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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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ワーカーホリック

 七月四日(土)

 この日の早朝、朝早くに目が覚めたシュウはいつもの様に機構本部裏の森の奥で自身の訓練を行っていた。

 周囲の地面に散らばった刀や槍を使い軽く体を動かした後、シュウは『纏刃てんじん』を発動した。


 今以上に自分の能力を強化しようと思ったら『纏刃』を強化するのが近道だとシュウは考えており、ここ最近のシュウは『纏刃』の強化にかなりの時間を割いていた。

『纏刃』に発動するための魔力を増やしても『纏刃』による魔力の鎧の厚さが増すだけで最初の内は方向性すら見えなかったが、今のシュウには『纏刃』を強化した先にある技の形がかなりはっきりと見えていた。


 しかしこの技は完成すればかなり派手な技となり、もう少し開発が進むと周りに隠すのが難しくなりそうだ。

 数日前にシュウが透明化能力を借りた男、アナスは何も起こっていないように見せるという限定的な形でなら幻術を使えるので、そろそろ自分の訓練時はアナスに能力を使わせた方がいいかも知れないとシュウは考えていた。


 しかしこの訓練方法には一つ問題があった。

 アナスに能力を使わせて訓練を行うとなるとあらかじめアナスに訓練時間を伝えておかなくてはならない。

 アナスを二十四時間待機させておくのはさすがに不可能だからだ。


 かといって毎日決まった時間に訓練を行うのはシュウが面倒なので、何らかの対策を考えなくてはならない。

 一番簡単なのは透明化能力や幻術能力を持っている能力者を他にも複数雇うというもので、アナス以外にもシュウの目的に適した能力者を探すこと自体はそれ程難しくないだろう。


