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重機? いいえ、高校生です。 武器は鉄骨、動力は【筋力】。一撃必殺の【チャージ】で、解体屋がボスごと撤去するようです  作者:


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第22話 崩壊の余波と、軍靴の足音

「……ですから、俺は巻き込まれただけです」


 翌朝、探索者ギルドの聴取室。

 俺はパイプ椅子に座り、目の前で頭を抱えているギルドの調査官に向かって、淡々と説明を繰り返していた。


「ダンジョンの奥に行ったら、黒い化け物と、合成獣みたいなのが喧嘩してたんです。怪獣大決戦でしたよ」

「そ、それで? あの施設が跡形もなく消滅した原因は?」

「あいつらが暴れて崩れたんです。俺は帰り道が塞がれると困るから、邪魔な瓦礫を『掃除』して脱出しただけです」


 嘘は言っていない。

 施設を消し飛ばしたのは、魔王とキメラの激突だ。俺はその片棒を担いだが、あくまで掃除の一環だ。

 調査官は疑わしげな目を向けてくるが、証拠はあの瓦礫の下だ。誰も検証しようがない。


「……わかりました。一旦、生存者としての証言として記録します」


 調査官は諦めたように書類を閉じた。

 俺は解放され、ロビーへと出た。

 周囲の冒険者たちが、遠巻きに俺を見ている。

 『Bランクダンジョンの深層を崩壊させた男』。

 また一つ、俺の背中に厄介なレッテルが貼られたようだ。


「ま、生きて帰ればこっちの勝ちだ」


 俺は伸びをして、ギルドを出た。

 だが、俺はまだ知らなかった。

 俺が潰した企業の背後には、想像よりも遥かに巨大で、冷徹な怪物が潜んでいることを。



 場所不明。

 地図には存在しない、軍産複合体『本社』の作戦指令室。

 無機質なモニターの光だけが照らす部屋で、一人の男が報告書を読み上げていた。


「……『腐敗の谷』の実験施設、全滅。生存者なし。キメラ・アダム、および工場長もロストしました」

「ご苦労」


 報告を受けたのは、軍服に身を包んだ初老の男――真田大佐だった。

 その瞳は、部下の死を聞いても微動だにしない。まるで壊れた備品の報告を聞いているようだ。


「解析班の報告では、現場には二種類の高エネルギー反応が残っていたそうです。一つは重力干渉。魔王クラスの魔法痕です」

「魔王か。奴がついに動いたか」


 真田は表情を変えず、もう一枚の資料を手に取った。

 そこに映っていたのは、施設正面ゲートの監視カメラ映像だ。

 作業着姿の男が、480キロの大剣を軽々と振り回し、防護壁を紙屑のように粉砕している姿。


「だが、興味深いのはこちらだ。……竹内涼太」

「はっ。元Fランク、現在はCランクの探索者。特筆すべきスキルはありませんが、異常な筋力数値を記録しています」

「異常? 違うな。これは『進化』だ」


 真田の目が、獲物を見つけた猛禽類のように細められた。


「魔法による強化ではなく、肉体そのものが生物の限界を超えている。……素晴らしい。アダム以上の素体サンプルだ」

「では、警察に圧力をかけて指名手配に?」

「馬鹿を言うな。警察ごときに何ができる。それに、サンプルを法の手続きで汚すつもりか」


 真田は立ち上がり、軍帽を被り直した。


「『特務部隊』を動かせ。目標は竹内涼太の確保。抵抗するなら四肢を切断しても構わん。脳と心臓さえ生きていれば、研究材料にはなる」

「りょ、了解! ですが、場所は市街地です。一般市民への被害が……」

「些細なことだ。国家の礎となれることを光栄に思わせてやれ」


 冷徹な命令が下された。

 法も倫理も通用しない、暴力のプロフェッショナルたちが動き出す。



 翌日の学校。

 俺はいつも通り登校し、机に突っ伏していた。

 昨日の今日だ。さすがに体が重い。

 周囲のクラスメイトたちは、俺を腫れ物のように扱っている。Cランク昇格と、ダンジョン崩壊の噂が広まっているせいだろう。


「……おい、竹内」


 昼休み。

 屋上でパンをかじっていると、血相を変えたレイが駆け込んできた。

