業界最大手出版社運営の小説投稿サイトを個人情報登録してAIで荒らし回った私がクリエイターとして生きてくなんてムリムリ絶対ムリ! ※普通にムリでした。
小説家になろう21年度及び22年度空想科学ジャンル年間ランキング1位『「気が触れている」と王家から追い出された俺は、自説通りに超古代銀河帝国の植民船を発見し大陸最大国家を建国する。 ~今さら帰って来てくれと言っても、もう遅い! 超テクノロジーを駆使した俺の建国史~』。
同じく、小説家になろう23年度コメディージャンル年間ランキング1位『序列22位の俺が現場の猫人にとことん優しくしたら、なんかめっちゃ慕われて工事もはかどり、王位継承筆頭にされたからヨシ! ……いや、ヨくねえ!』。
やっぱり小説家になろうで24年度空想科学ジャンル年間ランキング2位『悪役令嬢に転生しましたが、人型機動兵器の存在する世界だったので、破滅回避も何もかもぶん投げて最強エースパイロットを目指します。』。
「どうして……! どうして、ボクの書いた小説は出版社様のお目に止まらないんだよ!
うわーん!」
「あーあ、また始まったよ」
御茶ノ水恵子は、目の前でスマホ画面を見せながらわざとらしく泣き出した目黒愛に、軽くため息をついた。
居酒屋内を見回せば、そんな目黒の騒ぎっぷりに、他の酔客たちが好奇の視線を向けてきている。
「ほら、水でも飲んで少しは酔いを覚ましな。
周りの迷惑になるよ」
「うぇへへー、ボクは酔ってなんかないよ。
ボクを酔わせたら、大したもんですよ」
へべれけになりながら答える目黒だ。
そんな彼女の眼前には、空のジョッキがすでに六つも並んでいる。
あまりつまみに手をつけず、酒ばかりぐいぐいと飲むのは、こいつの悪癖だった。
「あ、お姉さん! ビールおかわりください!」
「まったく」
性懲りもなく中ジョッキの追加をオーダーした友人の姿に、またもため息を吐く。
いい子なのだ。
でなければ、高校時代から大学生現在に至るまで、友人関係を続けたりはしない。
ただ、いかんせん悪い部分も多い娘であった。
例えば、喋り方。
「ボク」というなんとなくカタカナで発音していそうな一人称といい、話し方といい、漫画やアニメのキャラを模倣しているのだろうざーとらしい泣き方といい、気持ち悪い種類のオタクそのまんまである。
良すぎる顔と豊満な胸があるからこそ、カバーできているといえるだろう。
ただ、せっかくのルックスをかなり台無しにしているのがファッションセンス。
まず、この女……何を考えてか、肩口で揃えた髪を銀色に染め上げ、赤いメッシュまで入れていた。
常在コス会場を志す気合の入ったコスプレイヤーか、あるいはただの痛いバカでなければやらないことであり、残念ながらこいつは後者に該当する。
着ている服は、上下共にブラックのレザースタイル。
おかげで自己主張の激しいおっぱいの形を服の上からでも堪能できるのはどんとこいであるが、やはり、通常の感覚があればチョイスすることのない服装だろう。
御茶ノ水の方はといえば、黒髪を適当なストレートにしてメガネ着用。
服は、アパレルブランドでマネキン買いしたもので、傍から見れば対照的な二人であろう。
そんな自分たちを結び付けているのが、ネット小説であった。
もっとも、これも対照的な点として、御茶ノ水が読み専なのに対し、目黒は書く側であったが。
しかも、先ほどから置かれっぱなしのスマートフォンに表示されたランキング履歴を見れば分かる通り、十分な実績を上げている。
が、それは御茶ノ水の意見でしかなく、目黒は現状に不満タラタラなのだ。
なぜならば……。
「なんでだよー! うおー!
確かに、年間一位っていっても、過疎ジャンルだよ!
だけど、結構な読者が付いてるじゃん!
カクヨムで並行掲載した『序列22位』の方は、ニンテンドースイッチ買えるくらいのリワードくれてるしさ!
なのにどうして、書籍化に繋がらないんだよー!」
……大体全部自分で説明してくれた。
もし、これが小説だったならば、もう少し台詞以外で描写すべきではと苦言を呈するレベルである。
「まあ、でも、わたしもそうだし、読者は評価してくれてるじゃん?
それに、公募だって毎回いい線いくんでしょ?
