05.「女性のようなその男」
「改めて――はじめまして、二人とも。俺はオルラッド・エルディス。ワケあって今現在、ある調査をしていてね。その際、この集落の者たちに事情を伺っていたら突然攻撃を受けてしまい、驚いて反撃してしまったんだ。いやぁ、恥ずかしい所をお見せした」
はは、と笑う女性に、集落の者がお茶を差し出す。
恭しいその態度に、オルラッド。そう名乗った女性は「ああ、ありがとう」と優雅に湯呑を受け取った。
「……すげえ教育されてんな。賊がまるで召使のよう……」
「まあ、コイツにかかれば調教なんて楽勝だから、仕方ないのね」
「ミーリャ?」
「本当のことを言ったまでなのよ」
フン、と腕を組むミーリャに困ったような顔をし、オルラッドは湯呑に口をつけた。
そうして軽くあたたかなお茶を啜った彼は、「それで?」とジルたちに語りかける。
「キミたちはどうしてココに? 子供が二人で来るような場所でないことはわかると思うが……」
「あー、えっと、それは……」
「……ジルが悪に話を聞きたいと言っていたから、ミーリャが連れてきたのよ」
「悪に話を?」
またどうして、と言いたげなオルラッドに、ミーリャは告げた。
「昨日のことよ。ジルの住む村が魔物の大群に襲われた。ジルの両親はその魔物の攻撃を受け毒素を注入されたわけ。そこにやって来た聖騎士団が、正義を掲げてジルの両親を惨殺。毒を振りまく前にトドメを刺したのね」
「…………」
難しい顔をするオルラッド。
整った眉間にシワを寄せ、悩むように口元に手を当てる彼に、ジルは言った。
「正義は”正しい”ことをした。それはわかってるつもり。けど、どうしても、納得できなくて……」
「……うん。納得できない、それは正しい反応だ。それに、正義が必ずしも”正しい行いをしている”かと言われれば、一概に『イエス』とは言い難いのが現実。キミの悩みは最もなモノだ」
「……オルラッド、さん? は、正義側の人なんじゃ……」
「オルラッドでいい。それに、俺はどちらかと言えば中立だよ。今はね」
とうことは、昔は正義に寄っていたということか……。
なるほどなぁ、と考えるジルの隣、ミーリャが出された焼き菓子を口の中へと放る。
警戒も何もないその行動に、ジルは若干感心した。
「……それで、キミはどうするつもりで悪に会いに?」
問われたジルが少し考え口を開く。
「聞きたいと、思って……悪は、本当に正義の”反対にいる者”なのかってことを……」
告げたジルの、強い意志を宿した瞳。
オルラッドはそれを視界、何故か傍に控えている大柄な男を見た。
男は「へい!! 了解しやした!!」と大きく返事をすると、サッとジルに顔を向ける。
「坊主、俺たち悪役は、何も初めから悪党だったわけじゃねえ」
「……っていうと?」
「少なくとも、この集落に住む奴らは正義により奪われ、弾かれた輩が殆どだ。俺らは正義を掲げた奴らに、理不尽に奪われたんだ。だから、俺らは正義連中を憎んでいる。だから対立する。それだけだ」
「……」
悩むように下を向くジル。
男は続けた。
「正義ってのは危ういもんだ。いっそ麻薬に等しいそれを盾に、アイツらはやりたいことをやりまくる。悪も似たようなもんだが、正義に比べるとそのおぞましさは計り知れねえ。だから俺はアイツらが大っ嫌いなんだよ」
「……そっか」
頷くジル。
納得したのか顔を上げた彼は、強く光る瞳を真っ直ぐに男に向ける。
「俺は知ってる。正義に憧れる人のこと。正義に助けられた人のこと。正義に、殺された人のこと……」
「……坊主」
「……俺は救いたい。”取り零された命”を。一つでも多く、救いたい。正義から取り立てられないためにも、正当化された死を見ないためにも……だから……だから、決めた。俺は――俺は、”悪になる”」
グッと膝の上で拳を握り、ジルはミーリャを見た。
呑気にお茶を啜っている彼女は、「まあ、そうなるのが当然なのね」と瞳を伏せる。
「好きにするのよ。どの道、ミーリャはジルに着いて行く。その先に例え、地獄が待っていようとも、着いて行くのね」
「ミーリャ……」
少女の名を呟くジルに、その前方、オルラッドが笑った。
ああ、変わってないな、と、うれしそうに微笑む彼女は、「そういうことなら俺も同行しよう」と鞘に入ったままの剣を持つ。
「え? でも……いいの?」
「これでも剣の腕には自信がある。用心棒には持って来いだと思うが?」
「……でも」
悩むジル。
ミーリャはそれに、「まあ役には立つのよね」と言葉を紡ぐ。
「なんたって、オルラッドは世界最強の剣士だから」
「ぜひともご同行をお願いしたく」
真顔で告げたジルに、「承知した」とオルラッド。
楽し気に笑う彼女を前、ついガッツポーズをしたジルに、「そういえば」とミーリャが一言。
「オルラッドは男なのね」
「…………」
嘘だろ、と驚愕したジルと同じく、賊の男も驚愕の表情で苦笑するオルラッドを見つめていた。




