15.「真夜中の出会い」
夜中、皆が寝静まった頃。
ジルはひとりとぼとぼと廊下を歩いていた。先程まで眠っていたのが嘘のように寝覚めが良い。今なら大音量で村で流行っていた「子供たちの歌」が歌えそうだ。
「あれどんな歌だったっけなぁ」
のんびり呟きながら言えば、ふと暗闇の中に明かりが見えた。自動販売機だ。
折角だしなにか飲もうと進みかけたジルは、そこで思わず足を止める。
ヒト……人がいた。自動販売機の前にある椅子に、人が。
艶やかで長い黒髪に、滑らかそうな白い肌。そして、ガラス玉のように透き通る青い瞳を持つその人物は、ジルよりは年上かもしれない、小柄で美しい少女だった。
「……めっちゃ美少女」
目の保養になるな、と思わず思考してから、ジルは遠目から見てもわかるほどに見目麗しいその少女に近づく。
少女はそんなジルの足音に反応したのだろう。ゆるりと振り返ると、ふんわりと優しく笑う。
その笑みに思わずときめいてしまった自分は悪くないと思いたい。
ジルはゴホンッ、と咳払いすると、「は、はじめまして?」と少女に一言。少女はそんなジルにクスクス笑うと、「はい、はじめまして」と言葉を返した。
耳心地の良いソプラノが、ジルの緊張を解してくれる。
「えーっと……キミ、もしかしてココのお客さん? だったり?」
「お客さん……お客さんと言えばそうかもしれないね。違うかもしれないけど」
「いやどっち」
「んー……キミはどっちに見える?」
柔らかく笑み、そして問うてくる美少女。ジルは思わずその笑みに頬を染めながら、「え、えーっと……」と思考を回す。
「お、お客さん……の線が濃いかも、とは……思ってる……」
「ふふっ。なら、そうなのかもしれないね」
「あ、違うパティーンだこれ」
でも客でなかったらなんなのだろう。まさか従業員?、と悩むジルに、美少女は「はい」、と缶ジュースを一本差し出す。咄嗟に受け取ったソレを見てみれば、缶には「イエス!マシュマロベイベー!」の文字が。
「いや何味だコレ」
「ん? パイン味」
「マジで言ってる?」
名前こんななのに?、と眉を顰めたジルに、美少女は「見た目で判断してはいけないよ」と一言。それもそうかと、ジルは缶ジュースの蓋を開けながら、断りを入れて少女の隣に腰掛ける。
「……で? キミはこんな夜更けに何をしていたんだい?」
「散歩。目が冴えちゃってさ……そっちは?」
「んー……様子見? かな?」
なんの、と訊ねる前に、少女が言った。「ココに家族が居るんだ」、と。
ジルは目を瞬き、「家族?」と首を傾げる。
「うん。家族。キミも多分知ってるんじゃないかな」
「えー、俺が知ってる奴限られてるけど……名前はわかる?」
「それを言っちゃつまらないじゃないか」
「いやまあ、それはそうだけども……」
告げたジル。そんなジルに、美少女はふんわりと微笑んだ。
微笑んで、彼女は手の中のココア缶に口をつけると、ソレを軽く飲み干して立ち上がる。
「そろそろ行くよ」
告げた美少女に、ジルはゆるりと目を向けた。
「行くって、どこに? 部屋?」
「ううん。違う。……ちょっと北の方に野暮用があってね。目的地となる街はココから結構な距離があるからさっさと出発してしまおうと思ったんだ」
「北……」
北って何があるんだ?
悩むジル。美少女はその間にゴミ箱に缶を捨て、艷のある黒髪を揺らしながらくるりと振り返った。そして、悩むジルに言う。
「じゃあまたね、ジルくん」
「あ、うん……また……」
カツカツとブーツの音を鳴らしながら去っていく美少女。その姿が完全に暗闇の中に消えると同時、ジルは「ん?」と疑問を零す。
「……俺、名乗ったっけ……?」
ポツリと呟き一拍。なんだか肌寒いなと、ジルは腕をさすって缶ジュースを一気飲み。サッと足早に部屋の方へと舞い戻るのであった。




