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精神戦隊  作者: 魔法トロ
序章
1/2

プロローグ

                先生と姉ちゃんのために。




                  『夢の始まり』

 誰もが一度は夢を持っていたと、私は信じている。子供の時や高校を卒業した時など、自分が好きなことをやってみたくなり、それを実現するための道を歩き出すーーそんな思いを、きっと誰もが抱いたことがあるはずだ。しかし、大人になるにつれて責任が増し、人生の辛さも重なって、いつしかその思いはかすかになっていく。そうして人は、素の自分を忘れ、ただ、平凡な日々を過ごすようになる。今の社会では、そんなケースがますます増えている。私も夢を忘れるところだった。


 僕はサラ。25歳の女性で、アメリカ出身だ。日本に来たきっかけは、パン屋を始めたいっていう夢があるから。アメリカではパン屋ってそんなに人気がないけど、日本ではよく見かける。それに、日本語が好きだし、「日本ならいいかも」と思って、引っ越してきたんだ。貯金したお金で小さなお店を開き、今はそれを経営している。店の名前は「恐竜パン」だ。そこで僕は、いろいろな恐竜の形をしたパンを作っている。配送サービスもやっている。キッチンスタッフがいなくて、今の生活はバタバタだけど、なんとか乗り切っている。


 パンを配送するために、僕は中古の自転車を使っている。前後のカゴにパンの入った箱を紐でしっかりくくりつけて、お客様の家まで走る。自転車は古いから、チェーンが引っかかったり、止めると「ヒヒー」と鋭い音がしたりする。乗っているといつか粉々に壊れてしまう気がする。でも、便利なものは便利だな。友達が自転車をくれたおかげで、配送ができるようになった。その友達の名前は小池(こいけ)龍頭(りゅうとう)という。


 初めて出会った時から、龍頭は優しい人だと分かった。それに、僕たちは趣味が合って、漫画やアニメの話で盛り上がるうちに、すぐ仲良くなった。今では、何でも話せる関係だ。でも最近は、龍頭が新しい会社に入社したから、会える時間が少なくなってしまった。さらに、龍頭の様子は以前より元気がない。普段は柔らかい微笑みと輝いた目で僕を見ていたが、今の龍頭はその微笑みも消え、虚ろな目の下には黒いクマができている。まるで電池が切れかけたロボットみたいだ。これはエンジニアの負担かな。


 今日は龍頭の元気が特にない。でも、明日からお盆休みだし、お久しぶりに一緒にゲームをする予定だ。龍頭は実家に帰って家族と過ごすのかと思っていたけど、どうやら家族はいないらしい。僕の家族はアメリカにいるから、僕も一人なんだ。でも、本当は、僕たちは一人じゃない。お互いに励ましあえるから。ーーそんな気持ちを、龍頭に伝えたいんだ。それより先に、今日の仕事を終わらせてしまおう。


 今日の仕事は、いつも通りだ。高速道路で死ぬほど自転車を()いだり、階段を登ったり。転がったりしながら、夏の容赦ない暑さに焼かれている。バイクヘルメットを被っているせいで、汗は滝のように流れる。でも、もしなかったら、今ごろ死んでいたかもしれない。最初から「高速道路を走るなら、被ったほうがいい」と思っていたし、それに僕はスーパーヒーローが好きだから、バイクヘルメットのバィザー越しに、自分がちょっとそんな姿に見えるのも気に入っている。命を守るためでもあるけれどーー本当は、スーパーヒーローの姿で、配達をしたかったんだ。


 この都市のビル群れは、まるで山脈のように連なっている。その向こうに、眠たげなお天道様が、静かに沈んでいく。やがて日が暮れ、街灯が道に淡い光を落とし始める。僕はもうすぐ家に着く。着いたらお風呂に入って、そのあと龍頭の家に行く予定だ。龍頭は近くに住んでいるから、遅くまで一緒に遊べる。


 人通りのない帰り道で自転車を走らせながら、私は夜を見上げた。子供の頃は、空に仰いで自分の未来を想像することがよくあった。僕はどんな大人になるだろう、どんな生活を送るんだろうと、よく考えていた。でも、大人になってからは、そんなふうに空を見て考え事をする時間が少しずつ減ってしまった。今の空は、お星も少なくて、光もだんだん薄くなってきた。


 「私の夢は、やっぱり無理なのかな」街灯の下で足を止め、そう思った。日本に来てからの生活は、日を追うごとにどんどん辛くなってきた。新しい言語を学ぶどころか、一人でお店を開き、パンを作っては配達する毎日。どうして、やりたいことをするために、夢を叶えるために、休む暇もなく走り続けなければいけないんだろう?いつになったら休めるの?いつになったら、私の夢は叶うの?こんなふうにしてたら、きっと叶わないじゃない!


 空は薄い雲に覆われ、ゆっくりとどんよりとしてきた。もうすぐ雨が降りそうだ。目じりには涙が滲み、喉の奥が詰まる。自分の道を選ぶ以上、最後の最後まで諦めずに進む覚悟を持つべきだろう。


 この道ーー僕が選んだ道の苦しみは、自業自得だ。最初から、この国に来ることも、パン屋を開くことも、全部、自分で決めた。


 諦めたっていい。誰にも強制されていない。でも、それでも僕は、進んでいる。一歩ずつでも、確かに前に進んでいる。諦めるくらいなら、死んだほうがマシだ。


 「だから、苦しくても、絶対に諦めない。死ぬまで、絶対に諦めないんだ!」


 その叫びを、一発で天に向かってぶつけた。何かの反応を待つように僕は、空を見つめた。どんよりと曇った空に、小さな光が雲の向こうから差し込み、ピカッと光った。突然、雲が幕のように裂け消えた。空は一気に開け、眩しい閃光があたりを照らした。思わず腕で顔を覆ったが、それでも光は鋭く、僕は目を(つぶ)った。


 「……何、それ……?」少しだけ目を開けた。見た瞬間、暗闇を切り裂く光の正体が目に飛び込んできた。6つ、いや5つ……隕石のようなものが空を駆けている。それぞれが群れから離れ、バラバラの方向へと散っていく。でも、そのうちの1つはーー明らかに、こっちに向かって飛んできている!


 近づけば近づくほど、あたりは眩しさを増し、視界は真っ白に染まった。次の瞬間、足元の感覚が消え、僕は宙に浮いたような感覚に襲われた。同時に、肌が焼けるような激しい熱を感じる。それらの感覚を理解する間もなく、何か硬いものに全身をぶつけた。強烈な衝撃とともに、意識がふっと遠のいていった。

 

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