第二話 西王母、星空の抱擁、告白
第一話程ではないものの、少々長くなっております。お付き合い頂ければ幸いです。
「して、そのまま惚けておったのか、たわけ共めが」
特段大きな声というわけでもないにも関わらず、郭洋宅全体に鳴り響く、幼くも威厳溢れる声。
西王母である。
玉英との事故により真っ赤になっていた『琥珀様』ではない、本物の、西王母だ。
この天下――周華国を様々な面で司る五神の一柱にして、白虎族の始祖であり、創造主であり、つまるところ、『神』である。
彼女の外見は、瞳が常時黄金色に輝いていることと、明らかに五歳児程度でしかないことを除けば、『琥珀様』――琥珀と瓜二つ。
真っ白な着物に身を包み、白虎の耳と尾を持ち、雪よりも白い肌と髪――そう、髪型も異なる。
西王母は、前髪を目の上で、それ以外を首にかかるかどうか程度で切り揃えているが、琥珀は、前髪を左右不均等に伸ばし、全体も概ね肩にかかる程度。加えて、左右の横髪、前寄りの部分が、他よりもいくらか長くなっている。
扇で隠していればわからぬ程度の違いだが、両者を見知っているのであれば、明らかに身体の大きさが異なるので問題にはならない。
ともあれ、その『神』たる西王母が、先触れを出した上で、自らの民の家を訪れた結果目にしたものは、顔を真っ赤にして見つめ合う愛娘並びに同世代の鬼の娘と、その娘達を眺めながら固まっている女達、そして食い入るように見つめている――先触れであったはずの――少年だったのだ。
呆れ返るのも無理からぬことである。
「申し訳ございません」
自宅の奥の間で平身低頭する郭洋。
郭洋だけではない。西王母以外の者は全員平伏している。西王母から見て、左から琥珀、玉英、郭洋、郭玄、子祐である。
「良い。琥珀の悪ふざけに其方等が付き合うてくれておるのはわかっておる」
西王母は、琥珀のものよりやや豪奢な作りの黒扇を玩んだ後、小さくも滑らかな手で微かに音をさせながら閉じ、続ける。
「しかし琥珀。いと珍しき旅の者をからかわんとして、返り討ちにあったそうじゃな」
と、睨め付けていたかと思えば、
「胸中、吐露しても良いのじゃぞ?」
と言い終わる頃には口角を上げていた。明らかに、楽しんでいる。
「母上、どうか、ご寛恕下され」
耳を伏せたまま、琥珀は僅かに面を上げて言った。赤みがぶり返しており、うっすら涙すら浮かべている。
「呵呵、流石に我が娘の中の娘、そうした顔もよう似合うておる」
幾分嗜虐的ながら、それが愛故であることは邑の誰もが知るところであり、今や玉英と子祐にも十二分に伝わった。
しばし笑い続けた後、
「さて、『因果応報』の教示はここまでとする」
纏う空気が一変した。極寒の山頂の如き厳しさへと。
「麒麟の娘。単なる行倒れではあるまい。何が望みじゃ?」
麒麟。白虎たる西王母と同じく、五神の一柱であり、鬼族の始祖にして創造主、即ち『神』である。
玉英は平伏したまま答える。
「ハッ。麒麟が娘にして麒飛、麒尚の娘、麒――」
「名は良い」
西王母にとっては、麒麟の血を色濃く受け継ぐ者――王族――というのは一目瞭然であり、その名を知る意味は無かった。
「ハッ、されば恐懼の至りながら……玉英が申し上げます」
「許す。面を上げよ」
本当には興味すら無いような声。
「ハッ。……私と、我が従者子祐に……秋を賜りたく存じます」
目を見開き、腹の底から声を出した。
「秋だけで、良いのか? 我が民を、白虎族の武威を、求めはせぬのか?」
琥珀相手の際とは異なる、残酷なまでの嘲り。
白虎族は大多数が西方の山間に暮らしてこそ居るが、戦力としては、鬼族や、東方の青龍が眷属・竜爪族と並び、天下最強を競っている。
西王母は、何があったのか見通しているようだった。あるいは、玉英達が知り得ぬことすらも、知っているのかもしれない。
