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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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お出かけ

 その後も喫茶店で雑談をしていたクオンとコウガに近くにいた二人組の女の会話が聞こえてきた。


「そろそろ会場にいかない?前の席取っときたいし」

「そうね。前の席ならアリアさんやテュールさんと目が合うかも知れないし」

「私この前『ネスト』に行った時テュールさんとお話ししちゃった。握手もしてくれたしほんと優しい人だよね、テュールさんって」

「は?ずるっ、私これまで三回も行ったのに一回も会えてないのに」

「そんな怒らないでよ。今日のチケット私が取ったんだし。そろそろ行こ?」


 そう言って女二人は途中で花束を買って行こうなどと言いながら店から出て行った。

 そんな二人に視線を向けていたコウガを見て、クオンは不思議そうにコウガに質問をした。


「アリアとテュールのライブに興味あるの?」


 コウガは特に趣味らしい趣味を持たず、シュウからは何が楽しくて生きてるのか分からないと言われる程だ。

 こうしたコウガの性格はクオンも知っていたため、先程の客たちの会話にコウガが興味を持ったことがクオンには意外だった。

 しかしそんなクオンの質問に対してコウガは表情を変えることなく答えた。


「いや、全く興味が無い。アリアの歌がうまいのは認めるが、わざわざ出かけてまで聴きたいとは思わないしな」


 外周部出身というだけで白い目で見られる今のアイギスで歌唱力一つで有名になったアリアを知らない者など今のアイギスにはいないだろう。

 しかしコウガが先程の客たちの会話に反応したのはそういった理由ではなく、興味を持ったというのも正確ではない。

 そのためコウガはすぐに話題を変え、クオンもアリアやテュールにそこまで興味があるわけではなかったのでこれ以上二人のことは話題にしなかった。


 この日の夕方、『ネスト』での仕事を終えたサヤは店の近くでミアと合流し、そのまま今夜アリアとテュールが出演するライブの会場へと向かった。

 二人が会場に着いた時にはすでに会場の立見席は半分以上埋まっており、二人は何とか立見席の後ろ寄りの場所に潜り込んだ。


 サヤは別に人混みが苦手というわけではないが、それでも街を出歩くことすらほとんどしないサヤにとって徐々に人が増えていくライブ会場はなかなかきついものがあった。

 そんなサヤを見てミアが声をかけた。


「大丈夫ですか?私もライブ来るの久しぶりだったんでここまで混むとは思ってませんでした。すいません」

「いえ、そこまで苦しいわけじゃないから大丈夫です。それにしても前の席はかなり空いてますね」

「ああ、あそこは指定席ですから」


 今日のライブの他の出演者たちには気の毒だが、今日このライブに来ている客のほとんどがアリアとテュールの演奏を聞きに来たはずだ。

 ミアとサヤの様に立見席のチケットしか持っていない客は早めに来るしかないが、指定席のチケットを持っている客は極端な話興味のある演奏者の出演時間の少し前に来れば大丈夫だ。


 もっとも今のアイギスでは演奏を生で聞ける機会自体がそこまで多くないので、そういった贅沢なことをする客は少ないだろうと考えながらミアはサヤと共にライブの開始を待った。

 そしてライブの開始時間となり、一組目となる三人組が舞台に現れて演奏を始めた。


 彼らの演奏が始まると共に観客が歓声をあげ、彼らの歓声を聞き久しぶりにライブに来たミアだけでなくライブに初めてきたサヤも思わず驚いてしまった。

 初めはライブ会場の空気にのまれていた二人だったが、一組目の出演者の演奏が終わりを迎える頃には純粋に演奏を楽しむ余裕ができた。


 そして二組目、三組目と演奏は続き、四組目の演奏が終わった頃には指定席もほぼ満員となっていた。

 そして五組目の演奏の前に休憩が入り、ミアは興奮した様子でライブの感想を口にした。


「いや、久しぶりにライブ来ましたけどやっぱすごいですね。特に二組目のボーカル、すごく力強い声なのに全然下品じゃなくて気づいたら終わってました」

「はい。歌なんてわざわざ聴きに来なくてもいいと思っていたんですけどこれなら納得です」


 初めてライブの空気に触れ、サヤも口調こそいつも通りだったが気分が高揚している様子だった。

 そしてライブの後半が始まり、演奏が始まると共に再び観客たちは歓声をあげた。

 そのまま会場の空気がどんどん温まって行く中、とうとう本日最後の出演者、アリアとテュールの出番となった。


 アリアの知名度は今のアイギスの歌手の中では群を抜いているが、アリアはメディアへの露出を全くしないため観客の中には今日初めてアリアを見るという者も少なくなかった。

 白を基調としたドレスを纏い金色に輝く髪を背中へと流したアリアは、舞台の中央に来ると観客席に笑顔で手を振った。


 サヤもアリアを今日初めて見たという意味では観客の多くと同じだったが、数日前までアリアの存在すら知らなかったサヤにとってアリアはこれまでの出演者と大差無い存在だった。

 そのためサヤの視線はすぐにテュールへと向かい、サヤがテュールに視線を向けてすぐにサヤとテュールの視線が合った。


 いつもと違いきっちりと黒いスーツを着てギターを手にしたテュールはサヤと視線が合うなり観客席に手を振り、それを受けて観客席からは歓声があがった。

 今日ミアと一緒にライブに行くことはテュールに伝えていたのでテュールが自分たちを見つけやすかったのだろう。

 そんなことをサヤが考えているとアリアが観客に声をかけた。


「今日は来てくれてありがとう!今日も私と聖女様の歌を楽しんでいってね!」


そう言ってアリアが歌い始めるとサヤは衝撃のあまり我を忘れた。

 それ程アリアの歌は衝撃的だったのだ。

 テュールの弾くギターに乗り聞こえてくるアリアの歌は一瞬でサヤを含む観客全員の心をつかみ、元々テュール目的で来ていたサヤですらアリアが歌っている間はテュールのことを忘れていた。


