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重機? いいえ、高校生です。 武器は鉄骨、動力は【筋力】。一撃必殺の【チャージ】で、解体屋がボスごと撤去するようです  作者:


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第13話 暴風の峡谷と、不動の重戦車

 翌日の放課後。

 俺はメンテナンスを終えた大剣を受け取るため、カンナの小屋を訪れていた。


「よし。歪み修正完了。やっぱりあんたの使い方は荒いのよ」


 カンナがオイルで汚れた手を拭きながら、黒鋼の大剣を愛おしそうに撫でる。

 昨日、Dランクボスを粉砕した際にかかった負荷は相当なものだったらしい。だが、カンナの腕のおかげで、大剣は新品同様の黒光りを取り戻していた。


「ありがとう。助かる」

「礼には及ばないわ。メンテナンス費はしっかり請求するから」


 カンナはニヤリと笑って請求書を突きつけてきた。

 なかなかの金額だが、命を預ける道具だ。ケチるつもりはない。

 俺は支払いを済ませると、本題を切り出した。


「ついでに相談があるんだが。防具が欲しい」

「防具? あんた、その作業着がお気に入りなんじゃなかったの?」

「気に入ってはいるが、防御力が心もとない。昨日のボス戦でも、一発かすったら死ぬところだった」


 俺の耐久は28。一般人よりはマシだが、モンスターの攻撃を受ければ紙同然だ。

 デュラハンの素材は大剣に使ってしまったため、手元にはない。


「なるほどね。じゃあ、フルプレートでも作る? あんたの筋力なら、戦車みたいな装甲も着こなせるでしょうけど」

「いや、重いのは勘弁だ。ただでさえ敏捷が低いんだ。これ以上動きが鈍くなったら、避けることもできなくなる」


 俺のスタイルは、攻撃をパリィで弾くか、あるいは紙一重でかわしてカウンターを叩き込むことだ。

 ガチガチの鎧で亀になるのは性分じゃない。

 カンナは少し考え込んでから、壁に貼られた地図を指差した。


「なら、選択肢は一つね。軽くて、魔法も物理も弾く、最高級の革素材。……ストーム・ワイバーンの皮よ」

「ワイバーン……竜種か」

「Cランクダンジョン『暴風の峡谷』に生息してるわ。あいつらの皮は、強風と落雷に耐えるために独自の進化を遂げてる。薄くて軽いのに、防弾チョッキ以上の強度と、高い耐熱・耐魔性能を持ってるの」


 カンナが身を乗り出した。


「それをあんたの作業着の裏地に仕込めば、見た目はそのまま、中身は最強の軽装甲が出来上がるわ」

「決まりだな」


 俺は即答した。

 見た目は変えたくない。この作業着とヘルメットこそが、俺の正装だ。



 その足でギルドへ向かった。

 Cランクダンジョンへの挑戦申請をするためだ。

 だが、受付のすずさんは、俺の顔を見るなり表情を曇らせた。


「あの、竹内様……。少々、耳に入れておきたいことがございまして」


 すずさんは周囲を警戒するように声を潜めた。


「また何かやったか、俺?」

「いえ、竹内様ではありません。外部からの干渉です」


 すずさんが手元の資料を見せてくれた。

 そこには、『大黒商事』という企業名と、いくつかの冒険者パーティの名前が記されていた。


「先日、竹内様が指名依頼をお断りになりましたよね? その依頼主である大黒商事が、竹内様を逆恨みしているという噂があるんです」

「逆恨み? 断っただけでか?」

「はい。あそこは手段を選ばないことで有名なブラック企業ですから……。自分たちの誘いを断った新人は潰すというのが彼らの方針らしいのです」


 すずさんの指が、資料にある『黒犬』というCランクパーティの名前で止まった。


「特にこの黒犬というパーティには気をつけてください。大黒商事の汚れ仕事を請け負っている連中で、ダンジョン内での新人潰しや、獲物の横取りで悪名高いんです。彼らが、竹内様が向かわれる暴風の峡谷方面で目撃されています」

「なるほど」


 俺をダンジョン内で事故に見せかけて始末するか、あるいは再起不能にして、強引に契約を結ばせるつもりか。

 随分と舐められたものだ。


「忠告ありがとう。気をつけるよ」

「い、行かれるんですか? 時期をずらした方が……」

「素材が必要なんだ。それに、降りかかる火の粉なら払うだけだ」


 俺はすずさんを安心させるように笑って見せ、転移ゲートへと向かった。

 企業のメンツだか何だか知らないが、俺の邪魔をするなら容赦はしない。

 解体屋の仕事に、障害物はつきものだ。



 Cランクダンジョン『暴風の峡谷』。

 転移ゲートを抜けた瞬間、洗礼を受けた。


 ゴオオオオオオッ!!


