助っ人
シュウたちが機構本部についてすぐに再びセツナを除く全隊長が会議室に集まったが、今回はほとんどの隊長たちの表情が暗かった。
特にシュウもコウガも戦いに参加できない状況での戦いを強いられる女性陣の表情は暗く、『創造主』と直接話したシュウの報告の後はしばらく誰も口を開けなかった。
しかしいつまでも黙っているわけにもいかず、アヤネが口を開いた。
「女だけで戦えなんてずいぶん勝手なこと言ってくれるわね」
「そりゃお前、お前らだらしないから能力と邪竜送り込んでやるとか言う奴だぞ?勝手な奴に決まってるだろ。俺やコウガばっかり活躍してるの見てもつまらないとか文句言ってたし」
「ほんとふざけてくれる」
シュウが『創造主』の身勝手な発言を隊長たちに伝えるとクオンは不快そうにつぶやき、それを見てシュウは話を進めた。
「まあ、落ち着けよ。俺だって参加できるキャラ限定されてるステージは嫌いだからお前らがむかつく気持ちは分かる。けど俺たちが参加できない以上お前らで何とかするしかないだろ」
「『創造主』のその発言は本当なのでしょうか?」
女性陣をなだめるシュウの発言の後、シンラは『創造主』の発言の真偽そのものを疑う発言をし、それを聞いたシュウは面倒そうな表情をした。
「確かめて来いって言うなら確かめて来るけど、もし本当だったら五時間近く無駄にすることになるぞ。それでも夜には間に合うけど正直めんどくせぇかな」
シュウのこの発言を聞き考え込み始めたシンラを横目に見ながらシュウはこの場のほとんどの隊長、特に女の隊長が抱えている不安を指摘した。
「お前らが嫌がるのは分かる。ぶっちゃけ女の隊長だけだとSランク相手にするには微妙だし」
身もふたも無いシュウの指摘を受けて他の隊長たちは反論できなかった。
『創造主』が今回強いた制限に従い隊長を出撃させると、参加できる隊長はレイナ、クオン、アヤネ、ヴェーダの四人になる。
レイナの個人としての戦闘力は一般隊員と大差無く、ヴェーダはリクと連携できないと能力のほとんどが使えない。
クオンとアヤネは特に制限無く戦えるがこの二人はそもそも隊長としてはそれ程強くない。
今回わざわざいつもとは違う趣向を凝らした『創造主』が繭の中にAランク以下の邪竜しか用意していないというのはあまりに楽観的な予想だ。
繭の中に入ったらSランクの邪竜と戦わなくてはいけないと考えるべきで、そうなると今の女の隊長四人では不安があった。
繭の中で待ち構えるSランクの邪竜の能力にもよるが、この四人で戦いを挑めば負けはしないにしても死人が出る可能性が高かった。
もちろん隊長たちは全員が邪竜との戦いで命を落とす覚悟をしている。
しかし今回の様に機構側が全力を出せない状況下での戦いを強いられては女性陣が不満を持つのも無理は無かった。
その後も建設的な意見が出ないまま会議はしばらく続き、そんな会議にうんざりしたシュウが口を開いた。
「女だけで行くしかないんだからこれ以上あーだこーだ話してもしかたねぇだろう」
「それはそうですが……」
これまで解決策が出なかった以上女の隊長四人に任せるしかないことはシンラにも分かっていた。
この四人に出撃を命令することに不安を感じていることを自覚し、シンラはここ最近自分がシュウとコウガに頼り切っていたことに改めて気づかされた。
それでも討伐局局長として命令を出さないわけにはいかない。
そう考えてシンラは口を開こうとしたが、それより先にシュウがある解決策を口にした。
「まあ、俺も鬼じゃねぇ。この四人で行ったら死人出るだろうし、助っ人連れて来てやるよ」
「助っ人?ミアちゃんやサヤちゃんのこと?」
シュウの発言を聞きアヤネが口を開き、シュウが突然口にした助っ人の候補にミアが出てきたことにシンラは動揺した。
しかし自分の孫だからという理由で参戦を止めるわけにもいかず、何を言えばいいか分からないままシンラはシュウに視線を向けた。
