コンビニの出会いだって悪くないんじゃない?
そりゃ出てもいいと言ったのはわたしでけど…ワンオペなんて聞いてないし。マジなんなの。マジでやめてやる。まぁ、やめないけど。
・・・・・・・
早朝からの電話。バイト先のコンビニからだった?
せっかくの休日なのに、朝からうるさい着信音とバイブレーションで起こされ、わたしはいきなり不機嫌である。
電話の内容は、夜人がいないから入ってくれないかという出勤の相談。
まぁ夜ならいいか…じゃなくて早朝から電話してくんなし!と、言ってやりたかったが、そんな事を言える性格でもなく。えぇ、そりゃあたし小心者ですから。はい、やりますよー、やります。
高校卒業してからしばらくニート。
一応、両親は所謂富裕層に属する種族。
あたし働かなくても別に困りません、っていう属性です。
ただ、流石に親に申し訳ないからせめてバイトを…と始めたのが、駅前のコンビニエンスストア。
働いたことのないあたしからすれば、十分すぎるほど大変な仕事。
納品捌いて、レジ打って、前出ししてレジ打って、期限切れ捌いて、レジ打って…
これはこれで嫌いじゃあないかもって、なんだかんだ楽しくバイトしていた。
そして、今日は何度も言うが休みなのである。
明日は、朝寝坊してスライムのようにソファでドロドロしてやろーと考えていた前日の夜。
昨夜の期待を返してくれ、と言いたい。店長コノヤロ。
とりあえず、夜まで時間あるから気を取り直してスライムになろう。
・・・・・・・夜・・・・・・・
バイト先のコンビニに到着。
夕勤メンバーに挨拶して、ある事に気づく。
あれ?あたし以外のもう一人は遅刻?
『あ、今夜はるかちゃん一人だよ?』
・・・はぁ?
・・・舐めてる?舐めてるよね?あたし、わざわざ出てきたんですけど?それで、ワンオペかますか?店長出てこいやっ!
と心の中で心の底から密かに叫んでいた。
きっと、心の声は顔色から漏れていたのだろう。
夕勤メンバーの二人は、申し訳なさそうに帰っていった。
あ、今夜は覚悟しよう。そして、店長、後日覚悟しろ。
金曜夜のワンオペ。
俄然お客様は多いです。なにせ駅前のコンビニ。
学生から社会人まで幅広く、怒涛の来店。
皆さん、休憩って言葉知ってます?体を休ませて憩いの時間を過ごす事を言うんです。ですが、今夜は…修羅場のようです。
結局5時に入り、気づけば11時半を回っていた。
疲れました、あたし。
20歳、若い女の子ですが、体力にもそれなりに自信ありましたが、心疲れました。癒されたい、ソファが恋しい…。
そんな事を考えながらレジを打つ。
サラリーマンのおじさまがた、お疲れ様です。
あぁ、あたし一人ですよ。遅くて申し訳ない…あぁ、イラついてますね、すみません。
一生懸命、表情に申し訳なさを出しながらレジ打ち。
サラリーマン続きだったけど、最後もサラリーマン。
でも、ちょっと?いや、だいぶイケメン?というかタイプだな、うん。こういう人っていい匂いするよね。という人が最後のお客様だった。
珈琲にココア。
あ、彼女さんへのお土産てきな?羨ましい限りです。
と、一人妄想しながらレジ打ちして、代金をもらった時だった。
『ワンオペですか?』
「…え?はい?」
『あ、いや、ワンオペですか?』
「ワンオペ?あ!はい、ワンオペです!」
『大変ですね、お疲れ様、頑張って』
ホットココアを差し出された。
「え?ちょ…え?」
あたふたしている間に、その人はそそくさと出口へ向かってしまった。
「ありがとうございます!!!」
あたしの声が届いたかはわからない。
ただ、あたしの心は完全に奪われた。
今日、マジで出勤してよかった。
店長、マジでありがとうございます。
怨み、一旦忘れます。
イケメン、最高。
どうか、またきてくれますように。
あたしのバイトの楽しみが一つ増えた瞬間だった。