バッシブスキルは不運でした--死亡フラグから身を守れ--
『もうひとつの人生を送ってみませんか?』
それはやたらとリアルな人生体験ゲームVRMMO「アナザーワールド」のキャッチフレーズだった。
このゲームはどこの誰が作ったのかわからない謎のゲームで、全世界に無料配布されている。
ゲーム接続用サーバーは膨大な数にのぼり、とても個人が作ったものとは思えない。
課金されるのはせいぜいネットワーク接続代金だけ。まったく一文の特にもならないことを企業が行うだろうか?
更にもうひとつこのゲームに謎がある。
ゲーム内にカルマLvというものがある。
このLvが一定の値を超えるとプレイヤーあてに賞金が送られてくるのだ。
「アナザーワールド」情報大手サイトにはその賞金額が乗っている。
Lv5 --- 千円
Lv10--- 5千円
Lv20--- 5万円
Lv50---100万円
Lv100-- 20億円
「アナザーワールド」が配布された初日に、賞金について一斉にゲーム内でシステム表示がされたらしい。
実際にヘビーユーザー達がLv20の賞金5万円を、手にいれたという報告が相次いでいる。
ゲームが突然ネット上に配布されて一カ月。
無課金で賞金がもらえるゲーム「アナザーワールド」は爆発的にユーザー数を増やしていった。
高梨由真は、今年大学2年になる19才で、友人からの勧めで「アナザーワールド」を今日から始めてみようと考えていた。
きっかけは夏休みにためたバイト代で友人とショッピングをしていたときのことだ。
靴も欲しいし鞄も欲しい。買いたいものがいっぱいあった。
ほくほく顔で欲しかった靴と鞄を手にし、おつりと一緒に景品抽選券を手に入れた。
その抽選券でゲーム機が当たったのだ。
3Dゲームならやったことがあるのだけど、VRMMOはゲーム機やソフトの値段が高額なので手を出したことがなかったのだ。
ゲーム機が当たったのはいいのだが、ゲームソフトを買うお金などない。
そのまま中古屋に売り払おうかと思っていたのだが、友人から無料で遊べるゲームがあると強く勧められたのだ。
説明書を見ながら由真はゲーム機を起動させる。
すぐにネットにつながったことを確認し、「アナザーワールド」のダウンロードを始める。
ゲーム自体のプログラムはサーバー上に展開されているらしく、一瞬でダウンロードが終わる。
頭にバーチャルヘッドをつけ、由真はベットの上にごろりと横になる。
「ゲームスタート。」
そうつぶやくと一瞬のうちに仮想サーバーに接続され、由真は宇宙空間のようなステージに強制移動させられる。
「綺麗・・・」
目の前に広がるミルキーウェイを眺めながら、由真はゆっくりとその空間を眺める。
『「アナザーワールド」にようこそ。私はゲームナビゲーターです。』
どこからともなく機械的な女性の声が聞こえてくる。
『「アナザーワールド」は人生体験ゲームです。あなたはこのゲーム内で一人の人間として生活していくことになります。』
『最初にお断りしておきます。あなたがこのゲームで体験するキャラクターの設定は、他のゲームのようにキャラクター作成はございません。全てこちらでランダムに決定させていただきます。
また、このゲームでは複数キャラクターの作成はできません。こちらでランダムで決定したキャラクターが死亡するまでは新しいキャラクターをあなたに割り当てることはありません。
キャラクターが死亡する前にゲームを脱退することは可能です。
ただし、一度脱退宣言されますと本ゲームに二度とログインできません。
それでもよろしいでしょうか?』
「はい。」
由真はそう答える。
興味本位で始めるだけだし、飽きたら脱退すればいいだけのことだ。
由真がそう答えると目の前の景色が宇宙空間から室内に風景が変わる。
そこは広い応接室のようだ。
ベージュ色のソファにガラスのテーブル。
テーブルの上には一客のティーセットが置かれている。
壁には数個の観葉植物と大きな絵が一枚飾られている。
その絵は宇宙からみた地球なのだろうか。
青い球体に白い雲がかかり、広い宇宙の中に浮かんでいる。
『どうぞおかけください。飲物はご自由にどうぞ。』
声をかけられ、由真はソファに座る。
ソファの感触が伝わってくる。
まるで普通にソファに座ったときと同じ感覚だ。
初めてVRMMOを体験する由真は、現実と差異がない感覚表現に驚く。
味覚はどうなのだろう?
