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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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ノウハウ作り

 レイナもシュウの言いたいことは分かっていたが、簡単には同意できなかった。


「あんたの言いたいことは分かるわ。でもあんたの隊の訓練を他の隊でやるのは無理よ。隊員が何人も辞めるだろうし、それにリクやヴェーダが隊員が気を失うまで攻撃できると思う?」

「……部下死なせたくなければそうしろって何度も言ってるんだけどな」


 訓練といえども部下を傷つけるのには抵抗があるという隊長は決して珍しくなく、それにより討伐局における訓練の質が上がりにくくなっていることにはレイナはもちろんシンラも気づいていた。

 しかし週に何度も気を失うまで訓練をさせるとなるとただでさえ少ない討伐局への志願者がさらに減ってしまう。


 こうした事情からシュウが『フェンリル』の隊員に行っているレベルの訓練を討伐局全体で行うのは難しかった。

 こうしたレイナたちの事情まではシュウは知らなかったが、何やら困っている様子の同僚を見て最低限の助言はしておこうと考えた。


「まあ、雑魚共のやる気が無いのは今に始まったことじゃねぇからこっちで雑魚用の方法考えてやるしかないだろ。うちの隊だと何人かでグループ組んで連携してるぞ。そういう感じの事他の隊でもやらせりゃいいだろ」

「それ『フェンリル』の隊員たちの付き合いが長いからでしょ?他の隊って隊員が次々に死ぬから隊員同士の連帯感がいまいちなのよね」

「幼稚園じゃねぇんだぞ!そこまで面倒見切れるか!」


 レイナなりに苦労していることはシュウも察していたのである程度は我慢するつもりだったが、このレイナの発言にはシュウは我慢できなかった。


「前から思ってたんだけど他の隊の奴って討伐局に死にに来てるのか?弱いくせにやる気まで無い奴が多くていらつくんだけど」

「やる気が無いってことはないでしょうけどでも士気は確かに低いわね。結局殉職者が多いからって問題に戻るんだけど、隊員数人での連携ぐらいならこっちで強制しても問題無いかも知れないわね。五人ぐらいが限界かしら?」

「うちの隊だと多くても三人ぐらいだな。それ以上だと自分たちのことに気を取られて他の奴らと連携が取れなくなる。後強制させるなら接近戦タイプ、遠距離戦タイプ、支援タイプをちゃんと分けて組ませないとぐだぐだになるぞ」


 そう言ってシュウはレイナに能力ごとのアドバイスの仕方や他人と連携を取り始めたばかりの人間がしがちな失敗などを伝え、それを聞いたレイナは驚いている様子だった。


「『フェンリル』の隊員たちも思ったより失敗重ねてるのね」

「当たり前だろ。そのための訓練なんだから。後俺がうちの隊員たちにいつも言ってることだけど、隊員たちの仕事は死なないことだろ。あいつら俺たちが邪竜倒すまでのおとりなんだから」

「……あんた、それ隊員たちに直接言ってるの?」

「当たり前だろ。大事な事本人たちに伝えないでどうするんだよ」


 自分の発言を聞き心底不思議そうにしているシュウを見てレイナは絶句した。

 今日レイナはシュウを呼んで話を聞いたが、後日リンドウとリク、ヴェーダにも時間を作ってもらって話を聞くつもりだった。


 レイナが隊の育成・運営について話を聞く相手にシュウを入れた理由はシュウなら言葉を選ばずに考えを口にするだろうと考えたからだ。

 他の三人、特にリクとヴェーダは部下の命に関わる話題の時には必要以上に言葉を選んでしまうだろうとレイナは考えた。


 そのためシュウのこの発言はレイナの望んでいたもので、さすがにここまで直接は言わないがシュウ以外の隊長たちも内容的には同じことを部下の隊員たちに言っている。

 しかしお前たちはおとりだと直接本人たちに言っているというシュウの発言にはレイナも驚き、そんなレイナを見てシュウは苦笑した。


「そんな極悪人見るような顔されても困るな。身の程わきまえて死なないようにしろって言ってるだけだぞ?俺から言わせればぬるい訓練して隊員バンバン死なせてる他の奴らの方がよっぽど酷いぜ」

「……言っとくけどあんたのやり方がうまくいったのはシンラ局長の隊をそのまま引き継げたからで、全員新人の状態から始めてたら確実に失敗してたわよ」


 シュウはシンラが大怪我をして隊を率いることができなくなった直後に隊長になったので、既に一定の強さと経験を持っていたシンラの隊をそのまま引き継いで隊長に就任できた。