 そしてサヤがこれまでのライブの出演者の演奏時と違い自分が前のめりになっていることに気づかない内にアリアは三曲を歌い終え、そこでアリアとテュールの演奏が終わった。

 これまでの出演者たちは五、六曲は演奏していたためもう終わってしまうのかとサヤは残念に思ったが、そんなサヤとは対照的にミアを含む観客たちはまだ舞台の上にいるアリアとテュールに視線を送っていた。


 一体どうしたのだろうかとサヤが不思議に思っていると舞台の上のテュールがギターを壁に立てかけて舞台の上に設置されていたピアノへと近づいていった。

 その後テュールはピアノを弾き始め、それを受けてアリアは躍動的な歌を歌っていた先程まではとは一転してしっとりとした曲調の歌を歌い始めた。


 テュールが楽器を変えてから二曲目になる歌をアリアが歌う頃には観客席からはすすり泣く声すら聞こえ始め、その様子を見たサヤはこれがアリアかと驚いた。

 そしてアリアが最後となる曲、アリアの失恋を歌にしたというオリジナル曲を歌い終えるとその日のライブは終了となった。


 アリアの歌を生で聴いたのは初めてだったので、ミアはアリアとテュールの演奏が始まってすぐに隣のサヤのことを忘れてアリアの歌に聴き入ってしまった。

 しかしアリアとテュールの演奏が終わり、出演者全員が舞台に集まり観客から花束などをもらい始めた頃にはミアも落ち着きを取り戻してサヤに話しかけた。


「どうでしたか?楽しんでもらえたなら嬉しいですけど」

「はい。すごく楽しかったです。特にあのアリアという人の歌はすごくうまくて、シュウ隊長の強さみたいな凄みすら感じました」

「……そ、そうですか」


 サヤの独特な表現に戸惑ってしまったものの、それでも楽しんではもらえたようだったのでミアはほっとした。

 後は急いで帰ることもないので観客の流れが落ち着いてからゆっくり外に出よう。


 ミアがそう考えていると舞台の方からアリアの声が聞こえ、ミアとサヤを含む観客全員が舞台に視線を向けた。

 そして会場中の視線を受けたアリアは笑顔である告知をした。


「今日はみなさんに嬉しいお知らせがあります!十月の感謝祭に私とテュールが参加することが決まりました!」


 このアリアの発言を聞いた観客たちは静まり返り、その後すぐに歓声をあげた。

 毎年十月にアイギスで開かれる感謝祭はアイギス最大の催しで、二百年前に街を焼き払われた人々が集まりアイギスという街を作ったことを記念して開かれる祭りだ。


 二日間に渡って開かれるこの祭りの最大の目玉は二日目にアイギス最大のホールで行われる演劇や演奏、合唱などでこれに参加することはアイギスの芸能人・芸術家にとって最大の名誉と言われていた。

 しかもアリアもテュールも外周部出身だ。


 一応感謝祭の舞台への参加条件はアイギスの文化・芸術の発展に大きく寄与した人物となっているが、これまで外周部出身の者がこの舞台に立ったことはなかった。

 そのためアリアの告知を聞き、観客はもちろんアリアの隣に立っていたテュールを含む他の出演者たちも驚いていた。


「アリアさん、せめて私にはあらかじめ言っといて下さいよ」


 アリアの発言を聞き、驚きよりも呆れの方が大きかったテュールは呆れを隠そうともしない表情でアリアに話しかけた。

 しかしそんなテュールの視線を受けてもアリアは全く動じずに笑顔を浮かべていた。


「それじゃサプライズにならないじゃない。聖女様の驚いた顔を私だけで見るのもったいないと思って」


 テュールは自分の聖女という二つ名が好きではないのであまり連呼しないで欲しかったのだが、アリアだけならまだしも今は周囲に大勢の人間がいたので不満を口にはしなかった。


「それだけの舞台となると新曲も二つか三つは用意しないといけませんね」

「ええ、曲の方はお願いね」


 アリアは既存曲はあまり歌わず、アリアが詞を、テュールが曲を担当してオリジナル曲を多く作っていた。

 そのため感謝祭の様な大きな催し物に出るとなるとテュールもそれなりの準備が必要で、こうしたこともありテュールはアリアのサプライズに苦言を呈した。


 しかしアリアのいたずら好きは今に始まったことではなく、何よりアリアの発言を受けて喜んでいる観客の前で長々と言い合いをする程テュールも野暮ではない。

 そのためテュールは言いたいことをいくつも飲み込んで観客席に笑顔を向けた。


 一方突然のアリアの発言に他の観客同様驚いたミアだったが、しばらく経ち出演者たち全員が舞台から去った頃には落ち着きを取り戻してサヤに話しかけた。


「もう少ししたら人も少なくなると思いますからそしたら出ましょうか」


 ミアはライブの後サヤと外で食事を取るとシンラとキキョウには伝えていたので、別に急いで帰る必要は無かった。

 そのため他の観客が帰るのを待ちながらどこで食事を取ろうかと考えていたミアにサヤが話しかけてきた。


「ここを出る前に行きたい場所があります」

「出る前に?」


 サヤの不可解な発言を聞きミアは戸惑ったが、何やら目的があるらしきサヤに導かれてサヤは会場の奥へと向かった。

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