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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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反響

 自分の創った繭を見事攻略した人間たちが街へと帰って行くのを見ながら『創造主』は次の手を考えていた。

 今回『創造主』はアイギスの人間に女しか参戦できないという制限を課したが、男しか参戦できない、一定の年齢の人間しか参加できないなど似た様な制限自体は他の街の人間にも課してきた。


『創造主』がこういった制限を課す街は『創造主』の送り込んだ邪竜を安定して撃退できていた街ばかりだったので、いずれの街も犠牲こそ出したものの『創造主』が突然課した試練を乗り越えていた。

 そのため自分が今回観察した街の人間たちが自分の繭を攻略したことには『創造主』は大して驚かなかったが、一人の犠牲も出ないとは思わなかった。


「……一人ぐらい殺しても構わないか」


 剣士、雷使い、毒使いと『創造主』から見ても強い能力者が今のアイギスには三人もいる。

 それに加えてこの三人と同等の強さを持っているあの幻術使いの少女までいるのだから、自分の目についた人間を一人ぐらい殺しても問題無いだろう。


 しかし『創造主』は自分が直接人間に干渉することを禁止している。

 そのため『創造主』はこれまで強力な能力者を何人も殺してきた特別な邪竜を用意することにした。


「あの剣士がいなくなればあの街の人間たちももっとがんばってくれるだろう。さあ、もっと私を楽しませてくれ」


 そう言って楽しそうに笑いながら『創造主』は次にアイギスに邪竜を送り込む日を決めた。

 

 繭を攻略したシュウたちがアイギスに着いたのは夕方の五時頃のことだった。

 アイギスの近くで車が止まるなり『妖精女王』はすぐに車から降りると隊長たちに視線を向けた。


「じゃあ、さようなら。次からは僕が出なくてもいいようにがんばって」


 それだけ言うと『妖精女王』は紫色の粒子となって姿を消し、その後しばらく経ってからアヤネが口を開いた。


「あの子本当に消えたわけじゃなくて歩いてどっか行ったのよね?普通に帰ればいいのに」


 戦闘中ならともかく戦いが終わった今わざわざ面倒な去り方をした『妖精女王』を見てアヤネは呆れているようだったが、そんなアヤネの考えをシュウは否定した。


「幻術なんて言っちまえばただの手品だぞ?ただ使うだけじゃなくて普段からの演出が大事だろ。俺だって大技ばっかり開発してるわけじゃねぇし。全能感出すのも意外と大変なんだぞ?」

「ふーん。まあ、確かにただ歩いて帰るよりはあの消え方の方が『妖精女王』っぽくはあるわね」

「そういうことだ。まあ、あいつの場合は普通に歩いてると誰に襲われるか分からねぇって事情もあるけどな」


 現在治安維持局と警察は『妖精女王』に対して距離を取っているが、『妖精女王』を狙っている者は他にもたくさんいる。

『妖精女王』が能力で本人から聞き出した情報で社会的に破滅した人間がアイギスには何人もいるからだ。


 そうした人物の中には今も人を雇って『妖精女王』に復讐しようとしている者もおり、また治安維持局や警察としてもあまり『妖精女王』に堂々と出歩かれても困る。

 そのため多くの人間にとって『妖精女王』は常に姿を消していた方が都合がよかった。

 機構の全ての局の情報を持っているレイナはそうした事情も知っており、シュウの発言を受けて面倒気に口を開いた。


「演出どうこうはともかくしばらくはあの子姿を消してた方がいいかもね。遅くても明日の朝にはあの子が私たちに協力したこと公表するから、そうなったらマスコミがあの子探し始めるでしょうし」

「あー、めんどくさい。そこらの記者に『妖精女王』見つけられるわけないんだから、余計なことしないで欲しいんだけど」


 アヤネのこの発言を聞き、口にこそしなかったがヴェーダも心の中で同意していた。

 各種報道機関の人間が外周部に大勢来ることになれば、彼らと外周部の住人の間で不要な騒ぎが起こるのは目に見えていたからだ。


 かといって機構が報道機関の人間に外周部に行かないように頼んでも彼らは機構の指示には従わないだろう。

 結局は治安維持局の仕事が増えるわけでアヤネとヴェーダは思わずため息をついた。


 七月八日(水)

 この日の報道機関と機構の事務局の人間は、朝からいつもとは比べ物にならない程の量の仕事に追われていた。

 この日の朝、機構が『妖精女王』を邪竜との戦いに参加させたと発表したからだ。

 これを受けて多くの報道機関は関連記事を書くための準備に追われ、事務局はこの事実を発表した直後から鳴り止まない電話への対応に追われていた。


 もっとも報道機関と違い事務局はこの事態を事前に予想しており、機構への不要な電話は場合によっては殺人と同等の罪に問われるため事務局局員たちの忙しさは午前十時をピークに次第に落ち着いていった。

