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重機? いいえ、高校生です。 武器は鉄骨、動力は【筋力】。一撃必殺の【チャージ】で、解体屋がボスごと撤去するようです  作者:


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第18話 氷と黒剣の不協和音

「……言っておくが、私は君を認めたわけではないからな」


 ダンジョン『迷宮の回廊』に足を踏み入れた瞬間、氷室レイが冷ややかな声で告げた。

 彼は白銀の長杖を優雅に構え、俺の背中を軽蔑したような目で見ている。


「試験官の命令だから組むだけだ。足手まといになるなら、即座に見捨てる」

「ああ、わかってるよ。お互い様だろ」


 俺は短く答え、背中のホルダーから相棒を引き抜いた。


 ズゥゥゥン……。


 重低音が響き、空気が震える。

 全長2メートル、重量480キロの鉄塊――『黒鋼の大剣』だ。

 レイがその剣を見て、心底呆れたように鼻を鳴した。


「……なんだ、その鉄板は。剣と呼ぶにはあまりに無骨で、美しくない」

「頑丈さが取り柄でな。俺の全力を受け止めてくれるのはこいつだけだ」

「フン。君のような脳筋にはお似合いの鈍器だな」


 レイは吐き捨てると、さっさと前へ進んでいった。

 協調性は皆無。前途多難だ。

 だが、彼の実力は本物だった。


「《アイス・ジャベリン》ッ!」


 通路の向こうから現れたスケルトンの群れに対し、レイが杖を一閃する。

 空中に数本の氷の槍が生成され、正確無比な軌道でスケルトンの頭蓋骨を貫いた。

 速い。そして精密だ。

 詠唱から発動までのラグが極端に短い。これがエリートの魔法か。


「……見たか。これが効率的な戦闘だ。君の出番なんて……」

「おらぁぁぁッ!!」


 レイが勝ち誇った顔をするより速く、俺は生き残りのスケルトンへ突っ込んでいた。

 大剣を横薙ぎに振るう。


 ゴォンッ!!


 風圧だけで数体がバラバラに吹き飛び、直撃した個体は粉々に粉砕されて壁のシミになった。


「なっ……!?」

「よし、掃除完了だ」

「き、貴様ッ! 私の射線に入るなと言っただろう! まだ計算式の途中だったんだぞ!」


 レイが顔を真っ赤にして怒鳴る。

 そこからは泥沼だった。

 レイが魔法で足を止めようとすれば、俺がその前に敵を吹き飛ばす。

 互いのリズムが全く噛み合わないまま、俺たちは中層エリアへと到達した。



「……チッ、嫌な音がするな」


 広い回廊に出た瞬間、俺は足を止めた。


 カサカサカサカサ……。


 無数の硬質な足音が、壁や天井から響いてくる。

 暗闇から現れたのは、銀色の光沢を持つ甲虫の群れだった。


 【 ミスリル・ビートル 】。

 体長1メートルほどの巨大な黄金虫だ。その名の通り、ミスリルを含んだ硬い甲殻を持っている。


「数は40。……面倒な数だ」


 レイが眼鏡の位置を直し、杖を構えた。


「だが、所詮は虫だ。私の氷で一掃する。《ブリザード・レイン》!」


 レイの杖から、無数の氷の礫が放たれた。

 だが。


 キンッ! カンッ!


 軽快な音が響き、氷の礫はすべて甲虫の背中で弾かれた。

 傷一つついていない。


「なっ……魔法反射だと!?」


 レイが目を見開く。

 ミスリル・ビートルは魔法に対する高い耐性と、反射特性を持っている。

 虫たちが一斉に動き出した。

 速い。床を、壁を、天井を、縦横無尽に駆け回る。


「邪魔だ!」


 俺は大剣を振るった。


 ブンッ!


 空を切る音。

 当たらない。

 480キロの大剣は、威力は絶大だが、初速が遅い。すばしっこい虫たちは、俺の大振りをあざ笑うように回避し、懐に潜り込んでくる。


「ぐっ……!」


 ガジッ!


