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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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頼み事

「へぇ、思ったよりたくさん首生やせるんだ」


 今も自分を探している邪竜たちを見ながら『妖精女王』は素直に驚きの声をあげた。

 これなら体からたくさん首を生やして口から火を放った方がいいのではと『妖精女王』は考えたが、敵にアドバイスする義理も無かったので口には出さなかった。


『妖精女王』は現在能力で姿はもちろん、感触、臭い、足音、声、温度、電磁波など自分が発するあらゆるものを消していたので、二本角には先程の『妖精女王』のつぶやきすら聞こえなかった。

 現在落下中の二本角が床に激突した際の隙をついて二本角の首か頭を破壊すればそれで今日の戦いは終わりだ。


 そう考えて『妖精女王』が床との距離を確認するために下を覗き込もうとした時、『妖精女王』は二本角から高い魔力を感じた。

 これは能力者や邪竜が大技を使う前兆で、これに気づいた『妖精女王』は全力で二本角の攻撃に対応するために急いで幻術を解いた。


 そんな『妖精女王』の前で二本角の背中から生えていた邪竜の首が全て体内に戻り、それと同時に二本角は体の表面全てから斥力破を放出した。

 二本角は『妖精女王』がしたことを理解しておらず、姿を消した三人目が自分に攻撃しているのだと勘違いをしていた。


 そのため二本角は人間たちの小細工をまとめて吹き飛ばすために自身の最大の技、全方位への斥力破放出を行った。

 二本角が斥力破を放出した直後、『妖精女王』は命の危険を感じてすぐに『魔装』を発動した。


 そのため『妖精女王』は二本角の斥力破で傷を負うことはなかったが、足場にしていた邪竜の体から斥力破が出ていたため空中へと吹き飛ばされた。

 その後壁に激突した『妖精女王』はしばらく壁を転げ落ちた後で壁に指を突き立てて何とか動きを止めた。


「……参った、こんな技持ってたなんて」


 先程二本角が放った斥力破は威力こそ通常の斥力破が多少強化された程度だったが、持続時間と効果範囲がすさまじかった。

 先程の斥力破は二本角を中心に隙間無く室内を埋め尽くし、『妖精女王』も最初の数秒は動くどころか視界も定まらなかった程だ。

『妖精女王』は体に大きな傷こそ無いものの先程の斥力破を防ぐのにかなりの力を注いだため、『魔装』を後十秒程しか使えない程追い込まれていた。


「ねぇ、生きてる?」


 先程の二本角の攻撃は今の隊長だとシュウを含む数人しか防げず、シンラでようやく死体が残るかどうかといったところだった。

 そのため『妖精女王』は正直アヤネの生存は諦めながら通信を繋いだのだが、『妖精女王』の問いかけにすぐに返事が返ってきた。


「何とか生きてるわよ」

「へぇ」


 思わぬ朗報に驚きながら『妖精女王』は急いでアヤネのもとに向かった。

 アヤネのもとに向かう途中『妖精女王』はこれ見よがしに二本角の前に自分の幻影を創った。

『妖精女王』の予想通り先程の様な大技を連発できるわけもなく、二本角が通常の斥力破を使い『妖精女王』の幻に攻撃を仕掛けているのを横目に『妖精女王』はアヤネのもとに到着した。


「……何で裸なの?」


 無事でよかったとアヤネに声をかけようとしていた『妖精女王』だったが、何故か裸で血まみれの隊服を持っているアヤネを見て首をかしげた。

 そんな『妖精女王』の視線を受けてアヤネはふてくされた様な表情を浮かべた。


「こっちはあなたみたいに『魔装』なんて使えないから、自分の体盾にしたのよ。さすがに服脱いでる暇は無くて……」

「ああ、なるほど」


『妖精女王』がアヤネでは先程の二本角の攻撃をしのげないと思ったのは先程の二本角の攻撃が回避できない技だったからだ。

 そのため防御力自体は大したことないアヤネはあの衝撃波を防げないだろうと『妖精女王』は考えていたのだが、アヤネはアヤネなりのやり方で二本角の攻撃をしのいでいた。


 確かに自分の血を混ぜた武器や防具ですら能力を増幅できるのだから、自分の死体は能力の触媒としては最高だろう。

 体を瞬時に復元できる能力を持っているとはいえ、自分の首を斬り落として用意した死体を盾に使うという案を思いつき即座に実行したアヤネに『妖精女王』は少なからず感心した。