『悪役令嬢エースパイロット』、Nolaエージェント春夏秋冬コンテストの2025夏編中間選考で残ったって言ってたじゃない?」
「結局、落選だよお! プロになれなきゃなんのいみもないよお!
やっぱり世の中、クソ、クソ、クソだよ!
好きを詰め込んで書いて、内容も面白い『バッタの改造人間が勇者召喚された場合』や『引退した元傭兵ですが、最愛の娘がさらわれたため、今から宇宙海賊を壊滅させます』は2000ポイントとか1000ポイントくらいしかいかないし!
それで仕方なく、我慢して受けそうなもの書いてるのにこの仕打ち! あんまりだあ!」
「それで、最近は新作を投稿して打ち上がらなかったら打ち切りを繰り返してるんだっけ?
読者の立場で言わせてもらうと、よくないと思うよ?」
自らもジョッキに口をつけつつ、目を細める御茶ノ水だ。
だが、運ばれたばかりの新しいジョッキを豪快にあおった目黒は、こちらの冷たい視線を華麗に受け流した。
「そんなの知ったこっちゃないよお!
こっちは、時間と労力をかけてるんだから!
伸びない作品につぎ込むコストはないよ! スーパー戦隊も不採算で終了する時代だよ!」
「あんた、通学時間にスマホで書いてるだけじゃない?
それに、よく言うでしょ? 完結させるのが大事だって」
「はい、出ましたー!
言っとくけど、ボクが思うにそれ言ってるのは、ライバルの足引っ張りたいだけの人だよ!
『気が触れている』も『序列22位』も『バッタ』も『引退した』もきちんと書ききっているし、他にも、
『「ええ!? もやしを栽培したから婚約破棄ですって!?」 ~凶作を見越した結果、婚約破棄されましたが、功績を王子に評価され求愛されてしまいました~』とか、
『スライム、騎士になる ~最弱モンスターが、愛の力で姫殿下の近衛騎士になった件~』とか、
『隣席の無口美少女から、ミリオンなソシャゲのフレンドになってほしいと頼まれた』とか、
『「闇の魔法を研究している者とは結婚できない」と婚約破棄を言い渡されましたが、あなたが新しいパートナーに選んだ娘こそ闇の勢力に属していて、私は彼女からあなたを守るために研究していたんですが。』とか、
『君とGプラを組みたい』とかはプロット組んで最後まで書ききってるよ! 知ってるでしょ!
その上で言うと、完結させて身につく力なんか存在しないよ! あるなら、ボクはとっくにブレイクしてるよ!」
よくもまあ、これだけ長文タイトルをスラスラ並べられるもの……。
そのことに半ばあきれながら、相槌を打つ。
どうせ酔っ払っているのだし、適当に肯定だけしてやって満足させればいいのだ。
「こんなんじゃ、11月4日火曜日から連載開始予定の『オタクに優しいギャルの正体がギャルを装ったオタクであると俺だけが知っている。』もきっと泣かず飛ばずだよ! うわーん!」
「次から次に新作を出すエネルギッシュさは、本当に大したもんだと思うよ」
「ネット小説なんてものの本質は、ガチャだよ!
もちろん、流行の題材使ったり長文タイトルにしたりとか、工夫はするけどさ。
どのタイミングでどれだけの人に見てもらえるか、最終的には運!
だから、ガトリングガンさながらに次々と作品を打ち出すのが唯一の攻略法なんだ!
しかも、ボクの打ち出す弾丸はどれも一級品だ、よ!」
したり顔で話す目黒だ。
だから、御茶ノ水はついこんなことを言ってしまったのである。
「そんなに数を出すのが大事なら、AIでも使うのがいいかもね」
その言葉に……。
酒で正体をなくしつつあった目黒が、急にシャキリと姿勢を正した。
ばかりか、その瞳には強い光が宿っているのだ。
この状態を、御茶ノ水はよく知っている。
こいつが、何かアイデアを得た時であった。
「ちょっと、あんた何かよからぬことを……」
だが、今回ばかりは不穏な空気が漂ったため、そう言って止めようとしたのだが……。
「――ごめん!
