町発見!ドラゴンお断り!
大丈夫かな…?このシリーズイケるかな?
びゅううううう…びゅううううう……
吹雪だ。この服、始めは恥ずかしかったけれどすっかり慣れてしまった。結晶の効果なのか、見た目よりもずっと温かい。しかしこの吹雪はすこしずつ身に応えてきた。
「さ…さむい……」
息で手のひらをふーふー。アオイの炎で焚火をしようにも薪が見つからない。
「どうしよう…歩くのもやっとだ…。アオイ、大丈夫?」
「ん…まぁな、でもあんま気持ちのいい天気じゃないなこれは」
雪も深くなっていき歩きにくくなってくる。露わになっているふとももとブーツの中に雪の冷気が容赦なく入ってくる。
「んんっ…」
「おいおい冬眠すんなよ。寝たらやばいぞ」
「わかってる…」
さすがに眠気がくることはなかったがこのままだと映画でありがちな、雪山で遭難した人たちみたいに体の機能が低下して眠くなってしまうのだろうか?
「……あっ!アレ…」
「なんだ?」
吹き荒れる猛吹雪の向こう側に灯りが見えた。あれはもしかして…。
「いくぞ!人間」
「待って、アオイがいきなり出ちゃったらびっくりしちゃうよ…。町についたらできるだけ家とかの物陰に隠れてて」
「ちぇーっ」
ずぼずぼ、温かな灯りに向かって歩くとそれは洞窟の入口だった。
「…!これは!」
洞窟を進んでいくとしだいに広くなり、大きな空洞の中に何軒もの石造りの家があった。
「地下に…町?」
さっきまでの寒さがウソのようだ。中はあの竜の住処のように温かかった。町のあちこちをオレンジ色のランプが照らしており、ガス灯とも電灯とも異なる不思議な照明だった。町の人たちはそれなりに外出しており、買い物をしたり、近所の主婦同士で会話していたりした。鬼ごっこらしき遊びではしゃぎまわる子供たちの姿もあった。暮らしの不安定だった、あの村とは大違いだ。
「おもしろそーなとこなのに…」
アオイは洞窟の岩陰から顔だけ出してうらやましそうに眺めていた。
「ごめんね、ちょっとの辛抱だから」
僕は町の探索を始めることにした。
極寒の地上が嘘みたいだ。雪のない人類の居住地なんていつぶりだろうか。活気に満ちた商店街を見て回る。
「安いよ安いよ~サバクボコリナッツが今ならひとつ17キューブ!」
「ツララコウモリの皮膜、装備作りにいかがでしょうか?150キューブでございまーす」
キューブ、これがここの通貨の単位らしい。見たことない野菜や肉、そして武器や防具などを売り出していた。僕も旅をするならああいうの買わなきゃいけないかもなぁ。
「!…そういえばお金…どうしよう」
せっかく町に来たのに僕なんて一銭ももっていない。竜のアオイなんて言うまでもないだろう。
「おじさん、その皮膜くださいッス!」
素材屋の前に、いかにもな格好の剣士や魔法使いらしき青年たちのグループが。…冒険者のパーティってやつか。
「はいっ、まいどー」
ほんとに『異世界』来ちゃったんだなー…。
そうだ、情報を集めなきゃ氷床山のこと…世界の行き来のこと…。アオイが待ってる。でも、人と話すのは控えようかな?どこから来たのか経緯について話すとまたあの村みたいにトラブルに巻き込まれてしまうから。冒険者さんたちについていけば何かわかるかもしれない…。僕はそのパーティのお兄さんたちのあとをついていくことにした。
「ミナミカゼ町もだいぶ豊かになってきたな」
魔法使いのお兄さんが町の光景を見回す。どうやらここはミナミカゼ町というらしい。
「だな!これなら今年の冬もへーきだぜ!」
続いて剣士のお兄さんがガッツポーズを決める。太陽なき今、いつでも冬な気がするけど…。
「そろそろギルドのみなさんも帰ってくる時間ですね。混まないうちに報告を済ませましょう」
そしてヒーラーのお兄さん。ギルド…たしか冒険者さんの拠点だったっけ。
あっ…
通りに隣接する何件かのお店のなかに目を引くものがあった。飾ってあったのは絵の具に額縁に…誰かの描いた絵画だ。
「…絵……」
そうだ、能力発動のために何か描くものとかほしいな…いや、久しぶりに紙の上で何か描けたら…。でもお金がないからなぁ…。そんなことを考えていると洞窟の奥の方に到達し、照明で周りを照らされた大きな立派な建物が見えた。ここがギルドか。3人のように装備で実を固めた人たちがぞくぞくと中に入ってきている。
「ちぇー、俺たちが一番乗りじゃねーんかーい」
剣士のお兄さんは少し悔しがってるしぐさを見せ、仲間の2人や他の冒険者とともに施設内に入っていった。
「うわぁ…強そうな人がいっぱい…」
中には弓や杖、剣と盾、さらには斧や大剣といったごっつい武器や防具をまとった屈強な男たちがずらり。自分の胴体ほどある斧を背負ったムキムキマッチョなおじさん、顔や体中傷だらけで激戦を経験してきたという風格を感じた。掲示板に貼られた依頼内容を確認したり、お酒を飲んで世間話を楽しんでいたり…。しかし中にはすらりとした身なりで不思議な杖を持ったお姉さんや、僕と同じかそれより下だと思われる子たちも見かけた。みんな仕事帰りなのか、お疲れ気味のようだったが仲間と交流できてご機嫌だ。
通りの3人は受付から伸びる列に並んでいた。そこでお仕事の報告をするに違いない。部屋はストーブのような装置のおかげで暖かかった。
「これは…!」
依頼掲示板の隣に海と大きな島?大陸?が描かれた地図が貼ってあった。森も平原も、雪を表す白で覆われていた。東西南北は記されていたが、緯度や経度、縮尺はわからなかった。赤道なら暖かいのかな…?地図の下のほうから何本もの矢印が伸びていた。冒険者の何人かがそれを始点に指でなぞって目的地への距離や状況を話しあっていたのでここがこの町、ミナミカゼ町なのだろう。すると反対側は…。地図の上のほう、身長150センチの僕じゃ届かないような場所は海で隔たれ、険しい山々と谷が記されていた。
「『氷床山』…?」
地図に描かれた土地は南は平原が多く、北に行くにしたがって高低差が激しくなっている。アオイの言っていた漠然とした山への手がかりに納得がいく。
「こっからじゃあ何ヶ月もかかっちゃうかも」
もしもアオイが飛べたらどうだろなぁ。また飛行を補助できる道具が生成できたら…しかしあれ以来上手くいったことがない。
「そこの『ぼく』、前進んだよ?」
「へっ…!?」
いつの間にか僕は列に並んでしまったようだ。後ろに並んでいた弓使いのおじさんが指摘してくれた。
「ごめんなさいっ」
列から出ようとしたが、
「次の方、どうぞ」
「はいっ!」
受付嬢さんに呼ばれ、ついつい受付のほうに向かってしまった。順番が回ってきたのだ。どうしよう、見て回るだけだったのに…。ん、待てよ?さっき通りで見かけた画材屋さん…。あそこで描くものを買えば今後の「装備」になる。地面に棒で描くよりもずっといい。そのためにここでちょっとお金を稼いだほうがいいかも…。