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The Story of ‘Zeit’.

この部屋(くに)の王様。

作者: 彼方わた雨

 この部屋はあなただけの王国。


 あなたの思い通り、あなたが望むままに私たちを使っていいのです。






 そう、ここではあなたが王様。








 少年は新しいものが好きだ。新しいおもちゃはとても好きだ。少年にとっておもちゃは遊び道具、そして、コレクション。

 これだけ新しいもの、多くのものがあるという事が少年の自慢なのだ。眺めているのもいい、遊んでみるのもいい。少年にとって、宝箱のような部屋である。


 今日も少年は新しいおもちゃを手に入れることができた。

 それは、顔のない人形。この寒い時期に合わせて、ニット帽とマフラーをしている人形だ。大きさはさほど大きくなく、だいたい2、30センチくらいだった。


 顔はないのにどこか、見つめられているような感覚になる不思議な人形。

 少年はそんな不思議な感覚が新鮮でついつい手を伸ばし、父親に買って欲しいと頼んだのだ。父親もその願いを聞き、買ったのだった。


「……扱いにはお気をつけください」


 丁寧に包まれた人形を渡され、少年はそれを大事に抱えた。帰り道、早く遊びたくてたまらなかった。




 ニコニコと新しいおもちゃを見つめながら、おもちゃがいっぱい詰まった少年の部屋に行く。

 部屋には、ロボット、ぬいぐるみ、ぜんまい式人形、パペット、車、飛行機、剣、そのほかいろいろなおもちゃがあった。

 顔のない人形と他の人形を取り出してきて少年は遊び始めた。

 人形を動かして遊ぶ少年。


「あなたが新入りね」

「はじめまして、私──」




 ──ツァイトと言うの




「……え」


 少年が人形に声を当てて話しながら遊んでいるとどこからか声が聞こえた。

 少年はきょろきょろと部屋を見渡すが、部屋の中には少年しかいない。いったいどこから聞こえたのか、少年は考えたが、もしかしたら聞き間違いかもしれないと遊びを再開した。


「今日からよろしくね」

「ええ、こちらこそ」

「あなたはどこから来たの?」




 ──あらあら、私の声が聞こえているんでしょ?




 またもや聞こえてくる声に少年はびっくりする。また、部屋中を見てみるが、誰もいない。


 ──目の前にいるじゃない。ねぇ?


 少年は目の前にあるものを見た。

 少年の手にあるのは、新しい人形。その人形もこちらをじっと見つめている気がした。


 ──そうよ、私。やぁっと分かってくれたのね


「……本当に、しゃべっているの?」


 恐る恐る、少年が話しかけると、人形はクスクスと笑った。

 少年は確認のためほっぺたをぎゅっと摘まんでひっぱった。それは確かに痛く、現実に起こっていることだと思うしかなかった。


 ──本当よ

「……すごいね、すごいすごい!!」


 人形が話すなど聞いたことがない少年は、初め恐れもしたが、今は優越感が心を満たしていた。

 こんな人形他の人は持っていない。自分だけでないかと思うほど少年は嬉しくなった。


「こんな事初めてだ! 嬉しいよ、僕!」

 ──あらら、喜んでくれて嬉しいわ。ねぇ、名前を教えて?

「名前? アインだよ。君はツァイトでいいんだよね?」

 ──ええ、そうよ。これからよろしくね、アイン


 少年はツァイトにたくさんのことを聞きたくなった。

 なぜ話せるのか、誰が作ったのか、名前の由来は何か、いろいろ質問した。その質問を聞く度にツァイトはクスクスと笑っていた。


 ──私にも分からないの。気が付いたらこういう事だったのよ? あとね、アイン以外の人は私の声が聞けないから気をつけてね

「どうして僕だけ?」

 ──あなたが、主人だからよ。ねぇ、私からも質問いいかしら?