気になったので、ティーポットからカップに紅茶を注いで飲んでみる。
顔にあたる湯気に、豊かな紅茶の香り。味もまさに紅茶の味だった。
『それでは、簡単に「アナザーワールド」についてご説明をさせていただきます。
これからランダムに選ばれるキャラクターになりきって人生を過ごしていただきます。
「アナザーワールド」はこの地球のパラレルワールドとなっており、現在の地球と類似してる世界です。ただ、地球とは大きく異なる点が2点ございます。
1点目は「技能」というものを誰もが持っています。「技能」は生まれ持ったものと「アナザーワールド」の中で取得可能が「技能」があります。
「技能」は文字のごとく、技能を現しています。「人より足が速い」、「嗅覚に鋭い」といった一般的なものから様々なものがございます。
なお、生まれ持った「技能」は最初の設定時にランダムで設定されます。
2点目は「アナザーワールド」は決して平穏な世界ではないということです。「アナザーワールド」は隣接した別世界との境界膜が薄く、たびたび別世界から「異界悪魔」と呼ばれる異形が侵略のために紛れ込む世界です。
ログイン直後は基本は「異界悪魔」から逃げていただいたほうがよろしいでしょう。初期カルマLvでは勝つことは無理です。』
スキルとはよくゲームに出てくるものなのだろう。
異界悪魔という不気味な異形というものが、ちょっと気になるが・・・
カルマLvというのは友人から聞いていた例の賞金に関係するものだ。
『カルマLvは初期Lvは1となります。カルマLvが上がりますと、ひとつ新しい技能を覚えることができます。
カルマLvを上げるのは3つの方法がございます。
ひとつはただ「アナザーワールド」の中で過ごすことです。
「アナザーワールド」内での1日過ごすだけで、カルマLvを上げるための経験値が増えます。
だだその経験値は微量で、Lv2に上がるまでゲーム内時間でおよそ20日ほど過ごしていただく必要があります。
ゲームの中の時間の流れは現実の時間のおよそ1/6です。現実の4時間が「アナザーワールド」での1日の時間になります。
1日に本ゲームにログイン可能時間は8時間までとなっています。8時間を過ぎたところで自動的にログアウトされます。
カルマLvが上がれば上がるほど必要な経験値は増えますので、Lv3にあげるにはさらに多くの日数を「アナザーワールド」で過ごしていただく必要があります。
二つ目の方法はクエストと呼ばれる依頼を達成すると経験値が増えます。
クエストの難易度により報酬として増える経験値は変わります。
クエストは基本自動的に発生します。クエストを受けるか受けないかは選択可能です。
最後の方法は異界悪魔を倒すことで経験値が入ります。倒した異界悪魔の種別により、入る経験値は異なります。』
一旦説明の声が途切れる。
由真はお茶をゆっくりと飲み続きを待つ。
『・・・お待たせして失礼しました。以上で説明は終わりになります。』
しばらく待つと、先程までの淡々とした声に多少狼狽の色が混じった声が聞こえてくる。
正直ゲームの説明で待たされるとは思っていなかった。
サーバーが混んでいたのだろうか?
由真は首を傾げる。
『「アナザーワールド」内で「オープンメニューウィンドウ」と言葉を発していただくと、今ご説明させていただいた内容が記されているチュートリアルやスキルの説明等が表示されます。ご活用ください。
それではキャラクターとスキルの設定を行います。
壁にかかっている絵に触れてください。』
由真は席をたち、例の地球の絵を触れる。
突如その地球から青白い閃光が放たれる。
「なっ!」
由真は目をぎゅっとつぶりながら呻く。
絵を触っていた手がぐにゃりと絵の中にずぶずぶと埋まっていく。
それと同時にひどいめまいが由真を襲う。
『それではよい人生を!』
遠くにナビゲーターの声がおぼろげに聞こえた。そのまま由真の意識はブラックアウトした。
■由真 side■
「ん・・・」
私は低く呻きながら、ゆっくりと目を開ける。
ひどいめまいも青白い閃光も収まっている。
見えるのは見知らぬ白い天井だった。
しばらくぼぉっと天井を眺めたあと、部屋の中を確認する。
自分の隣には点滴、その隣には豪奢な蘭のが花瓶が置いてある棚がある。
他に人の気配はない。
部屋の中は消毒など病院特有のにおいが立ち込めている。
ここは病院なのだろうか?