 一匹が俺の腕に噛みついた。

 ワイバーンの皮で作った『抗魔の作業着』が牙を防ぐ。毒も通らない。だが、衝撃は消えない。

 鬱陶しい。


「くそっ……計算外だ。魔法反射率が高すぎる……!」


 レイが脂汗を流しながら後退する。

 包囲網が狭まっていく。

 このままではジリ貧だ。


「撤退だ、竹内! この相性では勝てない!」

「逃げるかよ」


 俺はレイの言葉を遮った。

 逃げて合格できるほど、この試験は甘くないはずだ。

 俺は戦況を見渡した。魔法を弾くツルツルの甲殻。素早い動き。そして、この長い一直線の廊下。


「……おい、インテリ」

「なんだ! 今は議論している暇など……」

「あいつらの足元、凍らせられるか?」


 俺の問いに、レイは眉をひそめた。


「は? 床を凍らせてどうする。あいつらは爪がある。氷の上でも機動力は落ちないぞ」

「違う。あいつらのためじゃない」


 俺は大剣を、盾のように体の正面に構えた。

 そして、カンナが改造してくれた安全靴の踵を、カツンと床に鳴らす。

 そこには、氷上用のアタッチメントが仕込まれている。


「俺が滑るんだ。……ボウリングだよ。俺が球になる」


 レイは口をポカンと開けた。

 だが、すぐにその瞳に理性の光が戻る。瞬時に計算を終えたようだ。


「……正気か? 失敗すれば、君はただの的だぞ」

「外さなきゃいいんだろ。お前の魔法で、最高のレーンを作ってくれ」


 俺はニヤリと笑った。

 レイは深いため息をつき、杖を高く掲げた。


「……いいだろう。失敗したら、君を置いて逃げるからな。《ダイヤモンド・フロア》ッ!!」


 パキキキキキッ!!


 レイの杖から放たれた冷気が、廊下の床を一瞬にして凍結させた。

 鏡のように滑らかで、摩擦係数を極限までゼロに近づけた、芸術的な氷の道。

 虫たちが驚いて足を止めようとするが、あまりの滑らかさに踏ん張りが効かず、体勢を崩す。


「上出来だ」


 俺はスパイクを氷に食い込ませ、助走の構えを取った。

 背中の大剣を、身体の前へ。480キロの質量を、攻撃ではなく突進のための重りとして利用する。


「ストライク、取りに行くぞッ!!」


 俺は氷のレーンを蹴り出した。


「うおおおおおおおおッ!!」


 俺は咆哮と共に、氷の回廊を滑走した。

 カンナ特製の安全靴に仕込まれたスパイクが、レイの作った極限硬度の氷に深く食い込み、推進力を生み出す。

 俺自身が、巨大な砲弾と化した瞬間だった。


「キ、キシャッ!?」


 前方で待ち構えていたミスリル・ビートルたちが、慌てて回避しようとする。

 だが、遅い。

 レイの魔法で作り出された氷の床は、あまりに滑らかだ。

 奴らは無様に足を空転させ、その場に縫い付けられていた。


「吹き飛べぇぇぇッ!!」


 ドゴォォォォォォォンッ!!


 激突。

 俺は大剣を盾のように構えたまま、虫の群れに突っ込んだ。

 生々しい破砕音が響き渡る。

 魔法を弾くミスリルの甲殻も、480キロの質量が音速に近い速度で衝突すれば、物理法則の前には紙屑同然だ。

 一匹目が弾け飛び、その衝撃で二匹目、三匹目が巻き込まれる。

 まるでボウリングのピンのように、銀色の甲虫たちが次々と宙を舞い、壁に叩きつけられて粉砕されていく。


「……信じられん」


 後方で、レイの呟きが聞こえた気がした。

 俺は止まらない。

 一直線に回廊を突き抜け、最後の数匹をまとめて壁ごと粉砕して、ようやく停止した。


 ズガァァァンッ!!