「いいよ」


 少年は人形用の椅子の上にツァイトをちょこんと座らせ、自分はその前に体育座りした。


 ──この部屋のおもちゃは、全部アインの?

「そうだよ! すごいでしょ!? たーくさんあるのが僕の自慢なの!」


 少年は目を輝かせ、声のトーンを上げて話した。それを見てツァイトはクスクスと笑う。

 少年はひとつひとつどんなおもちゃかを話し始めるが、長くなりそうだと思ったツァイトはそれを遮る。


 ──……すごいわね。まるでここはあなたの国ね

「……僕の、国?」


 ツァイトの前で首を傾げる少年。


 ──ええ、この部屋はあなたの国。そうなると、あなたは国王様かしら。この部屋のおもちゃはあなたの意のまま。あなたがしたいようになるの。ね、アインは王様みたいでしょ?


(……僕が、王様)


 ぐるっと一周部屋を見た少年。

 目に映るのは自分が集めた、気に入ったおもちゃたち。それらは少年が遊んでくれるのを今か今かと待っている。

 少年の意志でおもちゃは悪者にでもヒーローにでもなることができる。


「王様……みたいだね!」

 ──そう、ここではアインが王様よ



 それから、少年は王様になった。

 おもちゃたちを使う、王様。それを知ってからというもの少年はより楽しそうに遊んでいた。おもちゃはいつでも自分を待っており、王様である自分が意のままに出来る。

 少年はおもちゃたちと遊び、おもちゃたちを増やしていった。


 ──新入り? 王様はすごいですね。どんどん仲間を増やしていく

「えへへ、すごいでしょ?」


 増えていくおもちゃは王様の力の強さ。

 そして、王様の自慢。


 増えていくおもちゃは自分のためだけにある。だから、少年の事を拒んだりしない。

 少年は好きなように遊び、おもちゃたちを使って楽しく過ごした。


「僕の部屋にはおもちゃがいっぱいあるんだよ」

「見てみたーい! アインくん今度遊びに行っていい?」

「いいよ」


 学校で自慢話。

 そして、驚く顔をする人たちを見て、少年は誇らしくなるのだった。




「今日もね、新しいおもちゃを──」

「また、自慢話かよ。おもちゃよりもさ、外行って遊ぼうぜ!」


 少年は1人残された。


 学校での自慢話。


 だんだんと、自慢話に飽きてきてしまったクラスメイトたちは外で遊んでいた。

 雪合戦に鬼ごっこ。おもちゃがなくてみできる遊び。


 少年は外を見つめた。




 少年は前よりもさらにおもちゃを集めていた。


「……外に奴らは分かんないんだ。言うことも聞かないし」


 ふてくされている少年がおかしくて、ツァイトはまたクスクスと笑う。


 ──心配しないで、ここではアインが王様。何でも言うことを聞いてくれるし、あなたを待っているわ

「僕が王様なんだ」



 おもちゃはいつしか、あふれていった。



 学校で外ばかりを見つめている少年。

 楽しげな声は少年のもとにまで届くが、少年はただ見ているだけだった。


(……僕は王様だぞ)





 ──ねぇ、アイン。私と遊んではくれないの?

「僕が王様だ! 言うことを聞け!」


 ツァイトがクスクスと笑う。


 ──イライラしちゃって、どうしたの?

「……僕は王様なのに」




 ──外の子たち? 外なんて気にしないで。ここにいればいつだって王様、よ?



















「アイン、今日も出てこないぞ……」

「心配ね、どうしたのかしらあの子……」











 そう、ここではあなたが王様。




 私たちだけの王様。




 だから、




 ずっと、ずっと




 ここにいて。




 あなたの意のままに。




 ここでは誰も逆らわないわ。




 私たちはあなたに尽くす。




 だから、アインは国のために尽くす。




 こんなにいっぱい国民が増えたの。




 全員に構ってあげてよね。




 それが、王様でしょ?






 ね、アイン?







 クスクスと笑い声が聞こえた気がした。





〈終〉


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