「白虎族の平穏な暮らしを、これ以上乱しとうございませぬ」
既に乱してしまった分等、戦禍に巻き込む場合とは比ぶべくもない。
「ただ、幾許かのご指南を賜われれば、この上なく、ありがとう存じまする」
練武についてである。
西王母は、もはや伝承の中にしか存在しない麒麟や青龍と異なり、しばしば民と接する『神』である。
本来白虎族には不要と思われる『武』を、戯れに教える……という噂が、極一部の者達の間で、まことしやかに囁かれている。
玉英にとっては、郭洋の持っていた鉄棒が、その噂を信ずる根拠になった。
「其方に、必要か? そこな従者も、なかなかの手練れであろう」
黒扇を開きつつ、子祐を一瞥して言う。
「私は……私が、強くならねば、なりませぬ」
先の刺客が、そして内城脱出の際に犠牲となった者達が、脳裏を過ぎった。
「私を信じてくれる者を、これ以上、私の力不足で、死に追いやりとうないのです」
見開いたままの目から、溢れ落ちるものがあった。
「殿下……」
子祐は平伏しながらも視線を動かし、思わず呟いていた。
西王母はそれを聞き流し、
「死なせぬためだけ、か?」
重ねて問う。
「いえ。必ずや、報いを受けさせるためにも、用いまする」
真っ直ぐ目を見て答える玉英の瞳に、昏い紅蓮の炎が渦巻くのを、西王母だけは見た。
「復讐、か。……良かろう。心根は見た。邑への滞在を許す。指南も、気が向けばしてやろう」
空気が、和らいだ。
「今の天下において、復讐を止める理由はない。むしろ、何もせぬような意気地無しでは、我が娘を嫁になどやれぬからのう」
「ハッ。……嫁?」
「なっ」
「えっ」
「あっ」
「おおおっ」
玉英、琥珀、子祐、郭洋、郭玄。
五者五様の反応であった。全員、思わず頭を上げていた。
郭玄はやけに上気していた。
「我が愛娘と口付けを交わした。さにあらずや?」
無礼は見逃し、あまりにも豊かな抑揚で続ける西王母。
「そ、それは……致しました」
数瞬目が泳いだものの、最後にはまた真っ直ぐ視線を交わす玉英。頬が染まっている。
西王母は、やはり真っ赤になって口を開け閉じしている琥珀も視界に収め、しかし言及はせずに笑う。
「呵呵、其方のその目。愛いのう、愛いのう、褒めて遣わす」
「ハッ」
しかし、玉英の返事を聞き、溜息を吐く。
「もう面倒な話は終わっておる。仮にも我が義娘になるのじゃ。金輪際、そのような堅い物言いは禁ずる」
「……は、い」
「幾分ぎこちないが、まあ良かろう。では玉英。良いな?」
「否やはありません」
「まだ堅いのう。それに、気持ちが伝わらん。本当に、良いのじゃな?」
「私も鬼族の端くれ。自らがしたことの責任は、生涯かけて取る覚悟があります」
「ふむ。琥珀のことは、美しいと思うか?」
「はい、とても」
「好ましいか?」
「はい。可愛らしい方だと思います」
淀み無く答える玉英。
ちらりと琥珀を見て、目が合い、微笑んだ。
琥珀は、それに応えることもせず、普段はやや吊り気味の大きい目を、皿のようにしている。いつの間にか、瞳が黄金色を帯びていた。
「琥珀も、良いな?」
西王母の問いにも、答えない。
「ふむ……昂ぶり過ぎて気を失ったか。目を開いたままでとは、我が娘ながら、器用なもんじゃのう」
本当に感心したかのように言う西王母。
「良し、玉英。琥珀にもう一度口付けよ。それを以て、婚約と為す」
黒扇を勢い良く閉じながらの宣言に、慌てて上申する。
「そんな、西王母様、私には出来ません」
「なぜじゃ?」
見た目相応の、無邪気な声。
「意識の無い相手に、勝手に……など、してはならないと、思います。第一、皆の前で……」
目を伏せた。