 アヤネが帰りをどうする気か気になった『妖精女王』だったが、今はそれより大事なことがあったので話を進めた。


「正直僕もあれを後二、三回撃たれると厳しい。ここ逃げ場が無いから」

「本当よ。建物に誘い込んどいて全方位無差別攻撃とかずるくない?何か建物も全然壊れてないし」

「『創造主』の不思議パワーでどうにかしてるんでしょ」


『妖精女王』の言う通り、今『妖精女王』たちがいる建物には『創造主』の手により女以外入れないという他に邪竜の攻撃では傷つかないという性質が付与されていた。

 もちろん『妖精女王』はその事実を知らなかったが、今は目の前の二本角を倒すのが最優先だったので建物の耐久性など気にしていなかった。


「あれを倒す準備してくるから一人であれと戦ってて。さっきの食らっても後一発ぐらいなら耐えられるでしょ?」

「まあ、一発ぐらいなら。でもあれ倒すってどうする気?私が言うのも何だけどあなたの攻撃力じゃSランク一発で倒すのは無理でしょ?」

「クオン隊長に何か道具を借りてくる。時間がもったいないからもう行く」


 そう言うと『妖精女王』は紫色の粒子となってその場から姿を消した。


「自信満々な割にずいぶんとアバウトな計画だったわね」


 一番肝心なとどめの一撃の火力がクオンの持っている装備頼りという『妖精女王』の作戦を聞き、アヤネは思わずぼやいてしまった。

 しかしアヤネでは今も『妖精女王』の幻に攻撃を仕掛けている二本角に致命傷は与えられない以上、『妖精女王』の考えに乗るしかなかった。


「まじで新しい装備作ってもらわないと身が持たないわね」


 そう言うとアヤネは細剣を手に二本角へと斬りかかった。


 一方アヤネと別れてすぐに『妖精女王』はクオンのもとを訪ねていた。

 邪竜の群れと対峙していたクオンの足下には武器の残骸が散らばり、クオンの体や服にはいくつかの傷ができていた。


 とりあえずこのままでは落ち着いてクオンと話もできないと判断し、『妖精女王』はクオンの前にいた邪竜に不意打ちを仕掛けてその横っ面に蹴りを叩き込んだ。

 その後着地した『妖精女王』は足下に落ちていた武器の残骸をいくつか拾い、それらを近くにいた邪竜たち目掛けて投げつけた。


『妖精女王』の投げつけた武器の破片が邪竜に当たると、その場所はまるで爆破されたかの様に吹き飛んだ。

 その後適当に邪竜相手に戦った『妖精女王』は頃合いを見計らって自分とクオンの幻を創り、そのままクオンを連れて階段まで移動した。

 邪竜たちから離れて早々、クオンは『妖精女王』に用件を尋ねた。


「どうしたの?上もう決着ついた?何かすごい音してたけど」

「いや、さすがに強くて手こずってる。だから頼みがあって来た」

「頼み?」


『妖精女王』の発言を聞き不思議そうにしているクオンに『妖精女王』は自分の頼みを伝え、それを聞いたクオンは顔をしかめた。


「私もう能力三つ移動してるんだけど」

「あなたの能力を一つ返せばいい」

「簡単に言われても困る」


『妖精女王』の頼みを実行しようと思ったら、『妖精女王』の言う通りクオンは今自分に入れている収納か光線の能力どちらかを元の持ち主に返す必要がある。

 しかし戦闘を完全に能力に依存しているクオンにとって戦闘中に自分に入れている能力を減らすのは自殺行為と言えた。

 そのためクオンは『妖精女王』の頼みを受け入れられなかったのだが、そんなクオンを相手に『妖精女王』は説得を続けた。


「ここに『千刃』が入れない以上、強い敵にはベストな状態の『妖精女王』をぶつけるしかない。できればこの状態でけりをつけたかったんだけど無理だった。それは謝っておく」


 そう言う『妖精女王』の体には小さな傷がいくつもあり、それを見たクオンは『妖精女王』の頼みを聞き入れることにした。


「……できるだけ急いでよ?」

「あなたの強さはよく知ってるからできるだけ急ぐ。ヴェーダ隊長に任せきりも悪いし」


 ヴェーダとクオンの戦闘力の差を考えればしかたないことだったが、二階で二人が倒した邪竜の比率はヴェーダとクオンで七:三といったところだった。

 しかしいくらヴェーダが強くても体力や気力には限界があるので、『妖精女王』もこれ以上遊ぶ気は無かった。


 またクオンも今回の最大戦力の『妖精女王』が手こずっている以上『妖精女王』の案以外に現状を打破する策が無いことは分かっていた。

 そのためクオンはすぐに光線の能力を手放し、その後『妖精女王』相手に能力を使った。

 クオンが能力を使った後、自分の体が大分楽になったことを実感した『妖精女王』は素直にクオンに礼を述べた。


「ありがとう。大分楽になった。後一つお願いがある」

「何?」

「あの鉄鞭とか扇になる武器今日持って来てる?」

「あるけどこんなのどうするの?」


『妖精女王』の質問を受けてクオンは先程使ったばかりの武器を能力で取り出したが、この様な正直言って失敗作の武器を『妖精女王』が必要としている理由が分からなかった。

 そんなクオンに『妖精女王』はこの武器を求めた理由を説明した。


「この武器が大したことがないのは知ってる。それっぽければ何でもいい。壊してもいいでしょ?」

「それは別にいいけどそんな武器何に、」

「悪いけどもう行く。ここはともかく上が不安だから」


 そう言うと『妖精女王』はクオンの返事も聞かず、先程アヤネの前から消えた時同様紫色の粒子となってクオンの前から姿を消した。


「まったく、勝手な……。ほんと急いでね」


 既にこの場にいない相手に文句を言いながらクオンは深いため息をついた。

 本音を言うとこのまま階段で上の決着がつくのを待っていたいところだったが、さすがに今もヴェーダが戦っている音が聞こえてくる状況でそれをするのはクオンも気が引けた。

 邪竜を倒すのではなく注意を引きつけつつ逃げ気味に戦おう。

 そう決意しながらクオンは再び邪竜の群れへと向かった。

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