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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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サプライズ

 サヤに導かれるままミアがライブ会場の奥に向かうと関係者以外立入禁止と書かれた紙が貼られた扉が見えた。

 しかしサヤはその注意書きを無視して扉を開き、迷うことなく奥へと進もうとした。

 あまりに迷いの無いサヤの動きに驚きながらもミアは慌ててサヤを止めた。


「ちょっと、サヤさん。そこから先は入ったらまずいですよ!」


 まだライブが終わったばかりで辺りには会場の関係者も数人おり、こんな状況でただの客の自分たちが奥に入ったら騒ぎになるだろう。

 人目が無ければいいというわけではないが、それでもこのまま自分たちが奥に進むのは確実にまずい。

 そう考えてミアはサヤを止めたのだが、ミアのこの心配は取り越し苦労だった。


「大丈夫です、テュールさんからここの人には話が通ってるらしいですから」

「テュールさんから?」


 どうしてここでテュールの名前が出てくるのかミアは一瞬戸惑ったが、すぐにある可能性を思いついた。

 そしてミアの予想は当たっていた。


「ミアさんがテュールさんに会いたがっていたので、テュールさんに今日会ってもらえないかと頼んでみました。そうしたらライブ後すぐに控室に来て欲しいということだったのでこれから行きます」

「……そうですか。ありがとうございます」


 サヤのまさかのサプライズに驚いているミアの横でサヤは近くのスタッフにテュールとアリアの控室の場所を尋ね、そのままサヤはミアを引き連れてテュールとアリアの控室に向かった。


「初めまして、サヤさんからお話は何度も聞いてますしお店にも何度も来てくれているって店のみんなから聞いてます。今日はライブにも来てくれて嬉しいです」


 控室に着くなりミアとサヤは笑顔のテュールに出迎えられ、突然訪れたテュールと話す機会に緊張しながらもミアは先程サヤに渡された花束をテュールに渡した。

 その後ミアはテュールに促されるままサヤと共に席に着き、自分たちに遅れて席に着いたテュールとアリアを見て緊張してしまった。


 テュールとアリアと同時に話すなど本来ならお金を取られても文句を言えない状況で、今の状況を二人のファンが見たらミアとサヤに嫉妬の視線を向けるだろう。

 そう考えたミアはなかなか緊張が解けず、そんなミアを見かねたのかテュールがミアに声をかけた。


「今日のライブはどうでしたか?」

「最高でした。ギター弾いてる時のテュールさんはすごくかっこよかったですし、ピアノを弾いてる時はすごくきれいで思わず見とれちゃいました」

「……そうですか。ありがとうございます」


 テュールはミアに演奏の感想を聞いたつもりだったので、当然ミアはアリアの歌をほめるだろうと思っていた。

 アイギス最高峰と言っても過言ではないアリアの歌唱力と違い、テュールの楽器の演奏技術はそこまで高くないからだ。

 しかし実際には自分がほめられたことでテュールは戸惑ったが、それでも自分のそうした気持ちは表情に出さずにミアに礼を言った。


「ありがとうございます。ピアノを教えてくれたレイナ隊長に比べたらまだまだだとは思いますけど、それでもそう言ったもらえるのは嬉しいです。これからも応援よろしくお願いします」

「はい。もちろんです。それにしてもレイナ隊長と知り合いなんですか?」


 テュールがピアノを習った相手がレイナだと知りミアは驚いた。

 どちらもおしとやかなレイナとテュールは確かに気が合いそうだが、二人に実際に接点があるとはミアには思えなかったからだ。

 しかしこのミアの疑問はアリアの説明ですぐに解消された。


「シュウの紹介でレイナ隊長を紹介してもらったのよね?」

「はい。アリアさんが組む人が見つからなくて困っているという話を聞いて私がシュウ隊長に相談して、それでレイナ隊長にピアノを教えてもらいました。ギターの方はやってる人も結構いるのでそういう人たちに聞いて何とかやってます」


 アリアがテュールと共に音楽活動をしているのはテュールの楽器の腕が優れているからではない。

 外周部出身者の宿命としてアリアは音楽活動を始めた直後から様々な嫌がらせを受けた。

 その中には暴力も含まれており、アリアの相方はテュールの前に二人いたのだがいずれもそれらの嫌がらせに耐えられずアリアのもとから離れていった。


 アリアは討伐局の隊長に匹敵するだけの強さを持っているため暴力に屈することはなく、自分を襲った人間は全て返り討ちにして警察に突き出してやった。

 十年前ならともかく今は証拠さえあれば被害者に戸籍が無くても犯罪は成立する。


 そのため五人目を警察に突き出した後はそうした嫌がらせもなくなったのだが、それでもアリアの相方は見つからなかった。

 そんな時相方が見つからず困っていたアリアにテュールが声をかけ、その後二人は共に音楽活動を始めた。


 逮捕者が出ているためアリアが音楽活動を始めた直後の騒ぎはそれなりに知られている話だったが、世情に疎いサヤはもちろん最近ようやく新聞を読み始めたミアも一年以上前のこの事件について知らなかった。