そんなシンラの視線の先ではアヤネの質問を受けたシュウが呆れた様な顔をしていた。
「馬鹿言え。お前らで戦力微妙だって話してる時にあの二人連れて来て何の役に立つんだよ?死人が増えるだけだ」
「……では誰を連れて来るつもりですか?」
シュウがミアを連れて来る気が無いと聞きシンラは安堵したが、それに気を取られることなくすぐにシュウが言う助っ人の人選を尋ねた。
シンラは他の隊長たちの部下にそれ程詳しくないのでシュウが言う助っ人とやらに全く心当たりが無かったからだ。
シュウがこの状況で連れて来る程の実力者が討伐局にいれば噂ぐらいは聞いているはずだがとシンラが不思議に思っていると、シュウはこの場の誰も予想していなかった名前を口にした。
「アイギスで一番強い女、『妖精女王』を連れて来てやる」
「ティタ、え?あの子をですか?」
シュウが『妖精女王』を連れて来るつもりだと知り、シンラは驚いた。
シンラは『妖精女王』に会ったことは無かったが、それでも『妖精女王』についての噂は何度も聞いていた。
そのため機構に所属していないどころか十五歳にもなっていない『妖精女王』を邪竜との戦いに参加させようというシュウの案を聞き、シンラは驚きながらもシュウの案に難色を示した。
「シュウさん、さすがにそれは無理です。聞いた話では『妖精女王』さんはまだ子供ですよね?さすがに子供を戦わせるわけにはいきません」
シンラのこの発言を聞き、シュウの助っ人を連れて来るという発言に期待を持っていた女性陣たちも何も言えなかった。
隊長の自分たちですら生きて帰れるか分からない戦いにまだ子供の『妖精女王』を参加させるわけにはいかないとシュウ以外の隊長全員が考えたからだ。
兄のリクが危害を加えられたヴェーダの様に『妖精女王』にいい印象を持っていない隊長でも同じ考えだった。
しかしシュウにはそんな同僚たちの考えなど関係無く、いざという時の切り札を同僚に切ってもらう程追い詰められた状況でもない。
そう考えてシュウはそのまま話を進めた。
「ああ、俺の言い方が悪かったな。あのチビを連れて来ることはもう決まりだ。別に許可取ってるわけじゃねぇから、じいさんが何言ってもあのチビは連れて来るぞ?優しいお前らがあのチビに気ぃ遣うのは無理もねぇが、同僚がむざむざ死ぬのは見過ごせないからな。お前らも別に死にたいわけじゃないだろ?」
シュウにこう言われて女性陣は反論できず、それを見てシュウはシンラに視線を向けた。
「安心しろ。俺もそこまで馬鹿じゃない。機構の評判にもちゃんと気を遣ってやる。表向きはこいつら四人で行ったってことにして、あのチビにはばれないように参加させる。これなら文句無いだろ?」
「『妖精女王』さんはそれに同意してくれるでしょうか?」
まだ幼い『妖精女王』を戦わせる罪悪感が消えたわけではなかったが、この件でシュウを説得するのは不可能だと判断してシンラはそもそもの問題を口にした。
死ぬ可能性もある邪竜の戦いに無理矢理参加させられる時点で断られても無理は無く、その上戦いに参加したという功績すら無かったことにされるのだ。
こんな勝手な話を『妖精女王』が受けてくれるだろうかとシンラは疑問に思ったが、その点はシュウは心配していなかった。
「大丈夫、大丈夫。俺が誠意を持って頼めばあいつは断らねぇさ」
そう言って右手で拳を作って笑みを浮かべるシュウを見て隊長たちは再び罪悪感に襲われた。
そんな中コウガが口を開いた。
「仮に『妖精女王』を戦わせるとして、そもそも戦力になるのか?いくら強力な幻術が使えても邪竜を倒すのには役に立たないだろう」
コウガの言う通りいくら『妖精女王』の幻術が強力だと言っても所詮は幻術で、それ自体に殺傷能力は無い。
相手が幻術で動けなくなっている間に殴るなり刃物で刺すなりすればいい対人戦闘ではそれでも勝てるが、巨体と高い耐久力を併せ持つ邪竜と戦うには純粋な攻撃力が必要だった。
