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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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縛りプレイ

 訓練室に着いてすぐ女の隊長四人と『妖精女王』は訓練室の中央で対峙し、そこに横からシュウが声をかけた。


「よし、じゃあレイナ以外の三人が戦えなくなるかこのチビが戦えなくなったら勝負終わりな」


 一応今回レイナは斧槍を持って来てはいるが、レイナ個人の強さは大したことがないので他の隊長たちが『妖精女王』にやられた時点でレイナに勝機はなくなる。

 そのため余計な怪我人を出すこともないと考え、シュウは今回の模擬戦にこの様なルールを追加した。


「後こいつらの頭は絶対掴むなよ?何されるか分かったもんじゃねぇからな」


『妖精女王』が相手の思考や記憶に干渉するには相手の頭に触れる必要があり、このことは警察や治安維持局の人間には広く知られていた。

 そのために追加されたルールを聞き、しばらく考えてから『妖精女王』はシュウに質問をした。


「顔殴るのも駄目?」

「……面倒だから首から上には触るな。どうせ跳ばなきゃ届かないんだから大して困らないだろ?」

「まあ、確かに。怪我はさせていいんでしょ?」

「当たり前だろ。今からトランプするわけじゃねぇんだぞ。治る程度の怪我ならいくらさせてもいいぞ」


 隊長たちは隊員時代も含めてこれまでに多くの戦いを経験しているため、リンドウとアヤネ以外の隊長の体には大なり小なりたくさんの傷がある。

 そのため今回の模擬戦で女性陣の体に新たに傷がついても、シュウはもちろん本人たちも気にはしなかった。

 もう確認したいことは無かった『妖精女王』がシュウから視線を外すと、シュウは同僚たちに声をかけた。


「さっきも言ったけどこいつは俺やコウガクラスだ。殺す気でやっていいぞ」

「本当に殺しちゃっても文句言わないでよ?」


 真顔でシュウにこう尋ねたアヤネを見てシュウは不敵な笑みを浮かべた。


「ああ、別に怒らねぇよ。このチビはセツナと一緒で強いから許されてるんだからな。お前らに負ける程度ならそれまでだろ」


 シュウとの付き合いも長いので女性陣はシュウのこの発言を聞いてもそれ程不快には感じず、また女性陣のほとんどが自分たち四人がかりで幻術を使わない『妖精女王』に負けるとは考えていなかった。


 しかしシュウがわざわざ連れて来た少女なのだから楽には勝てないだろう。

 そう考えながら『妖精女王』に視線を向けた女性陣に背を向け、シュウは壁際にいた男性陣のもとに向かった。


「おい、先に言っておくがあの子がやり過ぎるようなら止めに入るぞ」


 シュウが男性陣と合流して早々、コウガはシュウにこう告げ、それを聞いたシュウは苦笑した。


「おいおい、今から模擬戦するんだぞ?骨折ぐらいは覚悟してもらわねぇと困るぜ。あいつのやり過ぎよりお前の過保護の方心配しないといけないみたいだな」

「……勝手に言ってろ。いざとなったら、」


 シュウのことなど気にせずに止めに入るとコウガは言おうとしたが、そこにシンラが口を挟んできた。


「コウガさん、みなさんの心配をする気持ちは分かりますが、『妖精女王』さんの力がどの程度のものかで今回の作戦の前提が大きく変わります。この模擬戦は『妖精女王』さんの全力を見るためのものなので場合によってはクオンさんも酷い傷を負うかも知れません。それが嫌なら席を外してもらっても構いませんよ?」