たぶん、「アナザーワールド」の中のはずだ。
状況が全くわからないのが不安なので、私はメニューウィンドウで確認してみることする。
「オープン、メニューウィンドウ。」
そうつぶやくと、目の前の空間にウィンドウ表示がされる。
私はベットに寝たまま腕を上げてウィンドウボタンを押す。
すぐにキャラクター設定というカテゴリを見つける。
正直今の自分がなんという名前で、どういう人物かがわからないと不安でたまらなくなる。
キャラクター設定というボタンを押すと、別ウィンドウで大量の文字が出てくる。
名前:凰華・R・スペンサー・紗枝木
年齢:18
性別: 女
国籍:日本
職業: 大学生
家族構成:父、母、兄。
人生をやり直すといった割には中途半端な年齢だった。ほぼ実年齢に近い。
事前に読んだ「アナザーワールド」の投稿サイトではほとんどの人が6歳くらいからゲーム開始になっていた。
そこまで読んだところで、誰かがこの部屋の中に入ってきた。
私はびくりと体を震わせ、その闖入者を確認する。
部屋に入ってきた人は、白い白衣を着た医者のような格好をした30歳くらいのひょろりとした男性だった。
「お目覚めになりましたか?」
彼は私に向かって穏やかに微笑み、「ちょっと失礼しますね。」といって私の腕をとり脈を計る。
ひんやりした手が少し気持ちがいい。
「ここは病院?私なにか体が悪いの?」
私は不安になり、彼に尋ねる。
「2、3日休まれていただけですよ。体にはなにも異常はありません。今すぐご自宅に戻ることは可能です。戻られますか?」
彼は私を安心させようとまた微笑む。
体が動くなら寝ていることはない。
「では帰ります。」
私は即座に答える。
そして自分が発した声に違和感を感じる。
軽やかで可愛らしい女の子の声だ。普段の私は女の子にしてはやや声が低い。
憧れていた可愛らしい声に少し浮かれる。
それが顔に出ていたのだろう。白衣の男性がしげしげと真顔で私の顔を覗き込む。
「なにか?」
声は可愛いのだけど、顔はいまいちなのだろうか。
こんなに人から顔をまじまじと見られたことがない私は少し不快になる。
普段の私はどこにでもいる顔立ちで、人がいっぱいいるとことでは埋没してしまう。
いわゆる没個性というやつだ。
そんな私の顔をじろじろと見る人間はいない。
彼は慌てて私から視線をそらすと、「それではご家族の方をお呼びしますね。」といってそそくさと部屋を出ていった。
慌てて逃げるほどひどい顔なのだろうか。
私は気分がめいる。
体には異常がないとのことだったので、私はベットから起き上がる。
パジャマではなくライトグリーンの検査着をきていた。
ベットの横におかれていたスリッパをはき、部屋の中にある洗面台へと向かう。
安っぽいものではなく、いかにもホテルにあるきれいな洗面台だ。
私は鏡をじっと覗き込む。
「ほぁわー!」
意味不明な言葉を発し私は食い入るように鏡に映る自分自身の姿に見とれる。
だって、鏡の中には見たこともない美少女がいたのだ。
肩の下までながれる真っ直ぐな黒髪に、形の整ったきれいなカーブを描く眉毛。バサバサのまつ毛に縁どられたつぶらな大きな瞳。鼻は少し高めで小さく、そしてウル艶なピンク色の唇。
体は全体的にほっそりとしてどちらかというと小柄。華奢な美少女といった風情だ。
それなのに胸はそれなりにある。
目を何回もパチパチと瞬かせ、「ヘアピン何本のるの?このまつ毛。」と思わずつぶやいてしまう。
つけまつげではないかと疑い、まつ毛を触ってみるがどうみても直毛だ。
肌にはシミや吹き出物など一切ない。頬を触ってやたらとすべすべする白い肌を堪能する。
十分に顔を鑑賞したあと、とりあえず近くにあった応接セットの皮張りのソファに座る。
とりあえず家族が迎えに来るまでに、自分のキャラクターについて知っておく必要がある。
「オープンメニューウィンドウ。」
私は再度キャラクター設定欄を開きその中を確認する。
ずらずらと結構長い文章が書かれているので要約すると以下の通りだった。
父親は世界有数の紗枝木コンツェルン社長。母親はアメリカのスペンサー財閥令嬢。母方の祖父はアメリカ人で祖母は日本人。
つまりクォーターということだ。
長ったらしい名前の理由がここで判明する。
兄は非常に頭がよく、飛び級で10歳のときにアメリカの大学でMBAを取得。
現在は21歳で、父親のサポートをしている。
凰華はというと頭のできは普通のようで、今年の春に日本のお嬢様大学に入学している。
私にゲームを勧めてくれた友達は、東北在住の農家の家庭に生まれた女の子らしい。
6歳児からこのゲームを開始している。
ずいぶんと家庭環境に差があるなぁと、そのままスキルと書かれているタグを押す。
スキル:不運Lv3
不運Lv3って何さ?
