03.「不思議な少女」
いつまでそうしていたのだろう。
気付けば空は、帳を下ろしたように暗くなっていた。
皮肉なほどに明るい星々が、キラキラと頭上で輝いている。
ジルは膝を抱えていた。
そこに頭を埋めるように座り込む彼は、とても小さく弱々しい。
そんな彼に近づくように、草を踏む音がした。
こんな時間に、こんな所に、誰かがいるはずがない。
それでも、確かに足音は近づいてきた。
「――泣いてるの?」
声がし、問われる。
ジルは何も言わない。
「……正義なんて、あんなもんなのね。いちいち気にしてたら埒明かないのよ」
「……」
無言で顔を上げるジル。
疲れたようなその顔には、
多少なりとも悲しみの色が浮かんでいる。
「……救われない命って、どこに行くんだろう」
小さな声でジルは問う。
それに、少女は「さあね」と返した。
「……聖騎士団のしたことは、”正しいこと”だ。きっと、そう。だって、現に村は救われて、死者の数は少数。それ以上のたくさんの命が救われた。間違ってることなんて、きっとない」
「……お前がそう思うなら、そうなんじゃないかしら」
「……」
ジルは再び、膝に顔を埋めた。
少女はそんなジルの隣、空を見上げながら腰を下ろす。
「……正義に取り零された命は、誰が救うんだろう。誰が、助けてあげるんだろう」
「……」
「……正義が”正しい”なら、なにが、”正しくない”んだろう」
ぼそぼそと疑問を吐き出すジル。
多少なりとも疲労・疲弊が伺えるその声色に、
少女は煌めく星を見ながら目を閉じる。
「”正しくない”ことをするのは、いつだって悪役なのね」
「……悪役?」
「そう」
少女は立ち上がる。
そして、背中側で腕を組み、隣に座るジルを見下げた。
眠たげで、どこか冷たい印象を受ける桃色の瞳が、
やわく、細められていく。
「”悪はいつだって、正義とは反対側にいる”」
「……正義とは、反対側に」
「そうなのよ。そして、”正義が正しい”とは、必ずしも言えるわけじゃない……人によって、受け取り方は多種多様。”正義を悪と呼ぶ者”もいれば、”悪を正義と呼ぶ者”もいる。――今のお前なら、わかるんじゃないかしら?」
「…………」
ジルは前方に見える村を見据えた。
明るく輝く村では今、救ってくれたお礼にと
正義たちが持て囃されている最中だ。
届く騒がしい音を耳、ジルはそっと立ち上がった。
そして、無言で村とは反対方向に進んでいく。
「……どこに行くつもりなのね」
少女が問う。
「きっと、ココより遠い所」
ジルは答えて、続けて言った。
「”取り零された命”があるなら、俺がその”命”を助ける。そんな悪役になれる所――」
「……」
少女は笑った。
酷く安心したように。
「ホントに、変わらない……」
小さく告げて、少女はジルの隣へ。
不思議そうに振り返るジルを見て、彼女は言う。
「ミーリャも行く」
「……なんで」
「だってその方が楽しそうなのね。それに、ミーリャは強いから、弱いお前を守ってあげられる。お前にとってもメリットがあるはずなのよ」
「……あっそ」
ぶっきらぼうに告げて進むジル。
月明かりに照らされるその横顔は、
少しだけ、強く見えた気がした。