「そうだな、別にあのチビ止めるだけなら俺一人で十分だし、嫌なら見なくてもいいぜ。ったく、妹がやべぇことになってるのに文句一つ言わないリクを少しは見習え」


 いきなり引き合いに出されて戸惑うリクを横目に見て、シンラまでシュウの味方をした以上自分の意見は通らないだろうと考えたコウガは黙って壁に背を預けた。


「よし、じゃあ全員に納得してもらったところで始めるか。はい、スタート」


 シュウの全く緊迫感の無い掛け声で討伐局の女の隊長四人と『妖精女王』の戦いが始まった。


 模擬戦が始まった直後、『妖精女王』はすぐに一番近くにいたアヤネに襲い掛かった。

 今回女性陣はアヤネとヴェーダが前衛、レイナとクオンが後衛という布陣で『妖精女王』との模擬戦に臨んでいた。


 しかし『妖精女王』にとっては四人の布陣などどうでもよく、目についた相手を片っぱしから倒していくだけだった。

 アヤネを間合いに捉えた『妖精女王』は右拳をアヤネの胴体に叩き込もうとしたが、アヤネは『時間加速』を使ってそれを回避した。


『妖精女王』の攻撃を回避した直後、アヤネは『妖精女王』の首に蹴りを叩き込んだ。

 アヤネは『妖精女王』の首の骨を折るつもりで蹴りを繰り出したのだが、返ってきた手応えから自分の攻撃が不発に終わったことをすぐに察した。


 実際アヤネの蹴りをまともに食らった『妖精女王』は何事も無かったかの様に振り向いてアヤネの右脚を掴んだ。

 アヤネを捕まえた『妖精女王』は一切ためらうことなくアヤネの右脚を折ると、そのままアヤネを床に叩きつけた。


 どうせアヤネはすぐに自分の体の時間を巻き戻して骨折を治すので『妖精女王』としてはそのままアヤネの意識を奪いたかったのだが、すぐ近くにヴェーダが迫っていたのでしかたがなかった。

 本来なら複数の相手など幻術のいいカモなので、『妖精女王』がその気になればヴェーダの手でアヤネにとどめを刺させることもできた。


 しかし幻術抜きの自分の強さを見せるのが今回の模擬戦の目的なのだからしかたがないと自分に言い聞かせ、『妖精女王』はヴェーダの振る大剣を左腕一本で受け止めた。

 自分が横薙ぎに振るった大剣が十歳かそこらの少女に止められたのを見てもヴェーダはそれ程驚かなかった。


 さすがはシュウが連れて来た少女だと感嘆しながらヴェーダは再び『妖精女王』目掛けて大剣を振るった。

 ヴェーダから見て右から振るった大剣は、再び『妖精女王』の左腕に防がれた。

『妖精女王』の頭上から振り下ろした大剣は右手の掌底で防がれた。

『妖精女王』の胴体を狙った突きは『妖精女王』が無造作に振るった左腕に簡単に軌道を変えられた。


 その後『妖精女王』はヴェーダの胴体に拳を叩き込もうとしたが、それより早くアヤネが『妖精女王』の首に横から細剣を叩きつけた結果『妖精女王』は吹き飛ばされてしまった。

 しかし『妖精女王』はすぐに体勢を整えて自分に不意打ちを仕掛けてきたアヤネに視線を向けた。

 そんな『妖精女王』の視線を受けて表情を引き締めていたアヤネにヴェーダが礼を言った。


「ありがとうございます」

「お礼なんていいわ。あんたが『妖精女王』の気を引いてたおかげで不意打ちできたんだし」


 そう言ったアヤネだったが先程の不意打ちの失敗で自分と『妖精女王』との決定的な差を痛感していた。

 アヤネは今回の模擬戦を『妖精女王』を殺すいい機会だと考えており、先程の攻撃も『妖精女王』の首を斬り落とすつもりで繰り出した。


 しかしアヤネの攻撃は『妖精女王』の首に傷一つつけられず吹き飛ばすだけに終わった。

 武器による攻撃で相手の体に傷一つつけられないということは魔力による身体や武器の強化の練度に圧倒的な差があるということだ。

 おそらく正面からアヤネの攻撃を何度当てても『妖精女王』には傷一つつけられないだろう。

『妖精女王』と直接戦ったヴェーダもアヤネと同じ考えを抱いていた。


「さっき何度か斬りつけましたけど傷一つつけられなかったですし、腕力でも勝てませんでした。地力が違い過ぎます」


 先程戦った際にヴェーダが感じた『妖精女王』の身体能力と身体の硬度は、訓練時のシュウより上だった。

 もちろんシュウはリクとヴェーダに訓練をつける時には訓練用に魔力での強化を抑え、『万物切断』の能力も使わない。

 それでもヴェーダはリクと二人がかりでシュウに勝ったことがないため、今回は四人がかりとはいえ訓練時のシュウより強く硬い『妖精女王』相手への勝ち筋を見い出せなかった。


「後当たり前の様に『時間加速』使った私の攻撃に反応してきたから不意打ちも効かないわね」


『妖精女王』がアヤネに攻撃を仕掛けた直後のものだった最初の攻撃と違い、先程ヴェーダと戦っている『妖精女王』にアヤネが仕掛けた攻撃は完全な不意打ちだった。

 これなら例え魔力による強化の練度に差があってもかすり傷ぐらいはつけられたはずだ。


 それすらできなかったということは『妖精女王』がシュウやアヤネ同様殺気を感じ取れるということだ。

 この技術は外周部の治安や生活環境が改善された今は失われつつある技術だったので、サヤ同様こんな年の子がこの技術を使えるという事実にアヤネは驚き、それと同時に治安維持局局長として多少の罪悪感を覚えた。


 この機会に悩みの種であった『妖精女王』を殺そうと思っていたアヤネだったが、この時点でアヤネの『妖精女王』に対する殺意は大分薄れていた。

 この短時間で見せられた『妖精女王』の強さの背景をアヤネは想像できたからだ。


 どの道『妖精女王』は殺せそうになく、シュウが見張っている以上自分たちに必要以上に危害が加えられる可能性も無いのだから『妖精女王』を殺すのは諦めて全力を尽くして負けよう。