やたらいい設定だと思ってたらこれが落とし穴?
トントンと「不運」と書かれている文字を叩くと説明文が出てきた。
不運:どんな選択をしても運が悪い。Lvが高くなると死亡率が高くなる。
Lv3ってどのくらいやばいものなのだろうか。
全く分からない。
ちょっと考え込んでいたので、私はこの部屋に人が入って来たことに気がつかなかった。
「お迎えに参りました。」
突然声をかけられて私はびくりと後ずさる。
私が座っているソファの横に、ホストのように床に跪きこちらを見上げている若い男の人がいた。
ホストだと思ったのは姿勢と服装と顔のせいだ。
真っ黒なフロックコートにキラキラ輝く金髪に切れ長の青い瞳。鼻筋はすらりと高くどこかから見ても外国人だ。しかも、やたらと顔がいい。
「誰?!」
私は後ずさりながら質問する。
生まれこのかた見たことがない美形に腰が引ける。美形は遠くから眺めるものでこんな近距離でみるものじゃない。威圧感が凄まじい。
彼は私の言葉を聞き、短くため息をつく。
気を取り直したのか立ち上がり、軽く一礼する。
「私はお嬢様の専属執事の黒崎です。黒崎奏。お迎えに上がりました。」
どうみても外見は外個人なのに名前は日本人。
私は首を傾げながらもソファから立ち上がる。
凰華はお金持ちのお嬢様なので執事がいてもおかしくはないのだ。
彼は私が動き出したのを確認してから、この部屋にあったクローゼットから水色のワンピースを取り出す。
「こちらにお着替えください。終わりましたら一言声をかけてください。」
そういってこの部屋から出ていく。
私は素直に検査着からワンピースに着替える。
「やっぱりサイズピッタリよね。」
細い二の腕に合わせた袖口、首回りもちょうどいい。
オーダーメイドだろうか。
クローゼットから白いパンプスを取り出しスリッパから履き替える。
着替え終わると私は廊下に出る。
壁に寄りかかって待っていた彼はすぐに姿勢を正す。
「それではまいりましょう。こちらです。」
彼は私に歩調を合わせてゆっくりと歩く。
やっぱりここは病院だった。それもかなり大きい病院だ。大学病院かもしれない。
病院を出ると正面玄関に黒塗りのセダンが止まっていた。
彼は後部座席を開けたので私はそのまま車に乗る。
続いて彼が私の横に座る。
「出してください。」
彼が落ち着いた声で運転手に声をかける。
振動をほとんど感じずに車は動き出す。うちの軽とは大違いだった。
街の風景は見慣れた日本の街並みだった。電柱に張られた住所をちらりと確認する。
東京都世田谷区。
ふーん。ゲームナビゲーターが言ってたとおりか。この世界は現実世界と変わらないのかもしれない。
「お嬢様、一つ質問させていただいてよろしいでしょうか?」
しばらくたってから隣の美形執事がちらりとこちらを見て尋ねる。
「な、なにかしら?」
突然話しかけられたので私は思わず声が上ずる。
「『アナザーワールド』は初めてですか?」
「へ?え?あなたもプレイヤーなの?」
てっきりNPCだと思っていた相手にそんなことを言われて私は面食らう。
「やはり・・・」
彼はそうそうつぶやくと私から視線を外し正面を見る。
「今から言うのは独り言だ。」
がらりと彼の口調が変わる。今までは穏やかな優しい声だったのが、とたんに柄が悪くなった。
「凰華・R・スペンサー・紗枝木は、俺が知ってるだけであんたが3人目のプレイヤーだ。
2代目は先週船の上パーティの最中にテロリストに船を奪われて、死にそうな目に遭ったときに脱退したと思う。なにせ「こんなゲームやめてやる!」とずっと叫んでいたからな。
体に異常がないのに凰華・R・スペンサー・紗枝木、は一週間寝たきりで一度も目を覚まさなかった。
そして突然目を覚ました凰華・R・スペンサー・紗枝木は以前の高飛車な態度から一転、始終おどおどしている。俺は別人に変わったと思ったよ。」
3人目にテロリスト?