 土煙が舞い上がり、瓦礫がパラパラと落ちてくる。

 俺は壁にめり込んだ大剣を引き抜き、荒い息を吐いた。


「……ふぅ。一丁上がりだ」


 周囲には、動くものはない。

 あれほど厄介だったミスリル・ビートルの群れは、ただの鉄屑の山に変わっていた。

 俺は安全靴のスパイクを解除し、カツカツと氷の上を歩いて戻った。

 レイが、呆然と立ち尽くしている。


「……終わったぞ、インテリ。お前の氷、最高に滑りやすかったぜ」


 俺がニカっと笑うと、レイはハッとして眼鏡の位置を直した。


「……呆れたな。自らを質量弾にするとは。魔法教本にはない戦術だ」

「教科書通りじゃ生き残れない世界もあるんだよ」

「否定はしない。……だが」


 レイは俺の持つ黒鋼の大剣と、粉砕された虫の死骸を交互に見た。

 そして、悔しそうに、だがどこか認めざるを得ないといった表情で、小さく息を吐いた。


「……計算外だった。君のそのデタラメな『質量』は……使いようによっては、計算に入れる価値がある」

「使いようってなんだよ。俺は道具じゃないぞ」

「似たようなものだ。……行くぞ、竹内。次はもっとマシなプランを立ててやる」


 レイは俺の横を通り過ぎ、奥へと進んでいく。

 その背中は、少しだけ頼もしく見えた。

 最悪の相性だと思っていた。

 だが、今の俺たちは、間違いなく最強のパーティだった。



「……ここか」


 最深部の巨大な扉の前。

 俺とレイは並んで立っていた。

 扉の向こうからは、これまでとは桁違いのプレッシャーが漏れ出している。

 Cランク昇格試験の最終課題。

 ここにいるボスを倒し、指定されたアイテムを持ち帰ること。


「準備はいいか、脳筋」

「いつでもいけるぞ、インテリ」


 軽口を叩き合い、俺たちは同時に扉に手をかけた。


 ギィィィィ……。


 重い扉が開き、闇の奥から二つの巨大な赤い光が浮かび上がる。


「GUOOOOOOOOOッ!!」


 鼓膜を破るような咆哮と共に、主が現れた。

 牛頭の魔人――【 ミノタウロス・ジェネラル 】。

 その手には、戦車すら一撃でスクラップにするであろう、重量2トン級の超巨大戦斧が握られている。


「……っ!!」


 ジェネラルが一足飛びで距離を詰め、戦斧を振り下ろす。

 俺は逃げずに踏み込んだ。

 背中の『黒鋼の大剣』を抜き放ち、正面から迎え撃つ。

 回避? そんな器用な真似はできない。

 防御? 受けるだけじゃ押し潰される。

 なら、叩き落とすまでだ。


「うらあぁぁぁぁッ!!」


 俺は大剣を、斧の軌道に向かってフルスイングした。

 防御じゃない。迎撃だ。

 これこそが、俺の唯一の防御手段――『パリィ』だ。


 ドゴォォォォォォォンッ!!


 凄まじい衝撃音がダンジョンを揺らした。

 火花が散り、俺の足元の石畳がクモの巣状に砕け散る。

 互いの武器が噛み合い、火花を散らして軋む。


「ぐ、ぅッ……!」


 重い。

 これまで戦ってきたどの魔物とも桁が違う。

 全身の筋肉が悲鳴を上げ、血管が切れそうになる。

 だが、押し負けてはいない。

 カンナが打ってくれた480キロの大剣と、俺の異常な筋力が、2トンの暴力を真正面から受け止めている。


「まだだ! 次!」


 俺は衝撃を殺さずに大剣を返し、追撃を放つ。

 ジェネラルも即座に反応し、斧を振るう。


 ガンッ! ゴンッ! ガギィンッ!


