運命の時
現在マルスは小学校の体育館にいた。日時は3月1日。そう、今日は小学校の卒業式である。ガキ大将をボコボコにした日から、マルスは至って平和な日々を過ごした。運動会や文化祭といったイベントもそつなくこなし、何かと楽しい小学校生活を送った。卒業式が終わってからも、マルス自身は特にすることもなく真っ直ぐ家へと帰ろうとした。しかし、そんなマルスを止める声があった。
「ねぇ、曇君。少し待って」
マルスの幼馴染の華凛である。
「華凛か、どうしたのじゃ?」
「話があるの。10分後ぐらいに校舎の2階の2年B組の教室に来てくれない?」
「わかった。また後での」
そう言ってマルスは歩む向きを変えた。華凛はと言うと再び話していた女子たちの下へと向かった。
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「ごめん、待った?」
そう言って待ち時間の少し前に華凛はやって来た。
「気にするでない。わしはやることが少ないからの。して、どうしたのじゃ?」
「ここ、懐かしいよね」
不意に華凛が懐かしむように語り出す。
「覚えてる?この教室から今の5人が始まったんだよ?最初は3人だったけど……今では最高の親友だよ」
5人とは、マルス、華凛、真、高志、美亜の事を指す。美亜と高志は3年生の頃からマルスたちと話すようになったのである。
「うむ、今では約4年前の話になるな。親友な点には同意じゃな」
「曇君、私との約束覚えてる?」
「約束?ふむ……今わしの中には思い当たる節が約3つほど思い浮かぶのー」
「その3つ教えて?」
「うむ。まず1つ目は小学校に入ってばかりの一緒に学校に行こうと言う約束、2つ目はガキ大将の時のわしは無事に戻るから安心して待っておれと言う約束、最後は……華凛のお嫁さんにすることを考えておくと言う約束かのー」
マルスは一つ一つ思い出すように告げた。そして最後の約束の事を聞いた途端華凛はピクリと体が反応した。
「覚えててくれたんだね……私、嬉しいよ。曇君、やっぱりね、私曇君の事大好き。5歳の頃から変わらず曇君の事が好き。いつも優しくて色々知ってて……そして私を守ってくれる曇君が好き。今の親友の関係じゃ嫌だよ……虚しいよ。曇君、私の事一番近くで幸せにして?」
華凛は恥ずかしがるように己の気持ちの全てを曇に告げる。どこか怪しい雰囲気があるが曇は特に迷わなかった。
「華凛よ。最後に問いたい。本当にわしで良いのじゃな?」
「私は、良いよ。むしろ、曇君じゃないと嫌だ」
「そうか。だったらわしから言う事はないの。華凛、先程の申し出受けさせて貰うのじゃ。これからよろしく頼むの?」
「ほ、本当に?やったーー!」
曇が告白に了承した途端、今までに見たことない程嬉しい顔を思い浮かべる華凛
「えへへへ、曇君が私の彼氏……ふふふふふ」
「あー、その華凛よ。どうせならわしの事は曇と呼んではくれぬか?」
「あ、そうだね!もう私たち恋人だもんね!うん、わかった!曇、これからもよろしくね!」
「うむ、それでは帰るとするかの」
こうしてマルスと華凛は仲睦まじく帰って行った。
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さて、卒業式が終わってからは、短い期間ではあるが春休みである。そんな春休みのとある日、マルスは隣町の本屋に来ていた。マルスの住んでいる付近には本屋と言う物が遠く、尚且つそこまで大きくないのである。そしてその本屋には小説や文庫本、参考書と言ったものしか置いておらず、漫画やライトノベルと言ったものは隣町の大きな本屋へと行く必要があった。
そんな隣町の本屋へと着いたマルスはここで運命の出会いを果たすのであった。そう、ライトノベルと漫画である。小学校の頃は基本的に自らの学力の向上にしか興味がなく、俗にいうがり勉に近かったマルスは当然の如く漫画やライトノベルの存在を人伝にしか知らなかった。そして、その現物が目の前にある。マルスが選んだものは某狐が封印された少年忍者が里一番の忍者になることを目指す漫画で、マルスはその作品に魔法の発展のヒントを見つけた。がり勉だったマルスは小学校の頃ほとんどお金を使わなかったので、気が付けば月500円の少ないお小遣いで2万円近くのお金を持っていた。もちろんマルスはその漫画を全巻まとめて買って、残ったお金で某ネットの小説サイトから書籍化した異世界転生物のライトノベルを購入した。
そんなマルスが漫画とライトノベルに出会った1週間後、マルスは俗にいう『オタク』になっていた。
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