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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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ライブ後

「ミアさんは『妖精女王ティターニア』に会ったことがありますか?」

「『妖精女王』ですか?いえ、私は会ったことありません。滅多に人前に現れないって聞いてますからアイギスでも『妖精女王』に会ったことある人なんてほとんどいないと思います」


 強力な幻術能力を持つ『妖精女王』はまさに神出鬼没で、その上仮にどこかで戦闘を行ったとしてもその高い戦闘力ゆえに長居はしない。

 そのため『妖精女王』に会ったことがある人間は警察や治安維持局の中でも決して多くはないはずだ。


「どうして『妖精女王』に興味があるんですか?……本当に危ない子みたいですから近づかない方がいいですよ」


 自分たちよりはるかに幼い子供が隊長と互角以上の強さを持っているというのだからミアとしても『妖精女王』に興味が無いと言えば嘘になる。

 しかし『妖精女王』が危険人物であることも事実なので、『妖精女王』に興味を持っているらしいサヤをミアは止めようとした。

 そんなミアを見てサヤは口を開いた。


「安心して下さい。さすがに近づく気は無いです。そもそもどこにいるかも分かりませんし」

「そうですね。シュウ隊長以外じゃ逮捕どころか発見すらできないらしいですから、私たちじゃどんなにがんばっても会えないと思います」


 シュウ以外では無理という言い方で説得すればサヤも納得してくれるだろうと考えてミアはシュウの名前を使ってサヤを説得した。

 サヤも自分が独力で『妖精女王』を発見するのが難しいのは分かっていたため、ミアの説得を受けてあっさり引き下がった。


 しかし外周部でシュウ、テュールと並び称される少女ならもしかしたらという思いは完全には消せず、サヤはもし『妖精女王』に会える機会があれば逃がさないようにしようと決意しつつミアとの会話を続けた。


 一方ミアとサヤがライブハウスを後にしてから一時間程経った頃、アイギスの西側、外周部から出てすぐのところにシュウの姿があった。

 つい先程までシュウはクオンに入れてもらった透明化能力を使ってあることをしており、その途中で邪竜の襲来を察知したため急いでここに来た。


 クオンの能力で移動された能力の返却は別に当事者二人が近づく必要は無く、能力の移動先の能力者が返したいと思えば距離に関係無く返却できる。

 そのためシュウはすでにアナスに能力を返却していた。


「ったく、疲れてるところにいきなり現れやがって。まあ、もうちょい早かったら面倒なことになってたから空気読んだことだけはほめてやるけどな」


 そう言うシュウは討伐局の隊服に身を包み、手には普通の剣を携えていた。

 シュウは街にいくつかの部屋を隠れ家にするために個人的に借りており、そうした隠れ家に討伐局の隊服と武器を用意して今回の様な事態に備えていた。


 今回シュウは外周部寄りの隠れ家で着替えたのだが、その隠れ家にはあいにくシュウ専用の武器は置いておらず普通の剣を使う羽目になった。

 シュウが普段使っている専用の刀はシュウの全力での能力行使に五百回まで耐えられる特注品で、大量生産はできないため隠れ家全てに置くことはできなかったからだ。


 同様の理由で今回シュウは『飛燕』も装備していないので、現れる邪竜の数によっては邪竜を全滅させるのに時間がかかる可能性があった。

 といってもシュウの勘では精々邪竜五、六体が現れる程度なのでたとえ現れる邪竜がAランクでも問題無いとシュウは考えていた。


 念のため先程機構に連絡を入れたところ研究局は今回の邪竜の襲来を予知できていなかった。

 これ自体はこれまでにも何度かあったことなのでシュウはそれ程気にせず、シュウの連絡を受けた事務局局員にも今回の邪竜はシュウ一人で対処すると伝えた。

 シュウがアイギスの郊外に出て二十分程経った頃、シュウの視線の先にAランクの邪竜二体が現れた。


「あら、思ったより少ないな。はぐれか?」


 はぐれというのは研究局が出現を予知できない邪竜の総称で、これらの邪竜は渦から出現するのではなくアイギスから遠く離れた地から直接アイギスに飛来していると考えられていた。