 凄まじい暴風。

 立っているだけで体が浮き上がりそうになるほどの突風が、常に吹き荒れている。

 峡谷の地形が風の通り道となり、自然の風洞実験室と化しているのだ。


「うわぁっ、と……!」

「《ウィンド・バリア》ッ! くそっ、風が強すぎる!」


 先行していた他の冒険者パーティが、悲鳴を上げている。

 魔導師が風除けの魔法を展開し、戦士たちが地面に剣を突き立てて耐えている。

 ここでは、移動するだけで体力を削られる。

 まともに歩くことすら困難な難所だ。


 だが。


「そよ風だな」


 俺はヘルメットの顎紐を締め直し、平然と歩き出した。

 風は強い。確かに台風並みだ。

 普通の人間なら吹き飛ばされるだろう。

 だが、今の俺の総重量は、常軌を逸している。


 体重70キロ。

 背負った『黒鋼の大剣』が480キロ。

 その他の装備を含めれば、総重量は約560キロ。

 半トンを超える鉄の塊が、風ごときで揺らぐはずがない。


「な……おい見ろよ、あいつ」

「魔法も使わずに歩いてるぞ……?」

「重りの魔法か? いや、背中のあれ……まさか鉄の塊か?」


 風に耐えてうずくまる冒険者たちの横を、俺はズシ、ズシと重い足音を立てて通り過ぎていく。

 重装備のメリットだ。

 アンカーのように重い大剣が、俺の体を地面に繋ぎ止めてくれている。


 俺は視線を上空に向けた。

 鉛色の空を、巨大な翼を持った影が旋回している。

 【 ストーム・ワイバーン 】。

 風を操り、空から獲物を襲う飛竜だ。


 この強風の中を自在に飛び回るあいつらを、どうやって狩るか。

 向こうから来てくれるなら、話は早い。

 俺は背中の大剣に手をかけた。

 遠距離攻撃の手段はない。

 だが、カウンターなら得意分野だ。


 その時、視線の端で何かが動いた。

 岩陰に隠れるようにして、こちらを窺う数人の影。

 黒い装備に身を包んだ男たち。

 すずさんが言っていた『黒犬』だろうか。

 殺気立っているのが、風に乗って伝わってくる。


 まあいい。

 俺は気づかないフリをして、峡谷の奥へと進んだ。

 前から来るワイバーン。

 後ろから来るハイエナ。

 どっちが先に来ても、やることは変わらない。

 全て叩き潰すだけだ。


「キシャァァァッ!!」


 上空から、甲高い鳴き声が降ってきた。

 ストーム・ワイバーンだ。

 翼を折りたたみ、風の抵抗を極限まで減らした急降下。

 その速度は新幹線並みだろう。普通の冒険者なら、反応する間もなく首を刎ねられる。

 だが、俺には真っ直ぐ突っ込んでくる飛礫にしか見えない。


「来い」


 俺は足を止めて、背中の大剣を引き抜いた。

 ズゥン……という重低音が響き、強風の中でも剣先がピクリとも揺れない。

 480キロの鉄塊。

 それを構えた俺は、もはや一つの要塞だ。


 ワイバーンが目前に迫る。

 鉤爪を突き出し、俺の喉笛を狙っている。

 速い。

 だが、軽い。


「落ちろッ!!」


 俺はカウンターのタイミングで、大剣を横薙ぎに振るった。

 鋭い剣技ではない。

 ただ、敵の進路に巨大な鉄の壁を出現させるような、置きにいく一撃。


 ゴ・ォンッ!!


 生々しい激突音が響いた。

 時速数百キロで突っ込んできたワイバーンが、480キロの鉄塊と正面衝突したのだ。

 物理法則は残酷だ。

 軽い方が、弾き飛ばされる。


「ギ、ガァァ……ッ!?」


 ワイバーンの首が不自然な方向に折れ曲がった。

 そのまま錐揉み回転しながら吹き飛び、岩壁に激突して地面に落ちる。

 ピクリとも動かない。即死だ。


「ふぅ……」


 俺は大剣を肩に担ぎ直し、獲物のもとへ歩み寄った。

 やはりこの剣はいい。

 相手がどれだけ速かろうが、当たれば終わる。

 俺はナイフを取り出し、目的の素材である皮を剥ぎ始めた。


 その時だった。


「へへっ、今だ! やっちまえ!」


 風の音に混じって、下卑た声が聞こえた。

 背後からだ。

 殺気と共に、魔力の奔流が膨れ上がる。


「《エア・ハンマー》ッ!!」


 詠唱と共に、俺の背中に向かって圧縮された空気の塊が放たれた。

 風魔法だ。

 それも、相手を吹き飛ばすことに特化した、高威力の衝撃波。

 崖際で素材採取をしている無防備な背中。そこにこれを食らえば、普通の人間ならバランスを崩して谷底へ真っ逆さまだ。

 滑落事故に見せかけた、完全な殺害計画。


 ドォォォォンッ!!