 アリアとテュールとしてもこの話題は別に話して楽しいものでもないので、このことはミアとサヤには話すつもりは無かった。

 そんな中思わぬところでシュウの名前が出たためこれまでほとんど三人の会話に口を挟まなかったサヤが口を開いた。


「テュールさんとシュウ隊長は知り合いなのですか?」


 そんなサヤの質問を受けてテュールは自分とシュウとの関係をサヤとミアに伝えた。


「知り合いというか協力関係ですね。シュウさんの知り合いの仲裁に私が出たり、私が暴れるのが好きな人の話を聞いた時に遊び相手としてシュウさんを紹介したりで持ちつ持たれつという感じです」

「テュールさんは何歳ですか?」

「は?」


 あまりに脈絡の無いサヤの質問にテュールは戸惑ったが、そんなテュールの反応を気にせずにサヤは同じ質問を繰り返した。

 これを受けてテュールは特に隠すことでもなかったので自分の年齢に関する事情を伝えた。


「私は戸籍を作っていないので特に年齢は決めていません。さすがに十五歳以上だとは思いますけど」

「もしかして名前も自分で決めたんですか?」

「はい。私たちの世代はそれが普通でしたから」


 現在の活動をするにあたりテュールは新しい名前が必要になった。

 そして当時偶然耳にした古代の神話に出てくる神の名前がテュールで、名前自体に特にこだわりは無かったのでそれ以降テュールはこの名前で現在の様々な活動を行っていた。


 テュールは自分の名前の由来まではミアとサヤに説明せず、そんなテュールの説明を聞いたサヤはしばらく考え込んだ。

 確かシュウが二十歳で自分が十五歳だったなと考えながらサヤはテュールに視線を向けた。

 テュールの言う通りテュールはサヤよりは年上で、シュウとは同じぐらいの年齢に見えた。

 その後もしばらく考え込んだサヤだったが、今回の目的を思い出して慌てて口を開いた。


「ミアさん、話の邪魔をしてすみませんでした。どうぞ話を続けて下さい」

「いえ、邪魔だなんて」


 そこまで気を遣わなくてもいいのにとミアは思ったのだが、サヤとしてはテュールとは『ネスト』で今後も話せてアリア個人には全く興味が無い。

 そのためこの場で二人と積極的に話す気はサヤには無く、その後も会話はサヤ以外の三人を中心に進んだ。


「感謝祭で新曲を歌うって話でしたけど今から用意するんですか?」

「ええ、何しろ突然な話でしたから。とりあえず五個ぐらいいいのを見繕って、後はアリアさんにお任せですね」

「見繕う?」


 アリアが作曲を、テュールが作詞を担当しているというのは有名な話でミアも知っていた。

 しかし作詞の話をしている時にどうして見繕うという言葉が出てくるのかがミアには分からなかった。

 そんなミアにテュールは自分がアリアに曲を提供する際の方法を教えた。


「昔の映像作品で使われている曲でいいのがあったらそれをアリアさんに教えているだけで、私自身が作曲してるわけではないんです」

「アニソンだったっけ?いつも全然方向性が違う曲提供してくれて助かってるわ」


 邪竜襲来以前に考えられた歌詞や曲を使うことは他にもしている者がいるのでテュールとアリアとしては隠す必要は無かった。

 聞かされたミアとしても特にテュールの行動を問題だとは思わず、邪竜襲来以前の文化にまで精通しているなんてテュールは博識なのだなと感心しただけだった。

 その後しばらくテュールとアリアとの会話を楽しんだ後、あまり長居してはここのスタッフに迷惑だろうと考えてミアは帰ることにした。


「じゃあ、そろそろ私たち帰ります。感謝祭楽しみにしてますね」

「はい。お時間があったらぜひ見に来て下さいね」


 ミアの発言に笑顔で返事をしたテュールとミアは握手を交わし、その満足気な表情でサヤと控室を後にした。

 ミアとサヤが控室を後にした直後、テュールは何かに気づいた様子で天井に視線を向けた。


「どうしたの?」

「いえ、大したことじゃありません。すみませんけど今日はこれで失礼しますね。曲はいいのが見つかったら知らせるので」

「ええ、お疲れ様」


 こうしてアリアに見送られて控室を後にしたテュールは、急いで外に向かいながら今日のサヤの視線について考えていた。

 ミアがテュールに会いたがっているので会って欲しいとサヤに頼まれ、今日テュールはミアとサヤを控室に招いた。


 サヤがミアのために今回テュールに頼み事をしたこと自体に下心は無いだろう。

 しかしサヤはテュールに会う度に感情の込もった視線を向けてきて、今日もサヤはアリアなど眼中に無いといった様子でテュールに視線を向けてきた。

 バイト先でいつでも会える自分よりアイギス有数の有名人のアリアに視線を向ければいいものをと思いながらテュールはため息をついた。


 おそらくサヤはテュールの強さに興味があるのだろうから、これが今後も続くようなら一度サヤと戦うことも考慮しなくてはならない。

 一度戦ってテュールとサヤの実力差が分かればサヤの興味も薄れるだろう。


