最終話 王都は、もう彼女なしでは立っていられない
王宮の会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
「……また、赤字です」
財務官の声が震える。
数字は正直だった。
エレノアが去ってから、王国の収支は右肩下がりだ。
「商会との取引も、再交渉は拒否されています」
「理由は?」
分かっているくせに、王太子は聞いた。
「……エレノア様が、現在は隣国商会の要職に就いているためです」
決定的だった。
彼女はもう、
王都に戻らなくても生きていける。
――いや、戻らないほうが、うまくいっている。
***
王太子は、最後の賭けに出た。
正式な親書。
条件付きの謝罪。
地位の回復と、名誉の保証。
それらすべてを携えて、
隣国商会へ使者を送った。
返ってきた返事は、ひどく簡潔だった。
『王都との契約は、今後一切結びません』
理由は、添えられていない。
だが、十分だった。
***
一方その頃。
商会の応接室で、私は静かに紅茶を飲んでいた。
「王都からの使者、断っておいた」
レオンがそう告げる。
「ありがとう」
それだけで、話は終わった。
恨みも、未練も、もうない。
私は、過去を振り返るためにここにいるのではない。
「……王都は、どうなるかしら」
「しばらくは混乱するだろうな」
彼は淡々と言う。
「でも、それは君の責任じゃない」
そう。
王都が回らないのは、
私がいなくなったからではない。
私に頼りきっていたことに、気づかなかったからだ。
***
数か月後。
王太子は、補佐官に叱責され続け、
ヒロイン・リリアーナは、
“選ばれるだけ”では何もできない現実に直面していた。
王都は、物語の中心であることを失った。
そして私は――
「次の事業案、これで進めましょう」
「了解だ、エレノア」
名前を呼ばれ、
必要とされ、
選ばれている。
もう、悪役令嬢ではない。
もう、ヒロインでもない。
ただ一人の女性として、
自分の人生を歩いている。
物語は、王都で終わった。
けれど私の人生は、
ここからが本編ですわ。