 もはや剣戟ではない。

 重機と重機が衝突事故を繰り返しているような、破壊の応酬。

 一撃ごとに周囲の地形が変わっていく。


「《アイス・ジャベリン》ッ!」


 後方からレイが援護射撃を行う。

 だが、ジェネラルの纏う闘気が魔法を弾く。

 小細工は通じない。

 力でねじ伏せるしかない相手だ。


「オラオラオラァッ!!」


 俺は叫びながら、さらに踏み込んだ。

 チャージが溜まっていく。

 大剣が熱を帯び、黄金の光を放ち始める。

 ジェネラルの顔に、焦りと恐怖の色が浮かんだ。

 力比べで負けるはずのない種族が、人間ごときに押されている。その事実に動揺しているのだ。


 ギギギギギ……ッ!


 武器同士が噛み合い、互いに譲らない鍔迫り合いになる。

 至近距離。

 俺とジェネラルの視線が交錯する。


「へっ、硬え武器だな! だが、俺のエンジンはまだ吹かせるぜ!」


 俺はグリップを握りしめ、さらに力を込めた。

 足元の岩盤が陥没する。

 ミシミシと音を立てて、ジェネラルの斧が悲鳴を上げる。

 いける。押し切れる。

 だが、あの斧は邪魔だ。あれがある限り、俺の攻撃は芯まで届かない。


 その時、背後から冷徹な声が響いた。


「そのまま押し込め、竹内! 私がその『硬度』だけ奪う!」


 レイだ。

 彼は杖を構え、膨大な魔力を練り上げていた。

 俺の意図を、そしてこの状況を瞬時に理解したのだ。


「合わせるぞ! 理を書き換える! 《アブソリュート・ゼロ(絶対零度)》!!」


 レイの杖から、極太の冷気が放たれた。

 標的はジェネラルではない。

 俺の大剣と拮抗している、その「戦斧」一点だ。


 パキキキキキッ!!


 赤熱していた金属が、一瞬にしてマイナス273度の極低温に晒される。

 白い霜が斧を覆い、金属の分子構造が急激に収縮する。

 極限の温度差による『低温脆性』。

 最強の硬度を誇るミスリル合金が、ただの脆いガラスへと変質した瞬間だ。


「脆くなったなァッ!!」


 俺はニヤリと笑った。

 障害物は消えた。

 なら、あとはぶち抜くだけだ。


「まとめて消し飛べェェェッ!! 《リリース》ッ!!」


 俺は鍔迫り合いの状態から、溜まりに溜まったチャージを一気に解放した。

 黄金の閃光。

 そして、圧倒的な質量の暴発。


 パァァァァァァァンッ!!


 乾いた音が響いた。

 凍りついた戦斧が、粉々に弾け飛ぶ。

 だが、俺の大剣は止まらない。

 砕けた斧の破片を巻き込みながら、そのままジェネラルの胴体へと食い込む。


 ズドォォォォォォォォン!!


 轟音。

 ジェネラルは断末魔を上げる暇もなかった。

 上半身が風船のように破裂し、消し飛ぶ。

 衝撃波はそのまま背後の壁をも粉砕し、ダンジョンの最深部に巨大な風穴を開けた。


《 戦闘終了 》

《 Cランク試験課題:達成 》


 静寂が戻る。

 残ったのは、ジェネラルの下半身と、もうもうと立ち込める土煙だけ。


「……ふぅ」


 俺は大剣を地面に下ろし、大きく息を吐いた。

 勝った。

 力と、技と、理論の勝利だ。


「……物理法則を無視するにも程がある」


 背後で、レイが呆れたように呟いた。

 彼は眼鏡の位置を直しながら、それでも満足げに口元を緩めていた。


「へっ、細かいこたぁいいんだよ。勝てばな」


 俺は笑って、親指を立てた。

 最強の矛と、最強の支援。

 俺たちは文句なしの成績で、Cランク昇格試験を突破したのだった。


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