第4話 王太子は、もう届かない手を伸ばす
俺は決断した。
エレノアを呼び戻す。
追放は、行き過ぎだった。
彼女がいなければ、王国は回らない。
それは王太子としての判断であり、
――きっと、慈悲でもある。
「使者を出せ。
エレノア・グランディスに、王都への帰還を命じる」
命令は、当然のように却下された。
「殿下……彼女は、すでに王都の管轄外におります」
「何?」
「隣国商会に正式に迎え入れられ、
契約上、こちらからの強制は不可能です」
胸がざわつく。
商会。
――あの、名もなき商人の男。
***
それでも俺は諦めなかった。
王太子としてではなく、
一人の男として、手紙を書いた。
『戻ってきてほしい。
君が必要だ』
数日後、返事が届く。
短い一文だけ。
『必要なのは、今の場所です』
文字は丁寧で、
だがそこには、感情がなかった。
俺は、理解した。
彼女はもう、
俺を“過去”にしたのだ。
***
王都では噂が広がる。
エレノアが、商会で重用されていること。
誰よりも信頼され、
誰よりも自由に笑っていること。
そして。
「殿下……」
「言うな」
ヒロインは、以前より不安定になっていた。
彼女が望んだはずの未来は、
なぜか、思い描いていたものとは違っていた。
俺は、窓の外を見つめる。
取り戻そうとした。
だが、それは“愛”ではなかった。
失った価値を、
後から惜しんだだけだ。
――もう、遅い。
エレノアは、
俺の物語には戻らない。