 いつも冷静な彼が、珍しく呼吸を乱している。


「なんだよ、インテリ。また講義か?」

「馬鹿野郎! なぜ逃げない! 悠長に飯を食っている場合か!」


 レイが俺の胸ぐらを掴みかけた。

 その手は微かに震えている。


「学園の周囲が、完全に包囲されているぞ」

「包囲? 警察か?」

「違う! 迷彩服に、対モンスター用の重火器……あれは『軍』だ。正確には、軍部直轄の私兵団だ」


 レイの声が恐怖で裏返る。


「大黒商事なんてレベルじゃない。奴らは『国家憲兵』の権限を悪用して動いている。法など通じないぞ!」

「……へぇ」


 俺は最後のパンを口に放り込み、咀嚼して飲み込んだ。

 軍隊。

 なるほど、昨日の今日でこれか。随分と仕事が早い。


「で、なんで俺が逃げるんだよ」

「は?」

「俺は何も悪いことはしてない。害虫駆除をして、帰ってきただけだ。逃げる理由がない」


 俺は立ち上がり、手すりの下を見下ろした。

 校門の前。

 黒塗りの高級車ではなく、深緑色の装甲車が鎮座している。

 中から出てくるのは、フルフェイスのヘルメットと強化外骨格パワードスーツに身を包んだ兵士たち。


「……それに、今から逃げても遅いみたいだぞ」


 ズババババババッ!!


 プロペラ音が空気を切り裂く。

 上空に、黒い武装ヘリが現れた。

 校舎の窓ガラスが振動し、校庭にいた生徒たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。


『通告する。竹内涼太。直ちに校庭へ出ろ』


 拡声器からの怒鳴り声が、平和な学園を戦場へと変えた。


『さもなくば、校内にいる全生徒をテロリストの協力者と見なし、武力制圧を開始する』

「……正気か?」


 レイが絶句する。

 人質を取ったも同然の脅し。

 いや、脅しじゃない。あいつらは本気でやる目だ。


「……教育的指導が必要だな」


 俺は屋上を後にし、階段を駆け下りて自分の教室へ戻った。

 教室はパニック状態だ。生徒たちは机の下に隠れ、窓の外のヘリに怯えている。


「た、竹内君!? どこ行ってたの、危ないよ!」


 委員長が叫ぶが、俺は無視して教室の後ろにある掃除用具ロッカーへ向かった。

 ここ数日、俺は「あるもの」をここに隠していた。

 校則違反? 知ったことか。命の方が大事だ。


「……よかった。無事だな」


 ロッカーを開ける。

 そこには、ボロ布でグルグル巻きにされた、巨大な棒状の物体が鎮座していた。

 『黒鋼の大剣』。重量480キロ。

 さらに、足元には『ヘルメット』と『安全靴』、『作業着』を入れたスポーツバッグ。


「着替えるぞ。見てる暇があったら避難しろ」


 俺は制服の上から作業着を羽織り、安全靴を履き、ヘルメットの顎紐を締めた。

 そして、大剣の覆いを引き剥がす。

 漆黒の鉄塊が露わになり、教室の空気が凍りついた。


「な、なにそれ……」

「剣……? 鉄骨……?」

「商売道具だ」


 俺は大剣を肩に担ぎ、教室の窓を開け放った。

 ここから行くのが一番早い。


「行ってきます」


 ドンッ!!


 俺は窓枠を蹴って、3階から空中に躍り出た。


 ズドォォォォォォンッ!!


 校庭に、隕石が堕ちたような轟音が轟いた。

 俺が足より先に叩きつけた大剣が、着地の運動エネルギーを全て飲み込み、芝生をクレーターへと変える。

 衝撃は霧散し、俺の足には痺れ一つ残らない。


 舞い上がる土煙。

 その中心で、俺はゆっくりと顔を上げた。


『ターゲット確認。……構えッ!』


 砂煙が晴れると、数十人の兵士たちが銃口を向けていた。

 対モンスター用の大口径ライフル。


『抵抗すれば発砲する。大人しく投降しろ』

「断る。ここは学校だ。勉強の邪魔をするな」


 俺は一歩踏み出した。

 大剣を体の正面に構える。これがあれば、俺は無敵だ。


『撃てッ! 手足なら構わん!』


 ダダダダダダッ!!


 一斉射撃。

 鉛の嵐が俺を襲う。

 だが、俺には最強の盾がある。


 カンカンカンカンッ!!


