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さみしいけど、さようなら  作者: 六笠はな
5/10

昼下がりの宵闇



僕は夢を見ていた。

雨が降っている中、傘もささず僕は大きな川の畔に女の子と立っていた。

そして橋を渡って対岸へ進もうとする彼女を僕はなぜか必死に止めていた。

しかし、彼女は「大丈夫」と笑い、僕の手を振りほどいて向こう岸へ渡って行った。

何故か僕はその後を追って行けずに、ただ泣きながらそこに立ち尽くしていた。


目が覚め、それが夢であったことを知った僕は安心し、そしてこれが何かの前触れなのかと勘ぐってしまった。

あの女の子が誰だったのか、それは全く分からなかった。


意識が朦朧としながらも携帯を覗き込む。

相変わらず唯からの連絡は来ていなかった。

時間が8時半を過ぎていたことに焦ったけど、今日から学校が休校になっていたことに気付きホッとした。


とりあえず部屋着を着替え、リビングに降りて行った。

父も母ももう仕事に行っていたので、作り置いてあった朝食をとりながらニュースを見ていた。

もうすでに全国にアカガミが届けられ、亡くなることが決まった人の人数が2億人を超えたとアナウンサーが伝えていた。

現在は反対運動もほとんど起きていないらしい。

革命を夢見た人々も圧倒的な権力、圧力の前では無力だと思い始めてしまったのだろうか。

そんなニュースが続き、偉そうな人があーでもない、こーでもないと論議を交わしているのを見続ける気になれず、テレビを消した。


ともかく僕の心境としては、なによりも唯のことが気がかりで仕方なかった。

とりあえず会いに行ってみよう。話はそれからだ。

朝食を済ませ、歯を磨いて出かける準備をした。

その時になっても唯から返信は無かったので、一応今から唯の家に向かうと連絡を入れ、家を出た。

唯の家はうちから歩いて30分ほどの住宅街にあった。



町を歩いていると、心なしかこの町自体もいつもより活気がないように思えた。

僕は周りに対しての心配でいっぱいいっぱいだったけど顔をあげてみると、この国にいる人全てに矛は向けられているということを思い出した。


犬を連れているおじいさんおばあさん。


職場へ向かうサラリーマン。


子供を幼稚園へ連れていくお母さん。


みんな誰かの死を背負っているのかもしれないと思うと

僕より辛い人はきっと沢山いて、それでも前を向いているんだと気付いた。

だけど尊厳死案が無かったとしても僕が知らないだけで、

誰かは、大切な人の死を背負っている人はいるのかもしれない。

なんとも言葉にし難い気持ちだったけど、ただ今は僕に出来ることを。


唯の家への道を半分ほど進んだころだっただろうか、携帯に唯から着信が入った。

「もしもし瑞希?連絡くれてたのにごめんね、バタバタしてて。」

「あ、うん。ちょっと心配でさ。大丈夫?」

「うん、大丈夫だよありがと。でもちょっと今うち都合悪くて。港の近くのちっちゃい公園あるじゃん?そこ向かうからそこでもいい?」

「わかった。今からそっち向かうね。あ、急がなくていいから気を付けてね」

「ありがと!じゃあ、あとでね」

ということだったので方向を転換し、海沿いの道へ出て公園に向かった。


公園に着いたのは僕の方が早くて、ベンチに腰掛けて読書をすることにした。

それから10分ほど経って唯が来た。

「ごめんー。待った?」

「ううん、僕も今来たとこだよ。」

唯はあー疲れた。と言いながら僕の横に腰掛けた。

「ごめんね。ほんと心配かけちゃって。」

「ううん、何事も無かったならよかった。」

唯は僕の言葉に反応し、複雑な表情を浮かべていた。


さっきの電話の声を聞いてから、正直僕は安心しきっていた。

いつも通りの元気な唯だ。

昨日はきっと、いつものように体調を崩してしまっていたんだろう、と。

だけど、唯がそんな表情をした瞬間、悪い予感が胸をよぎった。


ついこの間まで暑いくらいだった潮風が、もう冷たく、そして強くなっていることに気付いた。



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