はぁ?
何を言ってるのかがまったくわからない。
「ステータス確認しただろう?
凰華・R・スペンサー・紗枝木の生まれ持ったスキルは不運だ。
俺が執事についてからだけでも「誘拐」が2回。「テロリストに絡まれる」「爆弾騒ぎ」「下水道に落下」等々トラブルが絶えない。
この世界はリアルとそう変わらない。死にそうな目に何度も会えばゲームなんてお気楽にやってられないだろうよ。」
ごくりと私は唾を飲み込む。
確かに不運のスキルを持っていたけど、不運ってそこまでひどいものなの?
小銭落としたりとかそんな話くらいかと軽く考えていた。
ゲームやってて死にそうな目にあうなんて・・・そんなの楽しくない!
ドSでもなきゃ普通の神経では耐えられないだろう。
「教えてくれてありがとう。私このゲームやめとこうかな。」
私は彼に向かってぺこりと頭を下げる。
危うく大変な目にあうところだった。
「俺がなんでこんな話をしたかわかるか?」
彼は相変わらず目線を正面にむけたまま、ぶっきらぼうに話しかけてくる。
「それは親切な人だから?」
私は首を傾げながら答える。
「親切な人か・・・親切ついでに教えてやろう。このゲーム途中で脱退または長期間ログインをしないと、マイナススキルをリアルに持ち込むことになる。マイナススキルってのは字の如し、マイナスにしかならないスキルのことだ。
つまり、あんたは不運をリアルで体験することになる。」
「はぁ??ゲームでしょ?なにいってるの?」
「どうだろうな。俺はこれが単純なゲームではないと思っている。ちなみに初代は二週間前に暴走自動車にはねられ死亡。2代目は放火で一昨日死亡。
初代のときはそんなことに気が付かなかったが、2代目まで死んでるとなると信憑性が高くなる。
・・・あんたも死にたいのか?もしやめるなら本名を教えてくれ。データをとっておきたいからな。」
とてもたちが悪い戯言だ。
なんかむかむかしてくる。初心者を怖がらせて楽しんでいる変態か!おのれは!
「・・・気分が悪い。どこの誰だか知らないけど、あなたとずっと一緒にいるのはとっても不快。オープンメニューウィンドウ!」
私はメニュー画面を出すと、ログアウトをクリックする。
とたんに視界がブラックアウトする。
私は現実の世界に戻るとすぐに頭にかぶっていたゲーム機をはぐように取り去る。
「はぁ・・・なんなのよ。」
思わずため息をつく。
楽しむためのゲームが不快感でいっぱいだった。
ゲーム機を押し入れにいれたまま、私は忙しい大学生活を送っていた。
ゲームのことは一度だけ友人と「私には合わないみたい。」と話したっきり一切触れていない。
そしてあれから一カ月ほど経ったある日。
今日は朝から雨が降っていた。
「あー、今日バイトあるんだよね。夕方までにやんでくれればいいんだけど。」
私は大学の学食で友人とおひるごはんを食べていた。
今日は雨なので学食はいつもよりも混んでいる。
雨季なので仕方がないけど、じめじめした雨は気分が暗くなる。
「ねぇ、あの人やばくない?」
友人が私の後ろのほうを見ながらぼそりとつぶやく。
「ん?何が?」
私は後ろを振り返ってみる。
そこにはよれよれの白衣を着て無精ひげを生やした男が、よれよれの紙袋をかかえてよろよろと歩いていた。
振り返った私とその男の視線が一瞬会う。
男は不気味に口元を吊り上げにやりと笑う。
あまりの気持ち悪さに私は背筋がぞっとする。急いで前に向き直る。
「ちょっと・・・近寄ってくるよ・・・」
友人がちらちらと私の後ろを見ながら気持ち悪そうにつぶやく。
背後から誰かの視線を感じる。
私はお箸を持ったまま固まる。
「お前、今俺をみて笑っただろう?」
突然ぬっと私の横から先ほどの男が顔を出す。
「笑ってなんか・・・!」
「許せない・・・許せない。俺を馬鹿にするやつは許せない!」
男は気が狂ったかのようにそう叫ぶと私の腕をぐいっとひねり上げる。
「いたっ!」
私は強い力で引っ張らられ、男の横に立たされる。
怖い、怖い、怖い。
あまりの怖さに叫ぼうと口を開けた瞬間、ぬっと目の前に刃渡り30センチほどの包丁がきらめく。
「ひっ!」
「黙れ。大人しくしないと刺すぞ。他の奴らが動いたらお前を刺す。」
甲高い声で男が叫ぶ。
騒がしかった学食が一斉に静まる。