 そしてもうすぐ正午になろうという時、朝から事務局局員と共に市民からの批判や問い合わせの電話に対応していたレイナに事務局局員の一人が声をかけてきた。


「局長、そろそろ上がられたらどうですか?後は私たちだけでも大丈夫ですから」

「そうね。じゃあ、後はお願いするわ。今日は自分の部屋にいると思うから何かあったらすぐに知らせて」


 討伐局の邪竜討伐に『妖精女王』が参加したと公表すれば、機構に批判的な勢力が待ってましたとばかりに批判をしてくることは分かり切っていた。

 そのためレイナは今日の『レギオン』の訓練は三銃士に任せて朝から事務局に詰めていた。


 しかし部下の言う通り後は部下たちに任せても大丈夫だろうと考え、レイナは部下に礼を述べてから席を立った。

 そして事務局を出ようとしたところでレイナはフミナと会った。


「お疲れ様、今日は朝から大変でしたね」

「いえ、私なんてレイナ局長に比べると全然です。電話対応もレイナ局長が用意してくれたマニュアルのおかげで簡単でしたし」

「そうですか。何かあったらいつでも相談して下さいね。アヤネ隊長からもよろしく頼むと言われてますから」


 外周部出身の人間を一人事務局で雇って欲しいと言ってアヤネが連れて来た人物がフミナだった。

 一人雇う程度ならレイナの権限で可能ではあったが、正直言って事務局はフミナ、もっと言うなら外周部出身者にとって居心地のいい職場ではない。


 読み書きについてはがんばって覚えればいいが、フミナが外周部出身という事実は決して変えることができずそのためフミナは仕事で多くの苦労をしていた。

 フミナが事務局の受付にいる際、受付に来た人間がフミナを前に外周部出身の人間では話にならないから別の人間を呼べと言うことも日常茶飯事で、残念ながら事務局の局員の中にも口にこそ出さないがフミナを見下している者がいた。


 こういった事態はレイナも予想していたので、アヤネがフミナを連れて来た時点でレイナはアヤネの頼みを一度断った。

 ただ働くだけなら他にいくらでも選択肢はあり、無理に事務局で働いてもフミナが不快な思をするだけだからだ。


 しかしフミナはどうしても機構で働きたいらしく、アヤネも頼み込んできたためレイナはフミナを事務局に受け入れた。

 正直フミナはすぐに辞めるだろうとレイナは思っていたのだが、同僚や利用客からの冷たい視線にも負けずフミナは事務局で働き続けていた。


 決して恵まれているとは言えない職場で働き続けるフミナを見て、レイナは最初フミナが王族や報道機関からのスパイなのではと疑っていた。

 しかしそれならアヤネがすぐに対処しているはずなので、今のレイナは不思議に思いつつもフミナを影ながら見守るだけに留めていた。


「あんな小さな子が隊長たちと一緒に戦ったなんてすごいですね」

「はい。それは私も驚きました。シュウ隊長が連れて来た以上疑ってはいませんでしたけど、まさか一人でSランク倒せる程強いとは思ってませんでしたから」

「そうですか。……シュウ隊長が」


『妖精女王』を連れて来たのがシュウだと聞きフミナが一瞬考え込んだが、レイナはフミナの反応を特に気にしなかった。

 外周部出身の人間がシュウに対して恐怖にしろ憧れにしろ特別な気持ちを抱くのは珍しいことではなかったからだ。


 フミナはどう見てもシュウの強さに魅かれているという感じではなかったのでおそらくシュウと過去に何かあったのだろうが、フミナが事務局局員として問題無く働いている限りレイナはフミナのプライベートにまで口を挟む気は無かった。