「律儀じゃのう。まあ、それも好もしい。では、抱き締めることで其方の意思表示とする」
玉英は再び見上げ、
「それくらいでしたら……」
西王母の心理術には気付かず、
「では」
と覚悟を決めて移動し、琥珀をそっと抱き締めた。
然しもの琥珀も目を覚まし、数瞬。
「きゃあああああああああああああああああああああ」
悲鳴を上げながら玉英の身体を押し退け、左頬を打ち、家の外へと駆け去っていった。
「よく考えると、勝手に抱き締めるのも、ダメですよね」
頬を抑えつつ、今更ながら思い直す玉英。
「そこまでダメというわけでもなかったはずなんじゃが……すまぬの玉英。迎えに行ってくれんか。十中八九、あそこに居るはずじゃ」
心当たりの場所を聞き、若干ふらつきながらも、向かった。
尚、心配した子祐が付いて来ようとしたため、「これは私だけでやるべきことだ」と言い渡した。
子祐は密かに見守ることにした。
西王母の心当たり。
邑の奥深く、西王母と琥珀が暮らすという『聖域』の目印たる大木、その少し手前を、右。
三重の月明かりも僅かにしか届かない、木々の生い茂る道をしばらく進んだ先、枝葉の天井が途切れたところに、果たして琥珀は居た。
一応の囲いこそ設えてあるものの、天然の湯である。
「入っても、いいかな」
立場も何も無い、ただの友に対するつもりで、問い掛けた。
「母上に言われて来たんじゃろ。入ればよかろ」
水を叩くような音と共に、ぶっきらぼうな答え。
「確かに場所は聞いたけど、西王母様とは関係なく、琥珀と話したいんだ。……琥珀、と呼んでも、いいかな」
「もう呼んでおるじゃろ」
「ごめん。でも、また間違えたくはないんだ。……呼んでも、いいかな」
琥珀は鼻で笑って答える。
「勝手にせい」
「ありがとう、琥珀。入っても、いい?」
「勝手に、せい」
先程よりも、控えめな声。
「ありがとう。じゃあ、入るね」
着物をスルスルと脱いで脇へ置き、囲いの内側へ踏み入った。
琥珀が、湯を汲んであったらしい桶を、湯へ浸かったまま背中越しに差し出した。
「掛け湯という。湯へ入る前に、汗と埃を流すのじゃ。知っておるかもしれんが」
「ううん、ありがとう、琥珀。もらうね」
最初は手で温度を確かめてから、ゆっくりと身体に掛けていく。
「お邪魔します」
幾度か繰り返してから、湯へ入った。琥珀のすぐ左隣、腕が触れる程の距離である。
「遠慮せんのじゃな」
琥珀がやや睨む素振りを見せた。
「入っていいって言ってくれたからね」
玉英は満面の笑みで応えた。
「勝手にせい、と言ったのじゃ」
「いい、ってことでしょ? かけ湯だって」
「あー、もう良い。いいと言った。それで良い」
「ふふっ、ありがとう」
「何がじゃ」
「ううん、何でも」
玉英が笑い終えるのを待って、琥珀は訊く。
「して、話とは、なんじゃ」
「うん?」
何も考えていないような反応。
「話をしたいと言っておったじゃろう」
「あー、うん。でも、半分はもう叶っちゃった」
「なんじゃと?」
眉根を寄せる琥珀。
「こうやって、他愛もない話をして、仲良くなりたかったんだ」
「仲良くなど」
と言いかけたところで、顔を覗き込んできた玉英に被せられる。
「ね、もっと琥珀のこと、教えてよ」
「存外、強引じゃな」
「本当に嫌だったら、言ってくれるでしょ?」
「ふん。八つ裂きにされたいのかえ」
「琥珀は優しい子だもん。そんなことしないよ」
玉英はずっと、満面の笑みである。
「そうとは限らんのじゃがな」
琥珀は唇を尖らせた。
尾は、ゆったりと揺れていた。
「あはは、大変だったんだ」
「うむ。風介の尾の垂れようと来たら傑作での――」
話してみれば、いずれも齢十一。誰に対して気張る必要もない、お互いだけの刻は、容易に齢相応のやり取りへと至らせた。
