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重機? いいえ、高校生です。 武器は鉄骨、動力は【筋力】。一撃必殺の【チャージ】で、解体屋がボスごと撤去するようです  作者:


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第1話 鉄と、激痛と、覚醒する解体屋(クラッシャー)

建設現場に、地獄の蓋が開いたような咆哮が響いた。


「逃げろぉぉッ!!」


次の瞬間、地面が爆ぜ、土煙の中からそれが姿を現した。


丸太のように太い腕。醜悪な猪の顔。人の倍はある巨体。

ダンジョンから溢れ出た魔物――オークだ。


「ひっ……あ、あぁ……!」


逃げ遅れた現場監督――俺の叔父さんが、瓦礫につまずいて無様に転んだ。

その背中に、オークの巨大な影が落ちる。


(叔父さん……!)


考えるより先に、体が勝手に動いていた。


バイト禁止の進学校に通う俺、竹内涼太を、この現場にねじ込んでくれた恩人。

女手一つで俺たち兄妹を育ててくれた母さんの、唯一の頼れる親族。


その人が、今まさに殺されようとしている。


武器なんてない。

俺は、ただの資材運びの肉体労働アルバイトだ。


だが、視界の端で、鉄の塊が鈍く光った。


――H型鋼の切れ端。


長さ1メートル。重さは50キロ近い、赤錆の浮いたただの鉄クズ。


「……う、ああああッ!!」


喉が裂けるほどの叫びと共に、俺はその鉄塊を引きずり上げた。


重い。普通の高校生なら持ち上げるだけで腰をやる重量だ。

だが、毎日これを担いで走り回ってきた俺の筋肉は、悲鳴を上げながらも応えてくれた。


振るうなんて無理だ。

なら――盾にするしかない。


俺は叔父さんの前に滑り込み、H鋼を地面に突き立てて、即席のバリケードを作った。


直後、オークの丸太のような棍棒が振り下ろされる。


ドゴォォォォンッ!!


「がっ、ぁ……ッ!?」


世界が揺れた。


鉄越しに伝わる衝撃が、全身の骨という骨をきしませ、血管を内側から破裂させる勢いで駆け抜ける。


衝撃で足がコンクリートにめり込み、作業着の背中が弾けた。


(い、てぇ……ッ!!)


腕の感覚がない。

いや、感覚がありすぎて、神経が焼き切れそうだ。


俺の体は頑丈じゃない。普通の人間だ。

H鋼は「く」の字に曲がり、俺の口端からは赤い泡が漏れた。


「ブモ……?」


俺が即死しなかったのが気に入らないのか、オークは首を傾げた後、苛立ったように鼻を鳴らした。


その顔には、明白な侮蔑があった。


『なんだこの虫は』という、強者の余裕。


「涼太……くん……!」


「……逃げろ、叔父さん」


血の味がする口で、俺は低く唸った。


退けば、死ぬ。叔父さんが。俺が。


俺の今の役割はなんだ?


荷物を運ぶことじゃない。この理不尽な暴力を、ここで食い止めることだ。


オークが二度目を振りかぶる。


さっきより速い。


(まともに受けたら、今度こそ腕が千切れる)


恐怖で足がすくむ。

だが、脳裏に現場での親方の怒鳴り声が蘇った。


『クレーンの荷が暴れたら、力で止めるな! 軌道を読んで、勢いをぐんだよ!』


そうだ。


止めるんじゃない。

重さを、ぶつけて、軌道を逸らす。


「来いよ……ッ!!」


俺は血に濡れた手で、ひしゃげた鉄骨を握り直した。


スキルなんて知らない。ステータスなんて見たこともない。


だけど――このクソ重い鉄を扱ってきた腕だけは、裏切らない。


「う、らあぁぁッ!!」


オークの棍棒が迫る。


俺は全身のバネを使い、H鋼の角を棍棒の側面にカチ上げた。


ガギィィンッ!!


「ぐ、ぅッ……!」


指の皮が裂け、血が飛ぶ。肩関節が悲鳴を上げる。


だが――弾いた。


棍棒の軌道がズレ、俺の横のコンクリート壁を粉砕する。


(……まだだ、次が来る!)


休む暇はない。


俺の本能が告げていた。


止まったら死ぬ、と。


不思議な感覚だった。


鉄と鉄がぶつかるたび、腕の激痛とは裏腹に、体の奥底から「熱」が湧き上がってくる。


H鋼を通して、オークの暴力的なエネルギーが俺の中に流れ込み、何かが「溜まって」いく感覚。


三度目。

四度目。


ガンッ! ゴギィンッ!!


「は、ぁ、あ、ぁ……ッ!」


衝撃のたびに、視界が明滅する。


肋骨がいったかもしれない。筋肉が断裂しているかもしれない。


俺の体(耐久力)は、とっくに限界を超えている。


それでも、俺の腕だけは、異常な駆動を続けていた。


(……熱い。鉄が、脈打ってる……?)


握りしめたH鋼が、火傷しそうなほど熱を帯びていた。


赤錆色の鉄肌が、うっすらと青白く発光を始めている。


あと一回。

あと一回耐えれば、何かが「満ちる」。


オークが激昂し、全身の筋肉を膨張させた。

最大威力の、上段叩きつけ。


(……見える)


死の軌道。


俺の体が砕け散る未来。


だけど――その「点」に合わせて、鉄塊を叩き込めばいいことも、わかった。


「おおおおおおッ!!」


俺は叫びと共に、光り輝く鉄クズを全力で振り上げた。


防御じゃない。迎撃だ。


――カァァァンッ!!


高く、澄んだ音が響いた。


その瞬間、頭の奥に無機質なシステム音声が落ちてきた。


《 規定パリング回数に到達 》

《 ユニークスキル【チャージ(蓄積)】覚醒 》

《 蓄積エネルギー:段階【青】 》

《 対象の耐久値を凌駕しました 》


痛みが、消えた。


代わりに、鉄骨が青い雷光を纏い、エンジンのようにドクンと脈打つ。


使い方は、誰に教わったわけでもない。


俺の魂が理解していた。


溜めた「破壊」を、解き放つ(リリース)だけだ。


俺は鉄骨をバットのように構えた。


オークが、初めて怯えたように後ずさる。


もう遅い。


「消し飛べ……ッ! 《リリース》!!」


俺は青い光の尾を引く鉄骨を、オークの胴体に叩き込んだ。


ズドォォォォォォン!!


衝撃音ですらなかった。それは爆発だった。


H鋼から青い閃光が弾け、圧縮された運動エネルギーが指向性の暴風となって吹き荒れる。


オークの上半身は、風船が破裂するように弾け飛んだ。


肉片すら残らない。


背後のコンクリート壁ごと、ごっそりと空間がえぐり取られていた。


「……は、っ」


残ったのは、オークの下半身だけ。


そして、役目を終えて赤錆の鉄クズに戻ったH鋼。


俺の手の中で、それはボロボロにひしゃげていた。


全身から力が抜け、俺はその場に膝をついた。


「りょ、涼太!!」


叔父さんの悲鳴のような声が聞こえる。


よかった。守れた。


薄れゆく意識の中で、視界の端に最後のログが流れた。


《 戦闘終了 》

《 初回撃破ボーナス:スキル【パリィ Lv1】習得 》

《 適性職業を解析中…… 》

《 防御行動による自己損壊率:高 》

《 筋力偏重を確認 》

《 職業:【解体屋クラッシャー】が解放されました 》


(解体屋……? なんだよそれ……)


俺は心の中で苦笑し、そのまま暗い闇へと落ちていった。


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