 魔法が直撃した。

 俺の周囲で砂塵が舞い上がり、爆風が岩肌を削る。


「やったか!?」

「へへ、ざまあみろ! あの重そうな剣が仇になったな!」


 男たちの勝ち誇った声が聞こえる。

 『黒犬』の連中だろう。

 俺は砂埃の中で、ゆっくりと振り返った。


「おい」


 埃が晴れる。

 そこには、一歩も動かず、傷一つ負っていない俺が立っていた。


「な……ッ!?」


 男たちの笑い顔が凍りついた。

 リーダー格の魔法使いが、信じられないものを見る目で俺を凝視している。


「ば、馬鹿な……。《エア・ハンマー》だぞ!? オークだって吹き飛ばす中級魔法だぞ!? なんで1ミリも動いてねえんだよ!」

「今、なんかやったか?」


 俺は首を傾げた。

 何か、背中にそよ風が当たったような気はした。

 だが、それだけだ。

 今の俺の総重量は500キロを超えている。それに加えて、地面を踏みしめる脚力がある。

 たかが空気の塊ごときで、この質量が浮き上がるわけがない。


「ひ、ヒィッ……!」


 男たちが後ずさる。

 俺の姿が、魔法すら通じない怪物に見えているのだろう。

 俺は大剣を片手で持ち上げ、切っ先を彼らに向けた。


「大黒商事の差し金か? それとも、ただの強盗か?」

「く、来るな! 化け物!」


 魔法使いが半狂乱になって杖を振るう。

 次々と風の刃が飛んでくる。

 当たれば肉を切り裂く魔法だ。紙装甲の俺が受ければタダでは済まない。

 だが、俺には最強の盾がある。


 キンッ! パキンッ!


 俺は大剣を盾にして、風の刃を受け止めた。

 黒い刀身に触れた瞬間、魔法がガラスのように砕け散る。

 【黒鋼の大剣】に混ぜ込まれたデュラハンの素材――抗魔金属の効果だ。

 魔法を拡散し、無効化する。


「無駄だ」


 俺は一歩踏み出した。

 その重圧だけで、男たちが尻餅をつく。


「邪魔をするなら、この剣の錆にしてやる。……消えろ」


 俺は大剣を横に薙ぎ払った。

 直接斬りはしない。

 だが、480キロの質量が巻き起こす風圧は、彼らの放った魔法よりも遥かに暴力的だった。


 ゴウッ!!


「うわぁぁぁぁっ!!」


 衝撃波に煽られ、男たちが木の葉のように転がっていく。

 戦意は完全に折れたようだ。

 彼らは悲鳴を上げながら、我先にと出口の方へ逃げ去っていった。


「口ほどにもない」


 俺は大剣を背中に戻した。

 所詮はCランクのゴロツキだ。本物の死線を越えてきた俺の敵ではない。

 俺は再びワイバーンに向き直り、作業を再開した。



 数時間後。

 俺は十分な量のワイバーンの皮を確保して、カンナの小屋に戻っていた。


「すごいわね。これ、最上級のストーム・ワイバーンの皮じゃない」


 カンナが素材を広げて、感嘆の声を上げた。

 薄く、しなやかで、銀色の光沢を放っている。

 ナイフの刃を通さず、魔法の炎を近づけても焦げ目一つ付かない。


「これならイケるわ。あんたのダサい作業着の裏地に、これを何層にも重ねて縫い込む。さらに、急所部分には前回余ったデュラハンの欠片を加工したプレートを仕込めば……」


 カンナの目が怪しく光った。


「見た目はただの作業着。でも中身は、ミスリル製のフルプレートアーマーよりも硬くて軽い、最強の防具になるわ」

「頼む。デザインはそのままでな」

「わかってるわよ。あんたのその地味な趣味に合わせてやるわ」


 カンナは笑って、早速作業に取り掛かった。

 これで、俺の装備は完成する。

 最強の矛である黒鋼の大剣。

 最強の盾となる特製作業着。

 攻守ともに隙はなくなった。


 俺はスマホを取り出し、スケジュールを確認した。

 大黒商事との件は、これで終わりではないだろう。

 だが、今の俺には恐れるものはない。

 どんな理不尽が降りかかろうとも、この力で粉砕するだけだ。


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