巣立ち
暫くの留守の間に
ベランダの木棚の箱の上に枯葉や木くずが積もっていた
風が吹き寄せたと思えた塊を捨てようとした時
ベランダの床に広がった小枝や枯葉の中に孵ったばかりの雛がいた
三羽の雛は息絶えているかのように鳴き声もあげず
枯れ枝の中に埋もれていた
しかし微かに呼吸し
その皮膚の上にはやがて羽になろうとしている曲線の連なりも見えた
弱々しく息をする小さな生き物はまるでエイリアンのようにも感じられたけれど
そこにある命を見殺しにはできない
破壊しかけた塊ごと まるでそのためにそこにあったかのような
発砲スチロールの箱に入れて急ごしらえの巣箱を作った
すぐに
自分たちが築いた場所に巣が無いことに慌てふためく親鳥達の鳴き声が聞こえた
だが やがて少し横に自分たちが作ったのとは違う巣箱を見つけて
騒がしさは落ち着いた
人の気配を察すると警戒しすぐに飛び立つ親鳥の様子に
ガラス戸をあけずカーテンの隙間からそっと見守る
枯れ枝の中に埋もれ 時がくると餌を求めて黄色い三角の口を大きく開け
伸ばした首を揺らす様子は時に不気味だ
親鳥が運ぶ餌はグロテスクで 自然界の残酷さを垣間見せる
早く巣立ってほしい気持ちと裏腹に
少しずつ鳥らしく成長していく姿を見る楽しさ
いつの間にか手狭になった小さな枯れ枝の籠に
肩を寄せ合い身を屈めて固まる三羽の雛鳥たち
そして突然 臆病な一羽を残して雛鳥は姿を消し
居なくなった二羽分の空間がポッカリと空いていた
その広くなった住処で心細い声をあげながら躊躇っていた一羽も
親鳥の声や兄弟の誘いについに飛び立った
残された空っぽの小枝や枯葉の塊は
ずっと蹲っていた雛たちの身体の凹みを残している
ほんの少し前まで聞こえていた親鳥の運ぶ餌を求める雛たちの鳴き声と
せわしなく行き来していた親鳥の鳴き声や羽音
すべてが過去のものになり残されたのは雛たちの身体の形の凹みだけ
戻ってくる気配もなく 見上げた空のどこにもそれらしき姿はない
この大空のどこかで あの三羽の雛鳥たちは無事に生き延びていくのだろうか
少しの間ただ見ていただけなのに もう二度と出会うこともないから
巣立ちという寂しさを知った