 その後レイナはフミナとしばらく話してから今度こそ事務局を後にした。


 レイナが事務局を出ようとしていたちょうどその頃、『妖精女王』の計測を終えたシュウは四階のレイナの部屋に向かっていた。

 レイナがシンラに頼まれている隊の育成・運用方法の作成に関してシュウの意見が欲しいと言われていたからだ。

 そしてシュウがレイナの部屋に着いた時、レイナはまだ部屋にはおらず、シュウはリマに応接室へと案内された。


「人呼び出しといてレイナの奴どこで何してんだ?」

「今事務局にいるはずなのですぐに来ると思います」


 シュウの質問に目も合わせずに答えたリマの態度に苦笑しつつ、シュウは用意された紅茶を口に運んだ。

 やがてレイナが部屋に戻るとリマはレイナの分の紅茶も用意し、そのまま二人に一礼をしてから応接室を後にした。


「あいつ何で俺のこと嫌ってるんだ?嫌われる程の付き合い無いはずなんだけど」

「それに関しては謝るわ。私があんたのこと話題にすることが多いから嫉妬してるみたいなの」

「……まじでとばっちりじゃねぇか」

「だから謝ったでしょ」


 レイナが話題にすることが多いと言われてもそれが浮ついた話ではないことはシュウにも容易に想像できた。

 まさかリマもレイナがシュウに恋愛感情を持っているなどと勘違いしているわけではないだろう。

 それにも関わらずリマはレイナの前でもシュウにぞんざいな態度を取るため、シュウとしてもリマの態度に関してはおもしろさより困惑の方が大きかった。


 とはいえシュウがレイナの部屋を訪れる機会は月に多くても二回程で、リマはシュウとレイナの話が始まるとすぐに席を外す。

 そのため大して実害も無かったためリマのシュウに対する態度に関してはシュウが軽くレイナに苦情を入れる程度で済んでいた。


「で、俺の意見が欲しいって具体的に何が聞きたいんだ?俺と俺の隊の方針はパラメーター上げてぶん殴るだから、特に人に教えられるようなことなんてしてねぇぞ?」


 シュウの方針は自分や配下の隊が強ければ相手がどんなに強くても負けないという方針と呼ぶのもはばかられるものだ。

 そのため呼ばれたから来たもののシュウは自分がレイナに助言できるようなことは無いだろうと考えていたのだが、そんなシュウにレイナは自分が今考えていることを説明した。


「シンラ局長に言われて私なりに考えたんだけど、あんたみたいに隊長が先陣を切る形と私みたいに隊長が隊を能力で支援する形の二通りをまとめてシンラ局長に報告するつもりなの」

「ふーん。まあ、それは好きにしてくれりゃいいけど、まさか隊長全員が俺並に強い前提で隊の運営方法考えるつもりか?意味ねぇだろ」


 自分と同等の強さを持つ隊長を十人揃えるなど無理だとレイナの説明を聞いてシュウは考えたが、もちろんレイナもそんな夢物語を前提に計画を立ててはいなかった。


「あんたクラス十人用意できるならそもそもこんな面倒なことしてないわよ。一応平均的な隊長、具体的に言うとリンドウさんやクオンを基準にするつもりよ」

「ちょっと待て。お前やじいさんが考えてる隊の強化計画って死ぬ隊員の数減らすのが目的なんだよな?」

「それだけってわけじゃないけどそれが一番の目的ね。それがどうしたの?」

「あの二人に俺の真似ができるわけねぇだろ」


 シュウの見立てではリンドウとクオンは現時点でリクとヴェーダのどちらか一人と一対一で戦っても負ける程度の強さしか持っていない。

 リクとヴェーダがそもそも強いのでこのことでリンドウとクオンが弱いとまで言う気はシュウには無かったが、この二人が一人で戦局を変える程の力を持っていないことも事実だった。

 そしてこのことはレイナも分かっていた。


「もちろんそれは分かってる。報告書には隊全体の強化のためには隊長の下に私の隊の『三銃士』やあんたのところのギオルさんみたいな隊の中核になる人間が必要って書くつもりよ」

「……ギオルってあの氷使いか?」


 レイナが『フェンリル』の隊員の内ガドナーを除いたのは既にガドナーが隊長に匹敵する実力を持っているからで、ミアも隊長候補であるため今回除かれた。

 そのことはシュウも分かっていたためシュウは二人については触れず、隊員たちが何度か口にしていた氷使いの名前に反応した。


「ええ、そうよ。結構強いって聞いてるけど」

「まあ、そうだな。リンドウのおっさんのとこのワープ使いと天候操作の奴と同じぐらいには強いな」

「そういう隊長程強くはないけど何人かで戦えばAランク相手とも戦える。そういった人材の確保が重要だと思うのよね。何だかんだ言っても最低限の強さは無いと作戦も何も無いし」

「あいつら程度なら隊長が部下しごけばいくらでも用意できる気がするけどな。何度か他の隊の訓練見たけどぬる過ぎてまじで驚いたぞ」


『フェンリル』と『レギオン』以外の隊の訓練は相当に手加減した隊長を相手に隊全体で戦うという形が一般的だが、一度の訓練で怪我人が数人しか出ない他の隊の訓練はシュウからすれば子供のごっこ遊びと大差が無かった。

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