 もちろん今の研究局の邪竜の出現を予知する機械にも距離的な限界はあるため、機械の有効範囲外に渦が現れた可能性が無いとは言えない。


 しかし研究局の機械の効果範囲外に邪竜の渦が発生した場合、機械の効果範囲外を巡回している人間の目視による監視網に必ず引っかかる。

 はぐれは毎回数が少ないこともあり、どこかで街を襲った後でその生き残りがアイギスに流れ着いているという説が今のアイギスでは有力だった。


 もっともシュウにとっては邪竜がどこから来たかなどどうでもよく、装備が万全ではない上に今回はアイギスに邪竜がかなり近づいていたためシュウは一切遊ぶことなく邪竜二体を秒殺した。

 シュウが邪竜の襲来に勘で気づき単独で戦いに出ることもはぐれが現れることも特に珍しいことではない。


 そのためシュウはこの件はこれで終わりだと考えて隠れ家へと向かった。

 隠れ家で着替えたシュウはその後食事を済ませてから機構本部裏の森に向かい、二時間程訓練をしてから『フェンリル』に割り当てられた訓練室に行き眠りについた。


 七月五日(日)

 この日の朝七時、いつもの様にどの隊員たちよりも早く訓練室を訪れたガドナーは訓練室で寝ている人間がいることに驚いた。

 そして寝ている人間がシュウだと気づくとガドナーは面倒そうな顔をした。


 シュウは寝ているところを起こされるのを嫌がるからだ。

 しかし今日に限っては来た人間に起こされることを期待して訓練室で寝たのだろうからシュウもガドナーに怒りを向けたりはしないだろう。


 ガドナーを含む『フェンリル』の隊員は寝ているシュウに近づくのがどれだけ危険なことか理解していた。

 そのためガドナーが離れた場所からシュウに声をかけようとした瞬間、シュウは上体を起こして不機嫌そうな表情でガドナーをにらみつけた。


「おはようございます」

「おお、もう朝か」


 起きたばかりのシュウは話が通じる相手ではないので、シュウからかなり離れた場所に立っていたにも関わらずシュウに話しかけたガドナーは冷や汗をかいていた。

 それでも話している相手が誰か認識していればシュウも攻撃はしてこないので、ひとまずは安心だと考えてガドナーは話を続けた。


「今日来るだろうと思っていましたけど、わざわざここで寝なくてもここに手紙でも置いててくれれば部屋まで起こしに行きましたよ?」

「いや、邪竜と戦った後だったんでもう色々面倒でそのままここで寝た。あー、だりぃ」


 心底面倒そうな顔をしながらもシュウは起き上がり、そのまま近くに置いてあった水筒を手にすると中に入っていたカフェオレを口に含んだ。

 その後もしばらく不機嫌そうな顔をしていたシュウの横でガドナーが各種装備の点検をしていると、徐々に隊員たちが集まり始めた。


 やがて『フェンリル』の隊員全員が集まるとミア、サヤ、ギオルの三人が前に出て、ミアたち三人だけでシュウと戦いたいと申し出た。

 それを聞いたシュウは面白そうに笑みを浮かべながら口を開いた。


「なるほど。おもしろそうだからそれは別にいいんだけど、多分Aランクと同じぐらいの力で戦ったらお前ら三人だと普通に勝っちまうんだよなー。……どうするかな」


 こう言って考え込むシュウを前にミアたち三人を含むこの場にいる『フェンリル』の全員がシュウの三人に対する高評価に驚いていた。

 特にミアたち三人は身の程をわきまえろぐらいのことはシュウから言われると思っていたので、自分たちの要望があっさり通ったことに驚いた。

 そんなミアたちにシュウはある提案をした。


「さっきも言ったけど多分ただAランクと同じ力で戦ってもお前ら普通に勝つと思う。だからちょっと準備してくる。少し待ってろ」


 それだけ言うとシュウはミアたちの返事も聞かずに訓練室を出て行った。

