはこの国の地図のようでした。

「これは?」

「この地図に書いてある木を切りなさい。薪として使えます。少しはこの国の開戦を遅らせてくれるでしょう」

「あ、ありがとうございます。これでなんとかなります」

 時間を稼いで、赤の国と交渉のチャンスができます。これで終わりかと思ったのですがまだ続きがある様子でした。

「次に・・・これを。」

 そう言って女王様は私にあるものを渡しました。

「えっ!?どうしてこんなものを?」

 それは、今全く必要性を感じないものでした。この国では、どこにでもあるものなのです。

「これをできる限り持っていきなさい。多ければ多いほど良いわ」

 そう言った女王様は、拒否できない雰囲気でした。

「わ、分かりました・・・」

「最後に・・・。外交員シロナ」

 その声はとても優しいのでした。

「こうやって会うのも、これが最後になるでしょう。あなたとは一度しか会ってないのにこういうことを言うのは変だけれどね。たった一度のお茶会もとても楽しかったわ。本当に感謝しているのよ」

「冬の女王様?それは、一体どういう―――」

 その時、塔の中に風が吹き込みました。私はたまらず目を閉じました。



「い、今のはいったい・・・・・・。えっ!?」

 目を開けると、そこには女王様の姿は無く、それどころか塔さえ無くなっていたのでした。

 残ったのは、女王様から渡された道具と、最後に見た女王様の笑顔だけでした。


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