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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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ステージクリア

(ふざけるな)


 これがシュウの火炎操作を見たミアの正直な気持ちだった。

 ミアもシュウが強いことは十分分かっている。

 しかし今のシュウは訓練に少し工夫を加えたいからと先程使い始めた能力で自分にギオルとサヤを合わせた三人を軽くあしらっているのだ。


 最近自分の成長を感じ始めて少しはシュウとの差も縮まっているのではと考えていたこともあり、ミアは悔しさと怒りを同時に感じていた。

 しかし実のところミアのこの考えは前提が間違っていた。


 クオンと仲良くなって以来、シュウは透明化能力以外の能力も自分に入れて何度も訓練を行っていた。

 こうした訓練はそれらの能力を相手にした場合の対抗策や『フェンリル』の隊員たちへの指導内容を考えるために行っていたのだが、この訓練の結果シュウは数多くの能力を大抵の能力者よりは使いこなせるようになっていた。


 つまり今日のシュウの練度の高い火炎操作の行使は即興で行っているわけではなかったので、ミアが敗北感を覚える必要は無かった。

 しかしクオンの協力が必要な二つの能力の同時使用は実戦では意味が薄い上に問題も多いので、こういった訓練を行っていることをシュウは周りに知らせてはいなかった。


 そのためミアはシュウに対して久々に敗北感を覚えてしまったのだが、実のところ今のシュウにそれ程の余裕は無かった。

 クオンの手を借りて能力を二つ同時に使う場合の最大の問題は、能力を入れられた者が自分本来の能力も入れられた能力も十全に使えないことだった。


 能力の移動を行っているクオン本人はそこまででもないのだが、クオン以外の能力者は複数の能力を体に入れると違和感を覚える。

 それにより能力の発動が少なからず阻害され、今のシュウは火炎操作能力を手放さないと『万物切断』と呼べる程の斬れ味は実現できなかった。


 先程の『纏刃』の発動もかなり無理をして行ったので、シュウは態度にこそ出していなかったがかなり疲弊していた。

 今の状況でもう一度『纏刃』を使うのはいくらシュウでも無理で、もう一度先程の規模の『ウロボロス』を使われたら今回の訓練はシュウの負けだった。


 しかしシュウのそんな事情をミアたち三人は知る由も無く、今も自分たちとシュウを隔てる炎の壁に手をこまねいていた。

 半径数メートルの炎に包まれているシュウに接近戦を挑むわけにもいかず、半端な遠距離攻撃を仕掛けても先程同様シュウの火炎攻撃で相殺されてしまうだろう。

 そう考えて何も手を打てずにいた三人にシュウの声が届いた。


「どうした?後十秒以内に何もしてこなかったらこっちからいくぞ。さっきの攻撃食らってまだ防げると思ってるならそうやってつっ立ってればいい」


 シュウのこの挑発を受けてサヤは何とかシュウに一撃を与える方法を考えようとした。

 自分一人ならまだしも今は自分より強いギオルとミアもいるのだ。

 手加減しているシュウに一撃入れるぐらいなら何とかなるはずだと考え、ミアは目の前の炎の壁を見ながら必死に考えを巡らせた。


 そんなサヤの視界に床に転がっている紅い氷が入ってきた。

 おそらく先程の攻防のどこかでサヤの『ウロボロス』に使われた血がギオルの能力で凍りついたのだろう。


 サヤが見た時点でかなり小さかったその紅い氷はシュウの炎による熱ですぐに解け、それを見たサヤは一つの策を思いついた。

 その後サヤはすぐにシュウに声をかけた。


「今からギオルさんと二人であなたに攻撃を仕掛けます!邪魔をしたかったらどうぞ!」


 このサヤの発言を受けてシュウは苦笑した。


「安心しろ。そんな挑発しなくても邪魔なんてしねぇよ。何する気か知らねぇけど精々がんばりな」


 このシュウの発言を聞きながらサヤはギオルの隣まで急いで向かった。


「何か策があるんですか?」


 あまり自分から発言しないサヤが自主的に自分のもとまで来たことに驚きながらギオルはサヤに質問し、そんなギオルにサヤは自分の考えを伝えた。


「私が今から『ウロボロス』を使うのでそれを凍らせて下さい」


 サヤはこれまで『フェンリル』の隊員たちと何度も模擬戦を行っており、その隊員たちの中にはギオルも含まれていた。

 そしてその模擬戦の中でサヤは何度もギオルに自分の鎌を凍らされていた。


 能力者が能力で創った物に他の能力者が能力で干渉するのは相当能力者の技量に差が無いと不可能だ。

 それを知ったサヤはギオルに何度も挑み、能力の使用・不使用問わず模擬戦で連戦連敗していた。そのためサヤはギオルにあまりいい感情を持っていなかったのだが、この際背に腹は代えられない。