『フェンリル』に割り当てられた訓練室を出たシュウが向かった先はコウガとその部隊、『シールズ』に割り当てられた訓練室だった。


 シュウが訓練室に入るとコウガが部下相手に訓練を行っている最中で、訓練中に訓練室の扉が開いたためシュウは室内にいた全員の視線を受けた。

 そして室内の人間を代表してコウガがシュウに用件を尋ねた。


「訓練中に何の用だ?」


 このコウガの質問を受け、シュウは一度訓練室から出ると各訓練室の前に張られたプレートを見る素振りを見せた。


「わりぃ、リクかヴェーダに用があったんだけど部屋間違えた」


 シュウの不注意で自分たちの訓練が中断させられたと知り、コウガは露骨に不機嫌そうな表情をした。


「さっさと出て行け」

「りょーかい」


 不機嫌そうなコウガの声を背にシュウは『シールズ』に割り当てられた訓練室を後にした。

 シュウは別に部屋を間違えたわけではなく、クオンの部屋に行く前にコウガの所在を確認するために『シールズ』に割り当てられた訓練室に向かった。


 昨日コウガはクオンと出かけたはずで、その後の流れ次第ではコウガがクオンの部屋に泊まった可能性もあった。

 その場合シュウがクオンの部屋を訪れると気まずくなるので一応確認をした。


 もっともコウガに出かけた後の流れでクオンの部屋に泊まるような甲斐性があればクオンも苦労はしないので、この自分の気遣いがおそらく無駄に終わることはシュウにも分かっていた。

 とにかくコウガが訓練中であることは確認できたので、シュウは気兼ね無くクオンの部屋へと向かった。


 シュウがクオンの部屋に入ると居間の机の上には昨日クオンが購入したと思われる書物や品物が置かれていた。

 クオンの戦利品の中から漫画を手に取りシュウがページをパラパラとめくっていると、奥から眠そうな顔をしたクオンが出て来た。


「誰?コウガ?」

「わりぃな、俺だ」


 もはや見慣れた疲れ果てた顔で出て来たクオンを見て、クオンの髪に視線を向けながらシュウは呆れた様な表情を浮かべた。


「頼み事しに来た俺が言うのもなんだけど寝ろよ。さっきコウガに会ったけど別に夜まで盛り上がったってわけじゃねぇんだろ?」

「うん。昨日コウガは八時には帰った」

「……健全なデート楽しんだみたいで何よりだ」


 クオンからコウガとの仲について何度も愚痴を聞かされているシュウとしてはそろそろコウガに覚悟を決めて欲しいものだったが、あまり口を出すのも野暮かと思いとりあえずシュウは本来の目的をクオンに伝えた。


「今からうちの隊の訓練するから一個入れて欲しい能力があるんだ。確か研究局にいたよな?」


 シュウに入れて欲しい能力を告げられたクオンは今日出勤予定の部下たちの名前を思い出しながら口を開いた。


「うん、確か今日は来てたはず。悪いけど連れて来て」


 目的の能力者の顔はシュウも知っていたので、クオンに言われた通りシュウはクオンの部下をクオンの部屋まで連れて来た。

 その後クオンによる能力の移動が行われるとクオンの部下はすぐに仕事へと戻った。

 クオンの部下が去った後、シュウは自分に移動した能力の使い心地を軽く確かめ、その後クオンの部屋の冷蔵庫の中身を確認してからクオンに視線を向けた。


「飯は簡単なの作っといてやるからとりあえず寝ろ。俺が飯作りに戻ってきた時に起きてたら殴ってでも眠らせるからな」


 そう言って拳を作るシュウにクオンは交渉を行った。


「後二時間ちょうだい」

「……ちょうど飯作り終わるのがその頃だから好きにしろ」


 そう言うとシュウはシュウが自由に使えるクオンの食費が入った財布を手にしてからクオンの部屋を後にした。


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