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先日までは最強の聖剣使いでしたが、今日から治癒術師(Lv1)としてがんばりますっ!  作者: 小島知晴
第一話 今日から正真正銘の治癒術士ですっ!(しょんぼり剣士と共に)
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第一話 今日から正真正銘の治癒術士ですっ!(しょんぼり剣士と共に) 5


「え? ごめん。後半うまく聞き取れなかったんだけど」

 


 何ごにょごにょ言ってんの? とタカヤが聞き返す。



「だから、エリィ=すにょうごにょごにょ……です!」



 ごにょごにょ言うしかないエリィ。



「エリィすにょう……さん?」



「えっと……だから、エ、エリィとお呼びください!」



「う、うん。それで、そのエリィさんが俺に一体何の用?」



「実はですね……」

 


 戸惑うタカヤに、エリィはいたずらな笑みを浮かべた。



「あなたに是非、私のパーティーに入っていただきたいと思って。そのお誘いに来ました」



「は?」

 


 エリィの言葉にタカヤは間抜けな声を出してしまう。



「いや……君も知ってると思うけど、俺はギルドで……」



「わかっています。わかっているのです。ギルドであまりにも何もできないから誰からもお誘いがかからず、一人しょんぼり逃げてしまったのは知っているのです!」



「え? なんでまた俺の心の傷を抉るの?」



 エリィの言葉に容赦はなかった。

 

 タカヤは目頭がきゅっと熱くなってくる。泣きそうだった。

 

 あんまりだと思った。



「その、エリィ……さん?」



「さんはいらないです。エリィとお呼びください」

 


 エリィは手の平をタカヤの顔の前に突き出し、訂正する。

 

 初対面の女の子を呼び捨てにするのは気が引けたが、是非ともっ! と言わんばかりにエリィが鼻の穴を膨らませているので、タカヤは言われた通りに従う事にした。



「えと、じゃあエリィ……そこまでわかってるなら、なんで俺を誘おうとしてるわけ?」



「実は私、先ほど治癒術士になったばかりでして。一緒に依頼をこなしてくれる前衛職の方を探しているのです。そんな時に丁度あなたのお話を聞きまして……」



「事情はわかるけど、俺ほんとに何もできないよ?君が思ってる十……いや、百倍は何もできないよ?もう、ほんっっとびっくりするぐらい役に立たないかもしれないよ?」

 


 こんな事を自分で言いたくはないが、後になって落胆されたり険悪な雰囲気になるよりはましだ。


 タカヤは半ばやけくそで自分の無力さをアピールした。



「そこは大丈夫です。冒険者としての実力はそんなに気にしていないので、とりあえずでもパーティーに入ってもらえれば……」

 


 エリィにはエリィの事情があるにせよ、戦力にならない人間に声をかけるなんて奇特な人間もいたものだ。

 とはいえ、タカヤにとってはこの上ない話だ。すぐにでも飛びつきたいほどありがたい。


「なるほど……」

 


「お嬢さん、熱心に話してるところすまないけどな。こっちもそのにーちゃんと話てる途中なんだよ。でかい仕事だけど危ないヤマだからよ、そいつみたいな人の人の良さそうな奴を使うのが都合いいんでな」

 

 すっかり忘れさられていた男が、二人の会話に割って入ってくる。

 

 しかも、考えている悪事がだだ漏れだった。

 

 結果的にエリィが間に割って入ってくれたので、男に押し切られずに済んだ事にタカヤは感謝した。

 

 あのまま問答を続けていれば、最後には無理矢理男の悪事を手伝わされていたかもしれない。



「……いかがでしょう?」



 ちらりと男のほうを一瞥して、エリィはすぐに視線をタカヤに戻す。


 男の存在を一応確認はしたが、取るに足らないと判断したのか、男を空気のように扱い無視を決め込むつもりのようだ。


 その余裕はどこから来るのか? 男とエリィを交互に観ながら


 じっ……と、エリィはタカヤを見つめる。



「いかがでょうって……」



 エリィの本気を感じとり、タカヤは逡巡する。


 確かにこのままどこにも所属せずに、ふらふらしていてもいずれ野垂れ死ぬか、さっきのように悪党に利用されてとんでもない事をさせられるのが関の山だろう。


 正直、本当にどうにもならなければどこかの店に頼み込んで働かせてもらうという事も考えていた。

 しかし今、目の前には動機はどうあれ、自分を必要としてくれている人がいる。


 タカヤとしてはこの上なくありがたい話だ。



「おいっ! こっちの話を無視するんじゃねぇっ!」

 