 激しい火花が散る。

 銃弾は全て、幅広の大剣に弾かれた。

 デュラハン素材を含んだ黒鋼は、徹甲弾ですら傷一つつかない。


「……終わりか? なら、下校の時間だ」


 俺は地面を蹴った。

 重さを感じさせない突進。


「なっ、撃ち方止め! 接近されるぞ!」

「パワードスーツ隊、前へ! 肉弾戦で制圧しろ!」


 強化外骨格を纏った兵士たちが、振動ナイフやスタンバトンを構えて突っ込んでくる。

 機械の力で強化された怪力。常人なら触れるだけで骨折するだろう。

 だが、相手が悪かった。


「おらぁッ!!」


 俺は大剣を横薙ぎに振るった。

 刃ではない。腹で叩く。

 殺しはしない。だが、加減もしない。


 ゴォォォォンッ!!


「ぐわぁぁぁッ!?」


 衝突音すら置き去りにする衝撃。

 100キロを超える装甲兵たちが、紙屑のようにまとめて吹き飛んだ。

 スーツの装甲がひしゃげ、中の人間ごと空を舞う。


「なんだそのパワーは!?」

「スーツの出力が負けているだと!?」

「機械頼みの筋肉で、俺に勝てるわけないだろ」


 俺は止まらない。

 大剣を盾にし、鈍器にし、暴風として振るう。

 重火器を持った兵士は大剣の風圧で転がし、接近戦を挑む兵士は剣の柄で殴り飛ばす。

 圧倒的な蹂躙。


『ええい、歩兵は下がれ! ヘリだ! 空から制圧しろ!』


 上空の武装ヘリが、機首を下げた。

 ガトリング砲が回転を始める。

 毎分3000発の鉄の雨。あれを撃たれたら、校舎が穴だらけになる。


「……させるかよ。修繕費がいくらになると思ってんだ」


 俺は近くの花壇に目をつけた。

 縁石として埋め込まれていた、分厚いコンクリートブロック。

 俺はそれを片手で鷲掴みにし、地面から無理やり引っこ抜いた。


「重さは十分……!」


 野球ボールのようにブロックを振りかぶる。

 狙うのはメインローターの付け根。一点突破だ。


「落ちろッ!!」


 全身のバネを使った、渾身の投擲。

 現場で鍛え上げた異常な筋力が、コンクリート塊に運動エネルギーを注ぎ込む。

 石は音速を超え、衝撃波を纏って空を裂いた。


 ドォォォォンッ!!


 ブロックはヘリのローター基部に直撃した。

 金属が砕ける音がして、ヘリがバランスを崩す。


『き、機体が! 制御不能!? メーデー!』


 ヘリは黒煙を上げながら、校庭の隅――誰もいない用具置き場の方へ不時着した。


 ズガァァァン!


 爆発はしなかったが、完全にスクラップだ。


「……ふぅ」


 俺は大剣を地面に突き立て、周囲を見渡した。

 立っている兵士はいない。

 全員、ひしゃげたスーツの中で呻いているか、気絶している。

 完全な制圧だ。


「……撤収だ」


 無線から、苦渋に満ちた声が漏れた。

 生き残った兵士たちが、負傷者を抱えて逃げるように装甲車へ乗り込んでいく。

 彼らもプロだ。この戦力差では任務遂行不可能と悟ったのだろう。


『竹内涼太……。国家への反逆、後悔することになるぞ』


 捨て台詞を残し、車列が去っていく。

 俺はそれを見送り、大きく息を吐いた。


「……やれやれ。とんだ昼休みだ」


 ふと、背後の校舎を見る。

 窓からは、全校生徒と教師たちが、信じられないものを見る目で俺を見下ろしていた。

 その中には、腰を抜かした生活指導の佐々木先生の姿もある。


「……大剣持ち込み、怒られるかな」


 俺は冷や汗をかいた。

 国を相手にした喧嘩には勝ったが、これからの学校生活と、先生のお説教には勝てそうにない。


「……早退するか」


 俺は大剣を担ぎ直し、壊れたフェンスの隙間から足早に学校を後にした。

 日常は壊れた。

 もう、ただの高校生には戻れない。

 俺は、家族と、自分の居場所を守るために、この国の闇と全面戦争をするしかないのだ。


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