今は、邑の黒犬・風介が生まれた時の話から、初めて木の枝を『取って来い』出来た時の話、禁じられていたのに一緒に湯へ入った時の話を経て、その後並んで叱られた時の話をしている。
それも一区切り付いた頃、湯を見つめながら、琥珀が尋ねた。
「この邑を、どう思うかや?」
「うーん、どう、って言える程に、まだ知らないけどさ」
「うむ」
「郭洋さんも西王母様も手を差し伸べてくれたし、琥珀の話では、他の皆も良い方ばっかりで……何より、琥珀を優しい子に育ててくれている。暖かいところだと思う」
「湯もあるしの」
「あはは、そうだね」
「しかしそうか、そう見えるのかや」
冗談を挟んだ割には、沈んだ声だった。
「何か、あったの?」
「……妾は、母上の、西王母の娘じゃ」
「うん」
「後継者、と皆が言う」
「うん」
「『凄いね!』とか、言わんのかや?」
「言って欲しいの?」
「いいや、言わんで良い」
「わかった。言わない」
あまりにも素直な玉英と視線を交わし、つい口に出た。
「犬かや?」
「ワン!」
元気の良い鳴き声。
「風介よりも聞き分けが良いのう」
「ワンワン!」
「玉英」
「うん!」
元気の良い返事。
「玉英。そう呼ぶぞ」
「うん! もっと呼んで、琥珀!」
無いはずの尾がぶんぶんと振られている様を幻視した。
「玉英、実はお主、鬼ではなく犬だった、ということは無いかや」
「そうだったら可愛がってくれた?」
「風介と同じくらいにはの」
「やったあ!」
「それでいいのかや」
「ダメ?」
「それを決めるのは妾ではないのじゃ」
「確かにそうだね」
「はあ、何やら馬鹿馬鹿しくなってきおる」
困ったように笑い、五つ数える程の間を空けてから、問うた。
「玉英は、家を出たい、と思ったことは、あるかや」
「あるよ」
「どんな時じゃ?」
「一番は、こういう時かな」
顔を上へ向ける。
「私ね、夜空を見上げるのって、好きなんだ」
立ち上がり、空を受け止めるように、両手を広げた。
「城よりもずっと広い、どこまで続いてるかもわからない空に、数え切れない程たくさんの星。光り輝く三つの月」
深呼吸を挟んで、言う。
「美しい、と思う」
玉英の赤い瞳は、星空を映し込んでいて。
「この星空に抱かれている天下も、きっと美しいんだろうな、って。だから」
琥珀は、総毛立つような感覚と、胸の高鳴り、そして胸を刺す痛みを同時に得た。
それで、つい口を衝いて出た。
「ならば、今回の旅は望み通りじゃったのう」
「……うん、そうだね」
玉英が、笑みを浮かべたまま、顔を歪ませて。
はっ、とした。
「違う、今のは、違うんじゃ」
琥珀も立ち上がって、玉英を抱き締めた。
「すまぬ玉英、すまぬ、妾は、知っておった、はずなのに」
正確には、知らなかった。
ただ、推測は、出来た。
西王母は、麒麟の娘、と言った。
西王母の娘、と呼ばれる琥珀には、その意味は十分に通じた。
白虎族の武威を……とも言った。
復讐、とも。
そんな、尋常な理由で、好き好んで、ここに居るわけではない玉英に、何を言ったのか。
「妾は、愚か者じゃ……」
声と身体を震わせ、涙を流しながら抱き着いている琥珀を、自らも震えつつ、それでもしっかりと抱き締めかえしながら、玉英は言う。
「大丈夫。私も、間違えたから。おあいこ。ね?」
琥珀には、とても「おあいこ」とは思えなかった。
互いに落ち着いてからもう一度湯に浸かり、温まった頃、互いに膝を立てて座り、見つめ合いながら、ぽつりぽつりと、話し始めた。
「親の決めた相手と……結婚する。それが当然なのは……わかっておる。じゃが、妾は……伴侶くらいは、自分で……決めたいのじゃ」
西王母の――白虎の後継者になる。その生まれ持った定めは、変えられずとも。今後の生からすればほんの瞬き程の間でも、邑を出て、誰かを愛し、共に過ごしたい。