 そう考えてギオルに能力の重ねがけを提案してきたサヤを前にギオルはすぐに返事ができなかった。

 魔力のほとんど込もっていないサヤが血で創った鎌と違い、『ウロボロス』にはギオルの能力と互角かそれ以上の魔力が込められている。


 そのためギオルは『ウロボロス』に自分の能力を使っても威力を上げるどころか阻害してしまうのではと考えてしまった。

 自分の提案を受けて不安そうな顔をするギオルを前にサヤはまるで不安を感じていない様子だった。


「シュウ隊長が能力者ができることは能力者のイメージで決まると言っていました。私はイメージに技術が追い着いていませんけど、あなたなら技術は十分のはずです。どうせ訓練なのですから練習だと思ってやってみませんか?」

「……分かりました」


 自分より実力・経験共に劣っているサヤに発破をかけられ、多少恥ずかしくなりながらギオルはサヤと共にシュウに視線を向けた。


「おっ、何か思いついたか?俺はともかく他の連中が暑そうにしてるから何かやるなら早くしてくれ」


 シュウの先程の挑発からすでに十秒以上経っていたが、別に殺し合いをしているわけではない。

 その上『纏刃』を使わされた時点で今日の訓練は自分の負けだとシュウは考えていたので、先手を取って二人の邪魔をする気は無かった。


 しかし威力は抑えているとはいえ室内で巨大な炎を燃やし続けているためすでに室温は十度以上上がっており、壁際でシュウたちの戦いを見学している隊員たちは全員が流れ出る汗を隊服の袖でぬぐっていた。

 もう少し経てば酸欠でシュウを含む室内の全員が気を失ってしまうだろうから、何かするつもりなら早くして欲しいというのがシュウの本音だった。


 なお現時点で訓練室の床は黒焦げで、シュウが破壊を目的としていなかったのでこの火炎による床への損傷はほとんどなかったが見た目はかなり無残なものになっていた。

 これを報告した時のリンシャの反応が怖くなったガドナーは深いため息をつき、そんなガドナーの見ている前でシュウとギオル、サヤが雌雄を決しようとしていた。


 ちなみにミアは先程まで必死に重力球数発を放っていたが、ギオルとサヤの邪魔になることを恐れて攻撃を止めてシュウと二人の攻防を見守っていた。

 そしてサヤが先程同様体内に貯めていた血液の四割を使って『ウロボロス』を発動し、それに合わせる形でギオルも能力を発動した。


 この『ウロボロス』発動によりサヤは体内に貯めていた血をほとんど使ってしまうことになるので、サヤは後のことは一切考えずに注げるだけの血と魔力を『ウロボロス』に注いだ。

 一方のギオルも半端に能力を使っても『ウロボロス』の邪魔をするだけだと考え、現時点で行える最大出力で能力を使った。


 先程サヤが言っていた通りギオルとサヤではギオルの方が能力の練度は上だ。

 そのためギオルの能力を受けた『ウロボロス』は竜の形を保てなくなり、サヤの放った血は先が無数に別れた槍の様な形状になった。

 ギオルとサヤの能力がきれいに重なり合ったこの深紅の槍は、槍を創り上げた二人の想像以上の威力を持っていた。


 後に『ハングリー氷槍スカーレット』と名づけられる巨大な血の槍が自分に迫る中、シュウは『貪る氷槍』の威力をすぐに悟り、周囲への火炎の展開を止めて『貪る氷槍』の迎撃に全力を注ぐことにした。