 何度も無視された男は、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、大声で怒鳴りながらエリィの肩を掴もうと手を伸ばした。



「うるさいですっ!」


 男の手が肩を掴むよりも早く、エリィはその場で跳躍し男の脳天に垂直にチョップを叩きこむ。

 

 ゴッ!と鈍い音が鳴り、男は白目を剥いてゆっくりとその場に倒れ込んだ。

 

 割れたんじゃないか? ざわめく周りの客の口からそんな言葉が聞こえてくる。



「えぇー……」



 あまりに鮮やかにチョップが決まった事。


 エリィのような華奢な女の子が荒くれ者の男を見事に倒してしまった事。


 しかも倒された男は白目を剥いて床で大の字で気を失っている事。


 目の前で起こったすべての出来事に、タカヤは驚きで呆気にとられてしまう。

 

 なんなら、ちょっと引いていた。

 

 周囲の反応など気に留めず、エリィはこほんと小さく咳払いする。



「失礼しました。それで、あの、お返事のほうは……」


 男をのした事などすでに忘れたように、何事もなくエリィは笑顔で再びタカヤに聞いてくる。

 

 タカヤの表情は完全に引きつっている。

 

 怖っ! この子、怖っ!! タカヤは心の中で叫ぶ。

 

 先程まで芽生えていた、エリィの誘いに乗ってもいいかも? という気持ちは一瞬で消し飛んだ。

 

 いますぐ逃げ出したい気持ちだった。


 エリィは笑顔で返事を待っているものの、タカヤはどこか無言の圧のようなものを感じていた。

 断るんですか? そう言っているようにも見えた。


 ……実際のところ、エリィはまったくそんな事を思う事もなく。ただ、どうかな? どうかな? とタカヤの返事を待っているだけなのだが……。


 とにかく、タカヤにはそう見えた。


 床に倒れてまだ目を覚まさない男と、笑顔のエリィを交互に見比べる。


 本当はすぐに断って、この場を立ち去りたい。


 でも、もし断ったら自分も男と同じように白目を剥くようなチョップを叩きこまれるかもしれない。


 いや、チョップならまだいい。(良くはないが)これがもし拳だったら……。


 ……死ぬ。絶対に死んでしまう。


 タカヤの背中に寒気が走る。

 

 それは絶対に嫌だと思った。


「わかった、君のパーティーに入るよ」


 タカヤは素直に首を縦に振った。

 

 拒否権はなかった。



「これからよろしくお願いしますね! タカヤさん」



 ぎゅっとエリィが手を握る。



「っっ!! 指っ!」



 反射的にタカヤは体を強張らせた。


 

「ゆび?」



 タカヤの手を握ったまま、不思議そうにエリィは目を瞬かせる。



「ほ……骨」



「ほね?」



 指の骨が折れる。と言いかけたが、その心配は杞憂に終わった。

 

 タカヤの指は無事である。

 

 今もエリィの指に優しく握られている。



「いや、なんでもない」



「はぁ……」



 エリィは意味がよくわからず、曖昧な相槌を打つ。

 当然だが手を握った相手が、自分に指をへし折られるんじゃないかと怯えているなどとは、思いもよらない顔をしている。



「これで……良かったんだよな」



 エリィはエリィでさっきの男とは別の意味で怖いけれど、少なくともエリィは悪人ではない。というのは話していてわかる。


 誰にも必要とされず、無理矢理悪事に手を染めるよりは全然マシだ。


 かなり勢いで決めてしまった事は否めないが、必要としてもらえるなら、できる限りがんばろう。タカヤはそう思った。


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