第1話 断罪のその日、私は幼なじみに拾われました
乙女ゲームの世界で、私は悪役令嬢だった。
王太子の婚約者として生まれ、
ヒロインを妬み、邪魔をし、最後には断罪される。
――それが、この世界での私の役割。
そして今日、その運命の日を迎えた。
「エレノア・グランディス!
君との婚約を、ここに破棄する!」
玉座の間に響く王太子の声。
貴族たちは安堵したように息をつき、ヒロインは涙を浮かべて俯いている。
(ああ、予定通りですわ)
私はもう、この展開を何度も知っている。
泣けば悪役、怒れば悪役、黙っていても悪役。
だから――何も言わなかった。
「異議はないのか!」
「ございませんわ」
静かに頭を下げると、ざわめきが広がった。
想定外だったのだろう。悪役令嬢が、あまりにも素直すぎたから。
こうして私は、国外追放となった。
***
王都の門前。
用意された簡素な馬車に乗ろうとした、その時だった。
「エレノア」
聞き慣れた声に、私は足を止めた。
振り返ると、そこにいたのは黒髪の青年。
平民出身で、今は小さな商会を営む――幼なじみのレオン。
この物語では、名前すら語られない人物。
「……どうして、ここに?」
「迎えに来た」
あまりにも当たり前のように、彼は言った。
「追放されるって聞いたからさ。
だったら、俺のところに来ればいいだろ」
思わず、笑いそうになった。
「私、悪役令嬢ですのよ?」
「知ってる」
「関われば、面倒ですわ」
「それも知ってる」
それでも彼は、少しも迷わず言った。
「でも俺にとって君は、
本を読むのが好きで、無茶をするときは一人で抱え込む、エレノアだ」
胸が、きゅっと締め付けられる。
「……物語は、どうなりますの?」
「知らない」
レオンは肩をすくめた。
「物語より、君のほうが大事だ」
その一言で、決めた。
私は、彼の差し出した手を取る。
断罪も、役割も、シナリオも。
すべて王都に置いていく。
これは、
悪役令嬢が断罪された“その後”から始まる、
小さくて、優しい恋の物語。
――そして私は、もう一度、生き直す。




