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思い付いた話

幼さ故の

作者: 雨森しと

雨傘は怒っていた。だって怒られるなんて思わなかった‼

さっき夜々と機刻の前で2メートルくらいの高さから飛び降りて見せたのだ。正義のヒーローのようにひらりと、かっこよく。

絶対に「すごい‼」と誉めてもらえると思ったのに。

夜々の口から出たのは「なにしてるの‼危ないでしょう‼」だった。

初めて見る夜々怒った顔と、理不尽に怒られたという思いが、雨傘の両目に涙の玉を作った。

涙が目から溢れる前に雨傘は夜々から逃げた。

「あっ、雨傘‼」


ひたすら走ってここがどこかわからなくなってしまった頃。いつのまにか日が傾いて、太陽が真っ赤になっていた頃。

「やぁ、お嬢さん。そんな顔してどうしたんだい?」

男の人に声をかけられた。シルクハットを被ったお兄さん。

悪の組織の参謀さんみたい、と雨傘は少し警戒した。

「ほら、飴ちゃんあげるから話してごらん?」

お兄さんはポケットからキャンディを一つ取って雨傘に差し出した。

「……ありがとッ‼」

前言撤回。いい人だ‼

「歩きながら話そうか」

もらった飴口のなかで転がしながら雨傘はさっきのことを話しだした。

すごい高さからかっこよく飛び降りたこと。夜々に怒られたこと。走ってここまで来たこと。実は帰り道がわからないこと。

「なるほど。それは大変だったねぇ」

「そうだよッ!!うさはかっこよかったのに夜々は怒ったんだよッ!!もうあんな家帰らないよッ!!」

ぷんすか。

「まぁまぁ、そう怒らないで。ほら、もう一つあげるから」

お兄さんはまた一つ、こんどは棒つき飴をポケットから取り出した。

「ありがとッ‼……えと……」

「ん?」

「名前なんていうのッ!!?」

「あぁ……ジャックでいいよ」

「ありがとうジャックッ!!」

つつみをべりっと雑に開け、口に入れる。いちご味だ。

ジャックが話しかけてこないので飴の味を堪能する。

ときどきちらっとジャックを見ると鼻歌を歌っていた。

「つーいた‼」

ジャックは一軒の家の前で止まった。

「……ここどこ?」

「俺の家さ‼うさちゃん家に帰らないんだろう?」

さ、どうぞ、とジャックが家のドアを開けた。中から光が漏れた。

「やぁ、おかえりジャック」

中には人がいた。お姉さんだった。

優しそうだけど、魔女の格好をしていた。

「君がうさちゃんだね。よろしく。ランタンだよ」

「うさだよッ!!よろしくだよッ!!」

握手を交わす二人。

「家出してきたんだって?お腹すいてない?」

飴を転がしていたとはいえ夕飯時。雨傘のお腹がきゅるると鳴った。

「あはは。いい返事だね。ご飯にしよう‼」

ランタンは台所に引っ込んだ。

ほどなくして、美味しそうな匂いを漂わせる数々の料理が並んだ。

雨傘とジャックとランタンがそれぞれ椅子に座る。席が二つ余った。

「ランタン、他の人は?」

「まだ、シャーロットの家だよ」

「……じゃぁ、先に食べちゃおう‼」

ジャックがいただきますの号令をかけた。

「いただきますッ‼」

雨傘は手始めに一番近くにあったおかずに手をつける。

「おいしいッ!!」

次、次、と箸が進む。

夜々の料理に負けるとも劣らず、とても美味しかった。

ご飯の後は三人で遊んだ。トランプ、お絵描き、しりとり。

二人は優しくて、怒らなくて、ずっとここにいたくなる程楽しかった。あんな家に帰らないでここにいたい‼

「うさここに住むッ‼」

「「えっ‼?」」

「ずっと家に帰らないッ‼ここにいるッ‼」

ジャックとランタンは目を合わせて すこし困った顔をした。

「じゃぁ、こうしよう」

ジャックが言った。

「ん?」

「俺達が出すクイズに全部正解できたら、ここにいてもいいよ」

クイズ‼また楽しそうだ‼

「いいよッ‼全部正解するよッ!!」

ふんすっ。

「よし。では第一問‼……ランタン合いの手‼」

「え……ででんっ……」

「きときちゃんの一人称は、どうして"我"なんでしょう?」

いちにんしょう?雨傘は首を傾げる。

「いちにんしょうってなにッ!!?」

「一人称っていうのは、自分の呼び方だよ。私とか、俺とか、うさちゃんならうさ、だね」

ランタンが教えてくれた。なるほど。それなら簡単だ‼機刻は双子のお姉ちゃんなのだから‼

「それはねッ!!うさがそう決めたからだよッ!!戦いごっこの悪役は自分のこと我って言うんだよッ!!」

そう。小さい頃にやっていた戦いごっこでいつも雨傘はヒーロー、機刻は悪役をやっていた。機刻は特に嫌がることもなく、むしろのりのりであった。これ本当(本人談)

「そうだったのか‼……じゃなくて。正解‼こほん。次‼第二問‼」

「……ででんっ」

「ややくんの得意料理は?」

これも簡単だ‼

「シチューッ!!」

びしっと指を突きだして自信ありげに答える。

「へぇ‼……じゃぁなくて‼正解‼正解だよ‼」

やった‼

「ラスト‼第三問‼」

「ででんっ。ややちゃんはどうしてうさちゃんを叱ったのでしょう?」

「あっ‼ちょっ‼俺の役目‼」

え……?雨傘にはわからなかった。わからなかったからこそこうして家出をしているのだ。理不尽に怒られた。雨傘はそう思ってる。

「……わからないよッ……」

雨傘は小さく呟いた。

「うさちゃん不正解。ランタン、解説を」

「うん。ややちゃんはね、うさちゃんのことを心配して怒ったんだよ」

「えッ!!?」

「もしややちゃんが高いところから飛んで、怪我をしたらうさちゃんどう思うかな?」

「悲しいよッ!!」

「でしょう?ややちゃんもうさちゃんが怪我をしたら悲しいんだよ。心配なんだよ。だから怒ったんだ」

「……」

トントン。その時ドアがノックされた。

「うさちゃんは全問正解できなかったから、ここにはいられない」

ジャックが言った。

「それにお迎えが来たみたいだしね。ランタン、開けてあげて」

ランタンがドアを開ける。

「雨傘‼」

部屋に駆け込んできた人にに抱き締められた。夜々だった。

「……心配したですよ」

機刻もいた。後ろから抱きつかれた。

「ずっと探したんだから‼」

無事でよかった、ともっと強く抱き締められる。

「ごめ……なさ……ッ……い」

二人の姉にサンドイッチにされた雨傘は、顔を涙でぐちゃぐちゃにしながらなんとかそれだけを言った。

こういうの苦手だぁぁぁぁぁぁぁぁ‼

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