ボク、今すぐ帰ってやることがあるから!」
目黒はそう叫ぶと、自分が食った分の金を置いてさっさと帰ってしまったのである。
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結論から言おう。
奴はハジけた。
AIを駆使して一日38作品も投稿した結果、そのうち一作が見事カクヨムの総合ランキング一位を獲得したのである。
結果……。
「うわーん! カクヨムで出禁食らったよー!」
本日もこうして、チェーンの居酒屋でくだを巻いていた。
「えーと……」
テーブルに置かれた目黒のスマホを手に取り、表示されている文面を読む。
そこに記されているのは、カクヨム側からの通告であった。
いわく。
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【カクヨム運営事務局より重要なお知らせ】
件名:アカウント「めぐろさんま」に対する投稿禁止措置のお知らせ
めぐろさんま様 平素よりカクヨムをご利用いただき、誠にありがとうございます。
カクヨム運営事務局でございます。この度、貴殿のアカウントにおいて、以下の重大な規約違反が確認されましたため、誠に遺憾ながらアカウントの投稿機能を永久に停止させていただきます。
本措置は、本日より即時発効いたします。
■違反内容
・カクヨム利用規約 第14条(禁止事項等)第9項「当社または第三者の知的財産権、肖像権、パブリシティ権、名誉権、所有権その他一切の権利を侵害する行為」に抵触。
貴殿は、AI生成ツール(ChatGPT、NovelAI、その他類似サービス)を用いて作成されたとみられる小説を、1日あたり30作品以上という異常な頻度で投稿しております。
これらの作品は、既存の人気作品を大量に参照・模倣し、著作権侵害の恐れが極めて高い状態で生成・投稿されたものです。
特に、総合デイリーランキング1位を獲得した作品『奴隷少女に回復スキルを使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれた件』については、複数の著作権者から侵害申立が寄せられております。
AI生成物は、学習データに含まれる第三者の著作物を無許可で利用している可能性が高く、本サービスにおける投稿は知的財産権の侵害行為に該当します。
また、上記AI生成物の機械的投稿行為は、プラットフォームの公平性を著しく損なうものであり、
第14条(禁止事項等)第10項「当社または第三者に損害その他何らかの不利益を与える行為」及び 第14条(禁止事項等)第24項「本サービス又は第三者のサービスの運営を妨害する行為」にも抵触します。
■措置内容
投稿機能の永久停止(閲覧・コメント機能は継続可能)
作品の全削除
再犯防止のため、同一IP・デバイスからの新規アカウント作成を制限
書籍化選考対象からの完全除外(出版社連携分含む)
侵害申立を受けた著作権者への情報開示協力(必要に応じ)
■注意事項
・本措置に対する異議申し立ては、運営事務局宛てにメールにて受け付けておりますが、著作権侵害の証拠が明確であるため、覆る可能性はございません。
・今後、類似行為が確認された場合、アカウントの完全削除および法的措置(民事・刑事)を検討いたします。
・カクヨムは「人間による独自の創作」を保護するプラットフォームです。AI生成物、特に他者の知的財産を侵害する可能性のある投稿は一切認められません。貴殿のこれまでのご執筆活動には一定の評価をいただいておりましたが、本違反は第三者の権利侵害を伴う重大なものであり、プラットフォーム全体の信頼を著しく損なう行為です。何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。今後ともカクヨムをよろしくお願いいたします。
カクヨム運営事務局
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「うわ……出版社連携で制裁か。
個人情報も登録してあるんだし、ブラックリスト化されてるかも。
そういえば、サンデーとマガジンの経営母体が一緒だったりするんだっけ?
案外、狭い世界。
で、こうなるとあんたの望みは……」
恐る恐る、目黒の方を見る。
あれだけ書籍化にこだわっていた彼女だ。
業界最大手の角川書店に目を付けられた以上、その目は完全に潰れたとみていい。
自業自得とはいえ、一体、今夜はどれだけ大騒ぎするか……。
「こうなったら――自費出版しか勝たん!」
だが、出てきたのはあまりに予想外な言葉。
「はあ?」
これには、御茶ノ水も間抜けな声を漏らすしかない。
そして、目黒はこう続けたのだ。
「このAIランキング騒動がホットなうちに、自らの経験を基にした作品を自費出版する!
そうすれば、最終的のボクの大勝利だ!
うわっはっはっは!」
「こいつは……」
こうなってしまうと、逆に感心してしまう。
この状況を、流行りのラノベにあやかって表現するならば、こうなるだろう。
すなわち……。
業界最大手出版社運営の小説投稿サイトを個人情報登録してAIで荒らし回った私がクリエイターとして生きてくなんてムリムリ絶対ムリ!
※普通にムリでした?
お読み頂きありがとうございます。
ちなみに、作中の通告文はGrokに原文作らせて修正したものです。
ありがとよ、イーロン……!
「面白かった」と思った方や、今回の騒動で物申したい方は、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。