 そんな後ろ向きの決意をしたアヤネに『妖精女王』の声が聞こえてきた。


「作戦会議は終わった?」


 まるで自分たちを警戒していない『妖精女王』の視線を受け、アヤネは改めて恐怖を感じた。

 これが治安維持局の任務なら迷わず逃げていただろう。

 しかし他の隊長たちの目がある以上全力を出した振りぐらいはしておかなくてはならない。


 そうアヤネが考えていると両手に銃を持ったクオンが『妖精女王』目掛けて魔力の弾丸を撃ち出した。

 ダメージこそ無かったがクオンの攻撃を受けてうっとうしそうにしている『妖精女王』の隙を突き、アヤネとヴェーダは同時に攻撃を仕掛けた。


『妖精女王』から見て右側からヴェーダが大剣を振り下ろしたのに合わせ、アヤネは正面から『妖精女王』に斬りかかった。

 それを見た『妖精女王』が二人の攻撃をそれぞれ片腕で防ごうとした瞬間、アヤネが『時間加速』を発動した。


『妖精女王』が『時間加速』に対応できるといってもアヤネの動きを目で追えるわけではない。

 あくまで自分の防御力を上げて攻撃を受けているだけなので、『時間加速』による攻撃への対応はどうしても受け身になる。


 あらかじめ来ると分かっている攻撃ならともかく『時間加速』による不意打ちを受けると『妖精女王』は体重の関係で吹き飛ばされてしまう。

 傷は負わないとはいえ何度も吹き飛ばされるのは嫌だったので、『妖精女王』は今戦っている隊長たちと交渉するためにある技を使った。


『妖精女王』が魔力を高めたかと思うと『妖精女王』の体全体を紫色の魔力が覆い、それを見た隊長たちは全員が視界が歪むのを感じた。

『妖精女王』に攻撃を仕掛けようとしていたアヤネとヴェーダも例外ではなく、突然目に異常が出たため慌てて攻撃を止めた二人は『妖精女王』との距離を取った。

 それに合わせて『妖精女王』はアヤネを追い、まだ視力が回復していなかったアヤネの足を払って倒すとそのまま背中を踏みつけてアヤネの動きを封じた。


「大人しくしないと踏む場所を頭にする」


『妖精女王』のこの脅しを受けて何とか『妖精女王』から逃れようとしていたアヤネは『妖精女王』への抵抗を止め、それを確認してから『妖精女王』はシュウに話しかけた。


「ねぇ、この女の不意打ちさすがに能力無しじゃ防げないから、この技、『魔装』って言うんだったっけ?だけは使っちゃ駄目?」

「馬鹿言うな。『魔装』使ったら勝負にならないだろ。別に押されてるわけじゃないんだからそのまま戦え」


 先程までのアヤネ、ヴェーダと『妖精女王』の戦いは終始『妖精女王』優勢で進んでいた。

 レイナとクオンの支援が入っても大して状況は変わらないだろうと戦いを見ていたシュウ以外の隊長も感じていた。

 そのためシュウのこの発言に男性陣たちは口にこそしなかったが同意していたが、当の『妖精女王』は不満の様だった。


「そっちの都合で呼び出して縛りプレイさせて、僕のこと何だと思ってるの?」

「え?便利なガキ」


 全く悪びれた様子も無く口にされたシュウのこの発言を聞き『妖精女王』は左右の手のひらから紫色の粒子を出し、今にもシュウに襲い掛かりそうな剣幕になった。


「シュウさんいくら何でもその言い方は、」


 あまりのシュウの発言にシンラが苦言を呈そうとしたがシュウは聞く耳を持たず、笑って『妖精女王』に視線を向けた。


「かわいらしい脅しは相手選んでしろよ?そもそも今回だって俺たちは助かる。お前は俺に殺されなくて済む。ウィンウィンってやつだ。何が不満なんだ?」


 わざとらしく首をかしげたシュウに『妖精女王』が鋭い視線を向け、一触即発となる中アヤネが口を開いた。


「いいわよ。『魔装』封じられるっていうなら『時間加速』使わないぐらい安いもんだから。というか当たり前の様に『魔装』使われて驚いたんだけど」

「ほんと、さすがと言うか何と言うか」


『魔装』を発動した『妖精女王』を見てシュウ以外の隊長は全員が個人差こそあれ驚いた。

 そのため『妖精女王』が交渉のため動きを止めた時点で訓練室の空気はわずかながら弛緩し、アヤネの発言に続く形でクオンが賞賛の言葉を口にした。

 そんなクオンの様子を見てシュウは内心呆れながら戦いを再開させた。

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