 シュウは手にした鎌に魔力と炎を集中させて迫り来る血の槍を斬り裂こうとしたが、血の槍を半分程斬り裂いた時点で鎌が限界を迎えて折れてしまった。


「まじかよ」


 シュウはギオルとサヤの技の予想以上の威力に驚き、火炎操作能力を手放して『纏刃』を発動しようとした。

『纏刃』さえ発動できれば『貪る氷槍』も容易に防げただろうが、これまでの無理が重なり『纏刃』の発動がいつもより遅れてしまった。

 その結果シュウは右脇腹を貫かれ、シュウが防ぎきれなかった分の血の槍は訓練室の壁に突き刺さった。


「シュウ隊長、大丈夫ですか?」


 氷の槍はほとんど回避したとはいえ右脇腹から血を流しているシュウを見て、ガドナーは慌ててシュウに駆け寄った。

 そんなガドナーにシュウは余裕の表情で返事をした。


「ちょっとかすっただけだ。そんなに騒ぐな」


 実際シュウが右脇腹に負った傷はそこまで大きくなく、魔力を高めていれば数分でふさがる程度の傷だった。

 その気になればこのままミアたち三人を蹴散らすぐらいの余裕はあったので、シュウは落ち着いた表情でガドナーとの会話を切り上げてギオルとサヤに視線を向けた。


「いやー、驚いた。ここ最近はお前らに予想裏切られてばっかりだな。今日はお前らの勝ちだ。見た感じ今のぶっつけ本番だよな?」

「はい。技を合わせようなんて考えたことも無かったですし」


 自分たちの技の予想以上の威力に今も驚いている様子のギオルから視線を外し、シュウはサヤに話しかけた。


「さっきの技はアイデアもよかったけど『ウロボロス』自体もでかくなってたな。技の発動も早くなってたし、その調子でがんばってくれ。さっきの技も当たりどころによってはAランクだって倒せるだろうからな」

「はい。分かりました。一つ質問をしてもいいですか?」

「ああ、何だ?」

「あなたは能力を飛ばすことができないと聞いています。どうやってあれだけ広い範囲に炎を伸ばしたんですか?」


 サヤのこの質問を受けてシュウは自分の目論見がうまくいったことに喜んだ。

 シュウが誰かに能力の使い方を教えようと思ったら、クオンの手を借りて実演するのが一番早い。

 しかしサヤの血を操る能力は他に使い手がおらず、サヤがシュウに貸すのを嫌がっているのでサヤから能力を借りることもできない。


 水を操る能力で代用してもよかったのだが、サヤの前で自分が殺したチャルチィの能力を使うのはいくらシュウでもはばかられた。

 誰かからコピー能力を借りてサヤの能力をコピーすることも考えたのだが、そこまで急ぐ必要も無かったので本人の意思を無視する方法は止めておくことにした。


 こうした事情の下シュウが考えたサヤへの手本が炎の操作で、そのまま参考にするのは無理でも多少は役に立つだろう。

 そう考えてシュウは今回火炎操作能力を入れてミアたち三人と戦った。


 そのかいあってサヤがシュウに能力の発動についての質問をしてきたため、シュウはサヤの質問に実演も交えて答えた。

 その後ミアとも話をした後、シュウは『貪る氷槍』で創られた血の槍が深々と突き刺さった壁を呆然と眺めているガドナーへと近づいた。


「どうします、これ?」

「どうするって業者呼ぶしかねぇだろ」


 シュウたちが今使っている訓練室は一番端の部屋なので、壁に穴ができたところで隣の部屋に迷惑はかからない。

 しかしこのままというわけにもいかず、シュウはガドナーにこの後の始末を任せた。


「わりぃけど疲れたから他の奴らへの訓練は今日は止めにする。壁の件も含めてお前の方でいいようにしといてくれ」


 床に関しては多少足場が悪い程度ならいい訓練になるので、シュウはこのままにしておくつもりだった。


「……いいですけど絶対リンシャさん怒りますからね?」

「とりあえず修理代は稼いでくるから安心しろ。いい上司持ったな」


 シュウは非合法の賭博場をいくつか知っていたので、姿を変えてそこに行こうと考えながら訓練室を後にした。

 なお先程『貪る氷槍』を使った時からこのシュウとガドナーのやり取りまでの一部始終を見て、サヤは今後について新たな行動方針を見出していたがこのことはまだ本人しか知らなかった。

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