 しかしそんな幸運は普通はあり得ず、ほとんどの隊長は素人同然の部下たちと共に一から隊を作らなくてはならない。


 そのためそれらの苦労をしていないシュウが大きな口を叩くのが不快だったため、レイナは今日初めてシュウに不快気な表情を向けた。

 しかしシュウはそんなレイナの表情を見ても余裕の表情を変えなかった。


「その場合は隊長クラス何人か育てて少数精鋭でやってただけだ。今と形が違ってもどっちにしろ『フェンリル』は最強の部隊になってた」

「……そういうことはリクとヴェーダ、それにミアさん以外の隊長育ててから言いなさいよ。隊長そう何人も一から育てられるわけないでしょ」


 リクとヴェーダの素質を見出し隊長が務まるまで育て上げ、現在も隊長候補のミアの育成を行っているシュウの功績はレイナも認めているがこの三人は最初から高い能力を持っていた。

 そのためシュウがこの三人を隊長が務まるまで育て上げたからといって、シュウが更に別の人間を隊長クラスまで育て上げるのは無理だとレイナは考えていた。

 そんなレイナの発言を聞きシュウは楽しそうに笑った。


「へー、いいぜ。そういう挑発は全部乗ることにしてるからな。来年までに隊長クラスの奴二人育ててやる。さっき話に出た氷使いは入れないでだ」

「まさか『妖精女王』みたいな人間がもう一人いるとかいうオチじゃないでしょうね?」


 レイナとしてはシュウの減らず口に対抗して無理難題を口にしたつもりだったので、まさかシュウがこんな事を言い出すとは思っていなかった。

 そしてシュウが本気で自分が口にした目標を達成できると思っているなら、既に自分が知らない強い能力者をシュウが知っている可能性が高いとレイナは考えた。

 しかしそれはレイナの考え過ぎで、レイナの発言を聞いたシュウは呆れた様子だった。


「そんな奴がいたらすぐに連れて来てとっくにセツナ殺してるぜ。お前の言った通り一から育ててやるよ。楽しみにしてな」

「好きにすればいいわ」


 レイナはシュウの目標は実現不可能だと思っており、仮に実現できたところで自分や討伐局の不利に働くわけではない。

 そう考えてレイナはこの話題、及び隊長が先陣を切る形の隊についての話を終え、隊全体を隊長が能力で支援する形の隊についてシュウと話し始めた。


「隊を能力で支援するって要するにお前の真似だよな?……無理だろ」


 大勢の隊員が数に任せて邪竜の足止めをしている間に隊長が邪竜を倒すというのが今の討伐局で主流となっている戦法で、この戦法は極端な話足止め役の人間が全て非能力者でも成立する。

 Bランク以上の邪竜に効果的な攻撃を行える能力者など隊長を除けば討伐局全体でも三十人もおらず、先程シュウが言った通り隊員たちに求められている役割は邪竜相手のおとりだからだ。


 しかしレイナと『レギオン』が現在取っている戦法では隊員たち自らが邪竜と戦う必要があり、そのためには隊員たちが自分たちの隊長に全幅の信頼を置いていなくてはならない。

 レイナは能力による支援で隊員を誰一人死なせないという功績をあげて今の隊員たちからの信頼を勝ち取ったが、ある意味Aランク十体を一人で倒すより難しいこの偉業を他の能力者にも求めるのは酷だろう。

 そう考えてシュウはレイナの案をすぐに否定し、そんなシュウの勘違いをレイナは正した。


「もちろん私のやり方をマニュアル化する気は無いわ。私のやり方はAランクに通用する攻撃力を持っている隊員がいないと無理だし、隊員の犠牲が許されない私のやり方を他の人にもさせるのは現実的じゃないから」

「……言ってる意味が分からねぇんだけど」


 隊長が能力で隊を支援して戦うという戦法は歴代の隊長でもレイナしか行っていない。

 それにも関わらずレイナに自分を手本にする気は無いと言われてシュウは困惑し、そんなシュウにレイナは自分が参考にしようとしている能力者の名を挙げた。


「ガドナーさんとアヴィス君を参考にしようと思ってるわ」

「ああ、そういうことか」


 自分の副官を例に挙げられてシュウはようやくレイナの意図を理解し、隊への支援を行うと同時に隊長が前線で戦うという戦法なら多少は現実味があると納得もした。


「本人にも言ったけどあの新入りの能力まじで便利だもんな。壁と使い捨ての駒どっちも用意できるとか全部の隊に欲しいぐらいだ」

「そうね。火力がちょっと物足りないけど支援能力のおまけと考えたら十分だし、アヴィス君の能力は私の理想にかなり近いわ」

「それにあいつの創ったでかい邪竜の頭に乗って邪竜の群れと戦うの想像しただけでもかっこいいしな」

「まあ、かっこいいかは置いといて隊員たちの士気は上がるでしょうね」


 今討伐局で主流となっている戦法と比べて隊長が戦闘と隊への支援を同時に行うという戦法は隊員たちの死亡率が下がるはずなので、レイナとしては全員は無理でもこの戦法を取る隊長が常に三、四人はいる状況を作りたいと思っていた。

