第一章 逃げ場所、2
ミサイルのような速度で、森を勢いよく飛び出した。後ろから聞こえる二人の怒鳴り声は、どんどん小さくなっていく。全力で首にしがみついているのに、いつか振り落とされそうな気がする。ボクの体は、恐竜に「乗っている」というより、まるで旗のようにバタバタと風に舞っていた。風が強くて目を開けているのがつらい。
「それは、公園だった!やっぱり生きてる!それでよかったけど、どこへ向かってるんだ!?」
ティラノサウルスは、小さくガオとうなりながら幹線道路へ飛び出した。車の間を滑らかに縫うように曲がっていく。通り過ぎるたびに、車の窓から驚いた人の顔がちらりと見える。ごめんなさい!この化け物を止められない!
幹線道路から新幹線の線路へ、そして近くのビル群れへと軽々と移す。急に動きがウサギのように素早くなり、頭がぐるぐると回ってしまった。
トン、トンとビル群れの屋根を次々と飛び越えていく。ボクは吐き気を催した。だが、それをする前に世界が縦になった。その瞬間、ボクはピューッと上へ上へと飛び上がった。恐竜は都市で一番高いマンションの壁を登っている。
混乱した状態でボクは下をちらりと見て、血の気が一気に引き、体が力を失った。死ぬ、死ぬ、死ぬ、マジで死ぬ!落ち着こうにも、もうそれしか考えられなかった。それなのに、ボクは目を瞑らなかった。心臓が激しく高鳴り、今にも胸を突き出そうな気がした。恐怖に震えながらも、その裏側では確かな興奮が沸き上がっていた。なぜそうしたのか、自分でもわからない。ただーーなんと楽しかったのだ。一瞬でも捕まる手を緩めれば、岩のように地面へ墜落する……そんな危険な事実があるのに、夢を叶えるためにこの国へ引っ越し、見知らぬ世界に一人で飛び込むときのようなーーそんな興奮を感じていた。
雲の切れ間から日差しが都市に降り注ぐ。日差しはビルの窓に反射し、ピカリと輝く。この高さから見下ろす街並みは、まるで海のように広がっていた。その豪華な景色が、ボクの目に映った。
突然、急激な動きでマンションの窓へ突っ込んで、ティラノサウルスはそのまま部屋の中へ飛び込んだ。窓ガラスが部屋の中へ四方に飛び散る。恐竜がすぐに止まった。ボクは握力を失い、そのまま壁に叩きつけられた。脳が落ち着くと、体を起こして床に座り込んだ。頭をさすりながら部屋を見渡す。
ここは普通の私室よりも広く、まるで工作室のようだ。いくつもの作業机が並び、その上にはさまざまな機械の部品が置かれている。完成されたものもあれば、まだ金属とネジの状態のままのものもある。見覚えのある場所だ。
「……え?何でここに……?」
言い終わらないうちに、部屋のドアがゆっくりと開いた。完全に開くと髪に青いハイライトが入った、顔に驚きのない青年が立っていた。しかし、本当は青年ではなく、25歳のエンジニアで、博士でもある小池龍登だった。持っているコーヒーカップから湯気がひらひらと舞い上がっている。
「……」
龍登は恐竜を目にした。絶滅から蘇ったティラノサウルスが当たり前の光景のように冷静にコーヒーを飲んだ。やがて、龍登の視線はボクに移る。苦笑いを浮かべたボクは、手をゆっくりと震わせながら、「お邪魔します」と言った。
唇からコーヒーカップを離し、龍登は、二度瞬いた。「……友人?」