 誰にでも優しい『聖女』という猫を被っているテュールとしては戦い自体を避けたいのだが、あまり自分に興味を持たれても困ってしまうのでしかたがない。

 しかしテュールの束縛は『メリジューヌ』には通用しないので、テュールがサヤに勝とうと思ったら本気を出す必要がある。


 できればそれは避けたかったのでサヤと戦うのは最後の手段だった。

 自分の親の敵ならともかくただのバイト先の雇い主にどうしてそこまで興味を持つのか。

 そう考えながらテュールはライブハウスを出ると外周部へと向かった。


 一方ライブハウスを後にしたミアとサヤは近くのレストランに入ると先程別れたばかりのテュールとアリアについて話をしていた。


「今日はテュールさんと話す機会を作ってくれてありがとうございました。あんまり何度も『ネスト』に行くのも悪いかなと思ってたんで助かりました」


 テュールに会うという目的で『ネスト』に通う者は少数ながらいる。

 しかしテュールは多くても週に三回程しか顔を出さない上に店の仕事は行わないため『ネスト』に通うだけでテュールに会える可能性はかなり低い。

 かといって先日シュウが言った通りならテュールのファンだからという理由で『ネスト』に何度も通ってはテュールの不興を買うだろうとミアは考えていた。


 そうなるとサヤにも迷惑がかかるかも知れないのでそろそろ『ネスト』に通うのは止めようかと考えていた時に今回のサヤの提案だ。

 思わぬ形でテュールと直に話すことができ、その上アリアから嬉しいサプライズも聞けたので今のミアは上機嫌だった。


「十月の感謝祭楽しみですね。ホールのチケット取るのはさすがに無理でしょうけど出店もたくさんあって見て回るだけでも楽しいと思いますから、よかったら感謝祭の日一緒に出掛けませんか?」

「はい。その時はぜひ。もっと色々なことを知りたいですから」


 そう返事をしながらサヤは密かに安堵していた。 

 サヤはアリアの知名度を理解しておらず、その上サヤにとってテュールは週に一回はバイト先で会える存在だ。


 そのため今回ライブに誘ってもらった礼として設けたテュールとアリアと会う機会が本当にミアへの礼になるのかサヤは不安だった。

 しかし結果としてミアは二人と話せて満足した様子で、それを見てサヤも満足した。


 ここ最近ミア以外とも少しは話すようになり、サヤは訓練とバイト漬けの今の自分の生活が異常だということに気づき始めていた。

 そのため自分の様な愛想の無い人間と仲良くしてくれるミアにサヤは大変感謝していた。


「今日誘ってもらわなかったらライブのこともアリアさんのことも知らないままだったと思うので嬉しかったです。……また一緒にライブに行ってもらえますか?」

「はい!もちろん!」


 サヤの方から次の外出の提案をしてきたためミアは笑顔を浮かべたが、サヤの方も今日のライブの観覧を終えて表情こそ変わっていなかったが確かな満足感を得ていた。

 シュウだけでなくテュールもあれだけがんばっているのだから、自分もいつまでもミアやギオル以下の戦闘力に甘んじているわけにはいかない。

 一日でも早く最低でもBランクの邪竜は倒せるようにならなければと意気込みながらサヤは明日の『フェンリル』の訓練についてミアにある確認をした。


「今週は一回もシュウ隊長は訓練に来ていないので明日絶対に来るはずです。ギオルさんと一緒にがんばりましょう」

「来ればいいですけど……」


 ミアとサヤはギオルと相談してAランクの邪竜相当の力を再現している訓練時のシュウと三人だけで戦うことを決めていた。

 すでにBランクの邪竜一体なら一人で倒せるミアとギオルは単独でのAランクの邪竜撃破を次の目標に定めていた。


 そのため今は勝てないにしても少人数でAランクの邪竜の戦闘力を体験し、今後の訓練の参考にしたいと二人は考えていた。

 そんな二人の計画を聞きつけたサヤが自分もシュウとの戦いに参加させて欲しいと二人に頼み、後はシュウが訓練に来る日を待つばかりとなっていた。


 もっともこう決めた時に限ってシュウの訓練参加が日曜になったことは三人にとっても予想外で、ミアなどはシュウのこれまでの言動を思い返して明日シュウが来るかどうかすら疑わしいと思っていた。

 しかしこの自分の考えをそのままサヤに伝えてもサヤを不快にするだけだろうとミアは考えていたので、自分のこの考えは一言つぶやくだけに留めた。


 ミアには全く理解できないがサヤはシュウを尊敬しているようだからだ。

 確かにシュウは強いが尊敬できるかと聞かれると正直無理だというのがミアの正直な気持ちだったが、シュウの悪口を言っている人間を見てサヤが不快そうにしているのをミアは何度か目にしていた。


 かといってサヤの母親を殺したシュウのことをサヤの前でほめるのもどうかと思い、ミアはシュウについてサヤと話す時かなり言葉を選んで話していた。

 そのためミアは明日の訓練についての話を手短に切り上げたかったのだが、幸いサヤの方から別の話題を口にしてきた。

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