 この戦法は隊長一人ががんばれば実現できるというものではなく、仮にうまくいったとしてもこの戦法が討伐局に定着するには二年はかかるだろう。


 この戦法に適した能力の例をいくつか挙げてのノウハウ作り、任務中どうしても隊長がカバーできない場所でどの隊でも行える普遍的な戦法の考案、隊員たちの意識改革などすることは山積みだったが、多くの隊員たちの命がかかっている以上やり遂げるしかない。


 既に一般的な隊員だけで行える新型の装備を使った戦法(クオンの言葉を借りるなら必勝パターン)はクオンと相談していくつか考案済みで、残る問題は肝心の各隊で隊長を支える人材の育成だった。


「ねぇ、ギオルさんや『三銃士』クラスを育てるとなったらどれぐらいかかる?」

「は?やらねぇぞ、めんどくせぇ」


 話が思わぬ方向に飛びシュウはあからさまに面倒そうな顔をしたが、レイナもシュウのこの反応は予想していたので用意していた案をシュウに伝えた。


「他の隊の目ぼしい隊員を『フェンリル』の訓練に参加させる方向でシンラ局長と話を進めてるから、あんたはいつも通り戦ってくれればそれでいいわ」

「勝手に話進めてるんじゃねぇよ。嫌だって言ってるだろ」

「一度に全員が参加するわけじゃないわ。毎日何人かに分けて参加してもらうつもりだから、あんたはいつも通り訓練してくれればそれでいいわよ」


 シュウは一度訓練に入ると手を抜かないため、無理矢理にでも『フェンリル』の訓練に他の隊の隊員を参加させればシュウは彼らへの指導もきちんと行うだろうというのがレイナとガドナーが相談した際の結論だった。

 そのためレイナはこの案に関しては無理にでも押し切るつもりだったのだが、しばらく黙り込んだ後シュウが口にした案の内容はレイナにとって予想外のことだった。


「目ぼしい奴が来るってことはリンドウのおっさんのとこの二人以外にクオンのとこの火操る奴とか治安維持局局長のとこの大砲女とか来るんだろ?あいつらクラスとうちの連中同時に相手はさすがに無理だな」


 現時点で『フェンリル』はガドナー抜きでもAランクの邪竜三、四体なら倒せるだけの強さを持っており、彼らに加えて他の隊の実力者まで合わせて相手をするとなるとシュウも手加減し損ねる可能性があった。

 そのためしばらく悩んだ後、シュウは気は進まなかったが別の案をレイナに提示した。


「……しかたねぇな。めんどくせぇからそいつらは火曜と金曜の夕方にうちの訓練室に顔出すように伝えろ。まとめて面倒見てやるよ」

「えっ、そこまでしてくれるの?」


 シュウがここまでしてくれるとは思っていなかったのでレイナは驚き、そんなレイナにシュウは面倒に思っていることを隠そうともしない表情と口調で自分の考えを伝えた。


「嫌って言ってもそいつら連れて来るんだろ?うちの隊の訓練の邪魔されても困るし、しかたねぇだろ」

「そう。分かったわ。彼らへの連絡はこっちでしておくから遠慮無くしごいてあげて」

「言っとくけどまじで手ぇ抜かねぇから訓練に参加する連中にはそう言っとけ」


 お手柔らかに頼むと言おうとしたレイナだったがそれではシュウの訓練を他の隊の隊員たちに受けさせる意味が無く、そもそもシュウはこの頼みは聞き入れないだろう。

 そう考えたレイナはシュウの発言に短く返事をするだけに留め、その後シュウがついでだからと口にした各隊の有望な隊員の特徴をメモした。

 シュウは自分が追加で口にした隊員の名前を知らなかったので能力と大雑把な見た目から探し出すしかなかったが、それぐらいは自分でやろうと考えながらレイナはシュウに話しかけた。


「ここまであんたが協力してくれるとは思ってなかったわ。すぐには無理でも討伐局全体の強化が進めば隊員たちの士気も上がって、あんたが隊長辞められる日も早くなるかも知れないからがんばって」

「はい、はい。了解しました」


 自分の発言を受けてぞんざいに返事をしたシュウを前にしても想定以上の結果を得られて上機嫌だったレイナは聞き流した。

 そんなレイナに今度はシュウの方がある相談をしてきた。


「そういや士気上げるで思い出した。最近考えてることがあるんだけどちょっといいか?」

「私でいいなら別にいいけど」


 シュウが興味を持つような話題で自分が力になれることなど無いだろうと考えながらも、今回の礼を兼ねてレイナはシュウの相談に耳を傾けた。

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