王様からの業務依頼に関して
あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。 女王様たちは決められた期間、交替で塔に住むことになっています。 そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。
ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。 冬の女王様が塔に入ったままなのです。
辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。
困った王様はお触れを出しました。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。 ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。 季節を廻らせることを妨げてはならない。』
と、いうお触れが出てから数週間が経ちました。国中から我こそは、という人々が老若男女問わずに冬の女王様に交渉をしようとしましたが、結局成果は出ませんでした。また、旅の方にも頼んだりしていますが、それも成果なし。手詰まり、という状態です。
先日などは黒いスーツの男性がメイド姿の女性と交渉に向かい、なぜか交渉中に黒い巨大ロボットを召喚したとのことです。
・・・・・・何を言っているのか分からないですね。私もわかりません。頭がどうにかなりそうです。まぁ、結局どんな交渉自慢も冬の女王様を塔から移動させ、春の女王様を呼び込むことはできていない、ということでした。
まぁ、とりあえずは王様をはじめとした王国の上層部の方々には頑張ってもらいたいものです。ちなみに、私はこの国。『白の国』の外交員を務めています。シロナ、と言います。まぁ、国と国の間で交流があったのは、数百年も前の話なので、この国唯一の外交職に就いている唯一の外交員である私は大した仕事をしていません。
唯一認められている文学の交流、要するに本のやり取りを管理しているだけです。正確には、本を読んで感想文を報告書として提出だけですが。まぁ、読書が好きな私にとっては天職です。私は、自分の仕事を程よくやりながら悠々自適に日々を過ごすのでした。
・・・・・・そんなある日、私の仕事場である外交室の扉がノックされたのです。
コンコン
「・・・・・・」
コンコンコンコン
「・・・・・・」
ゴンゴン!ゴンゴン!
「・・・はーい」
ドアを開けるとそこには、白い髭をたくわえた。細身の男性、この国の王様が立っていました。
「あぁ、王様おはようございます」
私は王様にあいさつします。しかし、私のシャッキリしたあいさつに不満そうな表情です。
「相変わらず、いい根性しているね。君、この大変な時期に居眠りとは。それに今はもう昼時だ」
「いやはや、失礼なことをおっしゃらないでください。居眠りではありません。昨日徹夜で本を読んでいたのです。・・・・・・だから居眠りではなく、完全な睡眠です」
「・・・・・・本当にいい根性しているね」
王様はやれやれと言いながら、外交室に入ってきます。本を避けながら歩くのでフラフラしていますが。
「・・・・・・部屋を片付けなさい」
「・・・・・・えっ?どこをですか?」
「本を何冊も重ねて塔を作るなと言っているんだ」
王様は、部屋のところどころに建設された私の本のタワーや山を指さしながら話します。
「いや、これはこれでこの部屋の完成形です。寝転んでいながら、本を読めるように設計されているのですよ」
「・・・はぁ、とりあえずそのことはもういい」
王様はため息をつきながら、部屋の奥にある椅子に座りました。私もお茶の用意をしてその前に座ります。
この国の名産である。樹蜜入りの紅茶とクッキーを用意しながら私は尋ねます。
「で、私は忙しいのですが。今日はどのようなご用件で?」
「さっきまで居眠り・・・。完全に睡眠していた人物の発言とは思えないね。外交員、君はこの国現状をどう考えている?」
「はぁ・・・。別に・・・」
「別に!?この春が来ない現状で!?」
「私、インドア派なんで・・・。暖炉の火は落ち着きますし、別に困らないかぁー、と」
「・・・・・・」
王様の視線が怖いです。とっさに説明を加えます。
「春が来ないのは由々しき事態です。何とかしなければ!」
「・・・そうだ、春が来なければいずれ食べ物も尽きる」
「この時期に川からあがってくる魚も多いですけどね」
「・・・春が来なければ木々も枯れ果ててしまう」
「この国の植物は基本的に寒さには強いですけどね」
「・・・人々も困っている」
「私は困ってないですけどね」
「君ぃぃ!!真剣に考えているのかね!?」
「いや、すいません、つい・・・・・・。でも、季節のことはそれぞれの季節の女王様が管理されているので、それこそどうしようもないのでは?」
「・・・それだよ、私は連日この問題に関する会議で頭を悩ませている。各大臣たちも必死に走り回っている」
「はぁ・・・」
「先ほども会議があり、必死に情報を集めて対応策を考えていたのだよ」
「それはそれは、ご苦労様でした。・・・・・・肩でも揉みましょうか?」
「そんなものは要らん!それより会議で君の話題が出たのだ」
「えっ?この国を支える美人外交員として?」
「ちがうに決まっておろうが!!・・・・・・こほん、外交員、君はこの問題が判明してから何をしている?」
「本を読んでました」
「私たちが会議で頭を悩ませている時に?」
「本を読んでました」
「私たちが走り回っている間に?」
「本を読んでました。時々寝てました」
「・・・君ねぇ」
「だって、それが私の仕事ですし。国交が正常に結ばれていない以上、それしかできないじゃないですか」
だって、本当のことです。そんな仕事しかないから、ここ数百年私のような人間が外交員を務めてきたのです。
「・・・まぁ、君の仕事については理解しているつもりだ。しかし!若い女性の外交員が朝から晩まで部屋に閉じこもって悪いとは思わんのかね!」
「いや、別に」
私の発言にため息をつきながら王様が言います。
「はぁ・・・・・・。君のことを城の人々が、国民たちが、何と呼んでいるのか知っているかね?」
「・・・・・・大賢者?」
「なんでそうなる!?どっから出てきた?大賢者って!?」
「・・・・・・だったら、クールビューティー?」
「だから、なんでそうポジティブなのだ!どこがクールなのだね!?どこがビューティーなのだね!?」
「そんな!今の発言はセクハラですよ!セクハラ王として今後の国史に名前が残りますよ」
「えぇい!良いか!?人々は『引きこもり外交員』『サボり魔』『給料泥棒』『ヒッキーシロナ』などと呼んでいるのだよ!」
「え?なんですかその呼び名?私がそんな風に呼ばれていたらショックを受けちゃいますよ。あははは」
「君の!!ことだ!!さらに、『貧乳』とも呼ばれている!」
王様が大声で叫ぶので耳がキーンとなりました。すごい剣幕です。
・・・でも、最後のはただの悪口では?セクハラ発言では?確かに大きくはありませんが・・・。王様は続けて言いました。
「先ほどの会議で君の仕事内容が大問題になった!この『冬の女王様が塔を移らなくて、さらに春の女王様が来ないので春が来なくて白の国寒くてやばい問題』略して『春が来ない問題』は君を担当とする!」
その名称は初めて知りました。・・・誰が考えたんですか、この正式名称。
「塔に向かって王女に会い、塔を空けるように交渉したまえ!以上!!」
そう言うと、王様は外交員室を出ていきました。
これが、私の面倒な仕事の始まりとなったのでした。
ただ、その日はやる気が起きなかったので、私は部屋に特別に運び込んだベッドで眠りにつくのでした。