誰もが動きを止めてこちらをじっと見つめている。
「どいつもこいつも、みんな馬鹿ばっかりだ。俺の研究のすごさを誰も理解できない。」
私に向かって包丁を向けながら男がぶつぶつとつぶやく。
正気ではない。
私は助けを求めて周りに視線を巡らす。
近くにいた体格のいい同じ学生がこちらのほうにゆっくりと歩み寄ってくる。
「動くな!動いたらさすっていっただろう!」
男は大振りに包丁を振り上げ、私に向かって振り下ろそうとする。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は目をぎゅっと閉じて思いっきり叫んだ。
「うっ。」
短い悲鳴が隣から上がる。
いつまでたっても痛みはこない。
恐る恐る目を開けると、私を拘束していた男が腕を押さえ痛みにのたうち回っている。
「由真、こっち!」
茫然とそれを見下ろしていた私を友人が呼び寄せる。
私は必死に彼女の元に走った。
「こわ・・・怖かった。」
涙があふれて止まらなくなる。
「だからいっただろう。不運がついてくるって。」
低い響く声が聞こえてくる。
私は涙でにじむ視界を声がしたほうに向ける。
小柄な少年がこちらを見ている。
黒いTシャツにブラックジーンズ。片手にはY字の形をした竿にだらりと長いゴムが輪になっている物を持っている。
彼は近寄ってくると、呻いている男の近くに落ちている包丁を蹴飛ばす。
「捕まえないの?こいつ。」
先程動こうとしていた体格のいい学生に彼は話しかける。
「ああ、それスリングショットか。」
学生は男の腕を後ろでねじ上げ、少年がもっているものに目を移す。
「そんなものでよく当てられたな。」
感心したように学生は少年を褒める。
少年は黒曜石のような切れ長の瞳で私のほうをじっと見つめてくる。
「あ、あの。助けてくれてありがとう。」
私は涙をふいてこわばった体を無理やり曲げ、少年に礼をする。
「どういたしまして、お嬢様。3人目の死者にならなくてよかったですね。」
少年はにっこりとほほ笑む。
どこかで聞いたことがある口調だった。
思い出した瞬間、私は涙も止まるほど驚いた。
「あの執事!なんでここに!」
■後日談■
「だから調べたんですよ。ネットワーク回線からあなたのことを。」
病室で彼は少しうんざりしたように私に向かっていった。
この病室は一カ月前にログインしたときと同じ病室だった。
凰華・R・スペンサー・紗枝木は一カ月前に退院したとたん、また昏睡状態となって病院に逆戻りしたそうだ。
目覚めた凰華を迎えに来た彼に、私は昨日の出来事について質問したのだ。
昨日彼はあの後どこかへ気が付いたら姿を消していなくなっていた。
「でもなんで都合よくあの場に居合わせたわけ?」
私は一番聞きたかったことをストレートに彼に質問する。
彼は一瞬黙ると視線を外し横を向く。
「ずっと日中は見張っていたんですよ。このゲームの謎が気になったものですから。データはとらないとだめですからね。」
それはまるでストーカーのようだと私は思ったのだけど、守ってもらったので黙ることにした。
かわりに別のことを質問する。
「学校はどうしたの?あなた高校生か中学生だよね?」
「どちらも不正解です。私はすでに大学卒業資格まで持っています。これ以上はプライベートなことなので質問されても答えません。」
彼はさっさとクローゼットに近寄ると中から今度は白いワンピースを取り出し、ベットの上に放り投げる。
私はワンピースをもってベットから起き上がる。
「本当にゲームに関連しているのかな?」
「どうでしょうね。ただ、3人連続不運で死ぬところだったのは確かです。
回避するにはゲームを続けるか、カルマLvを上げてこのゲームをクリアするかです。」
彼は部屋から出ていく。
私は急いでワンピースに着替えると、ガラリと勢いよく病室の扉を開ける。
「クリアするまで守ってくれるんでしょうね?」
「もちろんです。お嬢様。私に不可能はございません。」
彼は恭しく私に向かって一礼した。
ゲーム本編までかけませんでした。
ゲームの中でいちゃいちゃするところが描きたかったのですが・・・
自分のヤル気度で続きを書きたいなぁと思っています。
伏線の回収が全くできてないので・・・