第2話 悪役令嬢、新天地で居場所を得る
馬車が止まったのは、王都から半日ほど離れた商業都市だった。
「ここが、君の新しい居場所になる」
そう言ってレオンが指し示したのは、立派とは言えないが、活気のある商会の建物だった。
人の出入りが多く、荷車が忙しなく行き交っている。
「……思ったより、騒がしいですわね」
「静かすぎるよりいいだろ?」
彼はそう言って、少し得意げに笑った。
中に入ると、帳簿を抱えた女性や、荷物を運ぶ若者たちが一斉にこちらを見る。
「会頭、その方は?」
「今日からここで世話になる人だ。名前はエレノア」
一瞬の沈黙。
――来るわね。
悪役令嬢。国外追放。
その噂が、ここまで届いていないはずがない。
けれど。
「よろしくお願いします!」
「部屋なら空いてますよ!」
予想していた冷たい視線は、どこにもなかった。
「……よろしいの?」
小声で聞くと、レオンは当たり前のように言った。
「俺の判断だ。誰も文句は言わない」
胸の奥が、じんと熱くなる。
***
その日の午後、私はさっそく商会の仕事を手伝うことになった。
「帳簿の整理ですか?」
「できる?」
「……王都の財務補助をしておりましたの。たぶん」
たぶん、という言葉に周囲がざわついたが、
実際に帳簿を見始めると、その空気はすぐに変わった。
「この仕入れ、無駄が多いですわ」
「輸送経路、こちらに替えれば二割は削れます」
気づけば、皆が私の言葉に耳を傾けていた。
「すごい……」
「本当に追放された人なのか?」
私は思わず苦笑する。
(王都では、これが当たり前でしたのに)
夕方、仕事が一段落したころ。
「……居心地はどうだ?」
レオンが、少しだけ不安そうに聞いてきた。
「ええ」
私は、はっきりと答えた。
「ここでは、私は“役”じゃありませんのね」
「当然だ」
彼は照れたように視線を逸らす。
「エレノアは、エレノアだろ」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
断罪された悪役令嬢。
物語から退場したはずの存在。
けれど私は今、ここで息をしている。
誰かの隣で。
誰かの役に立ちながら。
――どうやら私、
思っていたよりずっと、幸せになれそうですわ。