その点を心配してのコウガの質問を受けてもシュウは余裕の表情を崩さなかった。
「大丈夫だろ、あいつ幻術抜きでも強いし。具体的に言うと俺、お前、セツナ以外の全隊長で一斉にかかっても幻術無しのあのチビに負けるぞ」
当然の様にシュウが口にしたこの発言を聞き隊長たちの間にざわめきが起き、あまり怒り以外の表情を他人に見せないコウガですら驚きの表情を浮かべていた。
まだ十歳かそこらの『妖精女王』がシュウやコウガに匹敵する力を持っているというのだから隊長たちが驚いたのも当然で、室内のざわめきはしばらく収まらなかった。
やがて隊長たちが落ち着きを取り戻した後、シンラがシュウに質問をした。
「そういうことなら『妖精女王』さんに協力を頼むのに反対する気はありませんが、『妖精女王』さんをすぐに見つけることができるのですか?」
先程からシンラが『妖精女王』をさんづけで呼んでいるのを聞きシュウは何度も笑いそうになってしまったが、何とか我慢して話を続けた。
「ああ、クオンに透明化能力入れてもらえば一時間もかからない。だから四人には今すぐ出発してもらって、アイギスの外であのチビと合流してもらえばいい」
シュウが『妖精女王』を捕まえるのに最低でも二時間はかかるとシンラは思っていたので、『妖精女王』確保を一時間以内に終えることができるというシュウの発言を聞き驚いた。
しかし実際に発言したのは別の隊長だった。
「ちょっと待って。私たちだけで『妖精女王』と行動するの?怖いんだけど」
シュウの計画を聞いてすぐに不安を口にしたクオンを見て、シュウは面倒そうに口を開いた。
「安心しろ。俺もついて行って見張ってるから」
面倒ではあったがクオンの不安ももっともで、シュウはクオンの発言が無くても最初から今回の女性陣の出撃にはシュウと『妖精女王』の二人で同行するつもりだった。
「でもいいの?あんたが『妖精女王』相手にどんな説得する気か知らないけど、邪竜と戦う前に大怪我したらいくら『妖精女王』が強くても戦えないでしょ?」
シュウはこれまで『妖精女王』を三回捕まえており、一回目の詳細は不明だが二回目と三回目のシュウによる『妖精女王』の身柄の確保の際の出来事は今でもアイギスでは語り草となっている。
シュウと『妖精女王』による二回目の戦いは街にも被害が出る程の戦いとなり、その戦いでいくつかの家屋が半壊した。
この際にとある資産家の屋敷が破壊されたのだが、その際に屋敷の地下室から資産家が外周部で買った奴隷四人が見つかり資産家は逮捕された。
そのためこの戦闘による家屋の破壊は、シュウが『妖精女王』確保を利用して意図的に起こしたものなのではないかと今も噂されていた。
そして三回目に『妖精女王』を確保した際、シュウは『妖精女王』の両腕両脚の骨を折った状態で警察に突き出した。
その際シュウはもう付き合い切れないので『妖精女王』が警察の手に負えないなら今この場で『妖精女王』を殺せと警察側に伝えた。
しかし既に戦えない状態の子供を殺すわけにもいかず警察は『妖精女王』を病院に搬送したのだが、その数日後警察は見事に『妖精女王』に逃げられた。
こうした経緯もありアヤネはシュウにとっても『妖精女王』の身柄の確保が決して楽な行為ではないと考えていた。
両腕両脚が折られた状態の『妖精女王』など連れて来られても困るのでアヤネはこの様な質問をしたのだが、シュウは大丈夫だと即答した。
「心外だな。俺が無理矢理あのチビを連れて来るとでも思ってるのか?さっきも言った通りちゃんとお願いして来てもらうから安心しろ」
「あっそ」
仮にシュウが『妖精女王』を連れて来れなくてもアヤネたちは今回出撃しなくてはならない。
そのためこれ以上シュウが『妖精女王』を連れて来られるかを議論しても意味は無いと判断し、アヤネはシュウとの会話を終えた。
その後誰も発言しないことを見届けたシュウが女性陣にアイギスの西で待っているように伝えると、それにシンラが待ったをかけた。