琥珀の、せめてもの願いだった。
先程は、そんな願いを抱く自分が、酷くちっぽけに、惨めに思えて、反対に玉英は大きく見えて――羨ましくて――、美しくて――胸が苦しくて――混乱した。
初めての、対等な相手のはずなのに、何かが違ったのだ。自分が学び得るべき何かを持っている、と感じた。
「そう、だね。私も……出来ることなら、そう思う」
玉英も、王女に生まれ、生の大半は決められた通りに生きてきた。
そして、決められていなければ生きられない、という面も、自覚している。
いや、今回のことで、強く自覚した。
逃亡先とて、予め父王から「万が一の事有らば、西王母様の御袖にお縋りせよ」と言われていなければ、何としてでも兄に付いて行ったことだろう。――竜爪族を頼ったはずの兄は、既に成年。王族として鍛え上げてきた兄ならばきっと無事でいようが、もし自分が足を引っ張っていれば、どうなったか。
また、仮定は措くにしても、道中は子祐に頼り切りだった。食糧の一つすら、教わらなければ自分では用意出来なかった。
所詮は齢十一。王城都市・京洛を脱出した際には、まだ十だった。しかも、王族として甘え切って生きてきたのだ。
お忍びで幾度も遊びに行った城内の一部も、おそらくは手を回されていたのだろうと、今ならばわかる。
そんな中、初めての、対等な相手。同じものを、違うように見て、ぶつかってくれるかもしれない。
「「だからこそ」」
期せずして、声が重なった。
「もしや、同じことを考えておるのかや?」
「そうかもしれないね?」
揃って口角を上げ、どちらともなく向き合って立ち、今度は意図的に揃えて言った。
「私と」「妾と」
「「婚約して」」
「下さい」「たもれ」
声を上げて笑った。
柔らかく、互いを抱きながら。
琥珀の尾が、玉英の腕に巻き付いていた。
「ところで、その口調は、素なのかや?」
湯から上がり、着物を着ながら問うた。
「うん?」
すぐ隣。玉英も着物を整えながら、視線を向ける。
「母上と問答しておった時は、もっとこう、堅苦しかったじゃろ?」
首を傾げる琥珀。
「ああ、そうだね。どうなんだろう。基本的にはあっち、っていうか、この口調で話すのは、琥珀が初めてだね」
「初めてじゃと!?」
つい声を荒げてしまう。
「うん。私は王女――『殿下』だから」
「妾が『琥珀様』になってしまうのと」
「そう、同じ。そういうところも、似てるよね、私達」
「そうじゃのう……それと」
琥珀の耳が忙しなく動いている。
「なあに?」
「生涯かけて責任を取る、とかなんとか言っておったじゃろ」
頬を染めながら尋ねる。
「うん、改めて、そのつもりだけど?」
「それは嬉しいんじゃがの、口付けは確かに……その……大事じゃが、いくらなんでもそこまでのことかや?」
「えっと……そっか、鬼族じゃないもんね。知ってるとは限らないか」
西王母は、間違いなく知っていた。
「何をじゃ?」
「うん、ちょっと、言い難いんだけど」
「うむ」
「怒らないで、っていうか、驚かないで、っていうか」
言い淀む玉英。
「なんじゃ、婚約者をそんなに信用出来んのか」
詰め寄る琥珀。
「そうじゃなくて、うーん、私も恥ずかしいんだよね、これ。でも、まあ、今言わない方がまずいよね、よし!」
「うむ!」
玉英が決意を固め、琥珀も気合を入れて聞く。
「鬼族の女性は、口付けだけでも、女性を孕ませることが出来るんだ」
「……な……な……な!」
琥珀の顔色が何色あるのかわからないくらいに慌ただしく移り変わり、最後には真っ赤になって、噴火した。
「なんじゃとぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」