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巣立ち

作者: kami10enpitu

暫くの留守の間に

ベランダの木棚の箱の上に枯葉や木くずが積もっていた


風が吹き寄せたと思えた塊を捨てようとした時 

ベランダの床に広がった小枝や枯葉の中に孵ったばかりの雛がいた


三羽の雛は息絶えているかのように鳴き声もあげず

枯れ枝の中に埋もれていた


しかし微かに呼吸し

その皮膚の上にはやがて羽になろうとしている曲線の連なりも見えた


弱々しく息をする小さな生き物はまるでエイリアンのようにも感じられたけれど

そこにある命を見殺しにはできない


破壊しかけた塊ごと まるでそのためにそこにあったかのような

発砲スチロールの箱に入れて急ごしらえの巣箱を作った


すぐに

自分たちが築いた場所に巣が無いことに慌てふためく親鳥達の鳴き声が聞こえた


だが やがて少し横に自分たちが作ったのとは違う巣箱を見つけて

騒がしさは落ち着いた


人の気配を察すると警戒しすぐに飛び立つ親鳥の様子に

ガラス戸をあけずカーテンの隙間からそっと見守る


枯れ枝の中に埋もれ 時がくると餌を求めて黄色い三角の口を大きく開け

伸ばした首を揺らす様子は時に不気味だ


親鳥が運ぶ餌はグロテスクで 自然界の残酷さを垣間見せる


早く巣立ってほしい気持ちと裏腹に

少しずつ鳥らしく成長していく姿を見る楽しさ


いつの間にか手狭になった小さな枯れ枝の籠に

肩を寄せ合い身を屈めて固まる三羽の雛鳥たち


そして突然 臆病な一羽を残して雛鳥は姿を消し

居なくなった二羽分の空間がポッカリと空いていた


その広くなった住処で心細い声をあげながら躊躇っていた一羽も

親鳥の声や兄弟の誘いについに飛び立った


残された空っぽの小枝や枯葉の塊は

ずっと蹲っていた雛たちの身体の凹みを残している


ほんの少し前まで聞こえていた親鳥の運ぶ餌を求める雛たちの鳴き声と

せわしなく行き来していた親鳥の鳴き声や羽音


すべてが過去のものになり残されたのは雛たちの身体の形の凹みだけ


戻ってくる気配もなく 見上げた空のどこにもそれらしき姿はない


この大空のどこかで あの三羽の雛鳥たちは無事に生き延びていくのだろうか


少しの間ただ見ていただけなのに もう二度と出会うこともないから

巣立ちという寂しさを知った











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