01.「最弱の少年」
晴れやかな空の下、少年が駆けていく。
彼の名はジル・デラニアス。
まだ何者でもない、最弱の少年だった。
異世界というその場所で、明るく笑う彼は「行ってらっしゃい」と声を掛ける両親に大きく手を振り、そのまま街の方へと走っていく。
庭で採れた野菜を売り、お金に変えてから帰る。
それが、今日の彼の仕事だった。
「まいどあり~!」
チャリン、と音。と共に小袋に詰められた複数の金と銀。
少年は思わず頬を紅潮させ、店の店主に礼を言った。
「あんがとオッサン!」
「だあれがオッサンだ! お兄さんと呼べ!」
「へへ! ごめんごめん!」
明るく謝る少年に、店主は嘆息。
「この小生意気坊主め」
言って、フッと笑った。
「そういやジル。お前さん、そろそろ旅にでも出たらどうだ? いい加減このチンケな村にも飽き飽きして来ただろう?」
「え? 旅?」
「おうよ」
頷く店主にジルは考える。
そして、すぐに答えを出した。
「今はまだいいかな」
「どうして?」
「だって俺は机に足の小指ぶつけて泣くくらい雑魚だもの。旅に出て強くなる想像ができない。それに――」
ジルは笑う。
「母さんたちを置いてけない」
「ジル……」
「まあ、多分二人なら絶対、『旅に出てもいい』とは言ってくれそうだけど……」
告げたジルは、懐かしむように過去のことを思い出す。
「俺は、二人に救われた孤児だからさ。だから、二人が生きてるうちにたっくさんの恩返ししたいわけ!」
「……ケッ、聞いた俺が馬鹿だったよ。ったく、お前さんはいくつになっても親思いのいい奴だわ」
「へへー! そうだろそうだろ!」
笑うジル。
と、彼の背後を誰かが過った。
思わず振り返るジルの視界
桃色の髪が、真っ白なワンピースが、風に揺れていた。
「(あ、綺麗な子)」
こんな子村に居たっけ?、なんて考えていれば、少女と目が合う。
髪と同じ桃色が、ほんのわずかに揺れた。
「……また、会えた」
誰にも聞こえないほど小さな声。
ジルが不思議そうな顔をするのを尻目、少女はそのまま歩き去って行く。
「……なに、あの子」
不思議な子だなぁ、考えていれば、店主に呼ばれて慌てて振り返る。
「どうした? 何かあったか?」
「あ、うん。今歩いてた子、ちょっと気になって……」
「今歩いてた? 何言ってんだ、ジル。お前さんの後ろには別に誰もいなかったぞ」
「え、でも今確かに……ほら、あそこ――あれ?」
少女が歩いていた方を振り返り指させば、そこには既にその姿はなかった。
どころか、まるでそこには初めから誰も居ませんでしたと言いたげに、足跡すら残っていない。
ジルは青ざめた。
店主が困ったように笑う。
「仕事のし過ぎだな。今日は帰って休んだらどうだ?」
「え、ええ……でも確かに今……いや、やめよう。考えちゃだめだ。なんだか嫌な予感がする……」
ゾゾゾ、と栗立つ肌を擦りながら、ジルは言った。
そして彼は、店主に礼を言い家に向かい走っていく。
「(あ、そういえば――)」
あの子、俺ん家の方から歩いてきたな……。
ジルはもう一度背後を振り返る。
しかしやはり、そこには少女の姿は見当たらなかった。