 しかし雇った能力者にはシュウ自身の秘密保持を任せるのだから誰でもいいというわけではなく人選は慎重にする必要があった。

 とはいえすでに何人か候補はいるので『纏刃』の強化における秘密保持についてはそこまで心配する必要は無かった。


『纏刃』を含む能力の訓練を三十分程行った後、シュウはこの後『フェンリル』の訓練に行くかを考えていた。

 シュウは今週一回も『フェンリル』への訓練を行っておらず、今日か明日行かなくては今週の訓練は行わないままになってしまう。


 今日の様にたまたま早く起きた日は普段なら迷わず『フェンリル』の訓練に行くのだが、今日はサヤがミアと夕方に出かけると聞いていたのでシュウは悩んでいた。

 シュウが今日の訓練でミアとサヤのどちらかを『死亡』させると二人はアリアとテュールのライブに行けなくなる。


 他の『フェンリル』の隊員たちは外せない用事がある日は訓練に来ないようにしているらしいが、サヤによると二人は今日も訓練に参加するらしい。

 真面目に隊の訓練に参加していると討伐局局員たちは毎日機構本部に来なくてはならない。


 訓練自体は二時間程で終わるとはいえ毎日の出勤は面倒なので、『フェンリル』の隊員を含むほとんどの討伐局局員は週に一、二回は休む。

 ミアとサヤは毎日欠かさずに訓練に来ているのだから今日ぐらい休めばいいものをと考えながらシュウは今日の『フェンリル』への訓練を見送った。


 さすがに『フェンリル』への訓練に手を抜くわけにもいかないので、今回はシュウが我慢して明日早起きするしかないだろう。

 今日は夜に予定が入っているので面倒だなと思いながらシュウは機構本部へと向かった。


 昼の二時を少し過ぎた頃、昼食後に自分の訓練を終えたコウガはクオンの部屋を訪れていた。

 コウガはシュウがいないことを確認してからクオンの部屋に入り、その後コウガが来たことに気づいたクオンが奥から出てきた。

 せっかくの休日なのにいつもとしていることが変わらないクオンを見て、呆れた様な表情を浮かべながらコウガはクオンにある質問をした。


「あいつはどこに行った?」


 クオンの部屋に来る度にコウガはクオンにシュウの所在を尋ねてくる。

 コウガはリンドウ同様シュウが嫌いだということを明言しており、実際クオンの部屋を訪れた際にシュウがいるとコウガはすぐにクオンの部屋を後にする。


 幼馴染が友人を嫌っているという状況はクオンとしては複雑だったが、相手がシュウでなくてもコウガは元々社交的ではない。

 またシュウも誰からも好かれるという性格ではなく、嫌われているシュウの方が今の状況を特に気にしていないようだったので二人の関係に口を出す気はクオンには無かった。


「また透明化能力入れてどっか行った。『妖精女王ティターニア』のところに行ったんだと思う」

「『妖精女王』のところにだと?」


 クオンの発言を聞き最初はわけが分からず困惑したコウガだったが、話に聞く『妖精女王』の能力を思い出してコウガは呆れてしまった。

 そんなコウガにクオンはあらかじめ伝えようと思っていた不満を口にした。


「うん。この前シュウから直接聞いた。これぐらいなら別に話してくれてもよかったと思う」


 クオンも外部の人間に話していいことと悪いことの区別ぐらいはつくつもりだ。

 そのためシュウと『妖精女王』の関係を自分に隠していたコウガにクオンは批判めいた視線を向けたのだが、そんなクオンの視線を受けてコウガは何やら考え込んでしまった。


「どうしたの?」


 コウガが口ごもるような発言をしたつもりはなかったため、クオンはコウガの反応を見て戸惑った。

 そんなクオンの様子に気づいたコウガはすぐに口を開いた。


「悪かった、気にするな。お前同様ワーカーホリックなあいつに呆れただけだ」

「ふーん。もしかしてシュウって『妖精女王』関係以外にも何かやってるの?」


 先程の発言はクオンとしてはコウガが今までシュウと『妖精女王』の繋がりを秘密にしていたことに対しての文句のつもりだった。

 しかしクオンの発言を聞いたコウガの反応はクオンが想像していたものとは微妙に違い、それを見たクオンはシュウが『妖精女王』と繋がりを持つ以外にも透明化能力を使い何かしているのではと考えた。

 ワーカーホリックという先程のコウガの発言を聞きクオンは自分の考えに確信を持ったが、コウガはこの件に関してこれ以上話したくない様子だった。


「あいつが何かしたところで被害を受けるのはどうせ犯罪者だ。放っておけ。それより人を呼んでおいて何でまだ準備が終わっていないんだ?」


 別に二人が頼んだわけではないのだが、クオンとコウガはここ二年程は休日を一緒に取らされていた。

 そして今日の休日を利用してコウガはクオンの買い物に付き合うことになっていた。

 それにも関わらず今日の外出を提案してきた張本人が部屋着でいるのだからコウガが呆れるのも無理は無かった。

 そんなコウガを前にクオンは謝罪の言葉を口にした。


「ごめん、ごめん。今日も徹夜してて。多分シュウが来なかったら今も寝てた」

「早く準備しろ。店が閉まるぞ」

「うん」


 そう言ってクオンが部屋の奥に消えるとコウガはシュウについて考えていた。

 先月の『メリクリウス』襲撃に限らずシュウは毎月の様に新聞沙汰を起こしている。

 それ自体は勝手にすればいいというのがコウガの本音だったが、まさかここまで手広くやっているとは思っていなかった。


 コウガは隊長としての仕事はこなしているが、逆に言うとそれ以外は何もしない。

 クオンに関してはまだ仕事と趣味の内容が同じだからと納得できるが、まさかアヤネやリク、ヴェーダの趣味が犯罪者の摘発や見回りということはないだろう。


 仕事など周囲から文句を言われない程度にこなせばいいと考えているコウガには毎日精力的に何らかの仕事をしている他の隊長たちが理解できなかった。

 特にシュウは隊長以外何の役職に就いていないにも関わらず様々な問題に首を突っ込み、これまで何度も局長たち顔負けの成果をあげていた。


 それを主張して自分への批判を黙らせるというのならコウガもまだ納得できるのだが、シュウは自分への批判に関しては無視を決め込み特に自分の成果を主張したりはしなかった。

 自分の成果を主張しない姿勢をシュウはかっこいいと考えているのかも知れないが、コウガからすれば無駄な苦労をしている様にしか見えなかった。


 自分には関係無いとはいえ、それでももう少し普段の振る舞い方を変えればシュウの外部からの評価も変わるだろうにとコウガは思わずにはいられなかった。

 もっともコウガが把握しているシュウが透明化能力で行っていることは決して口外できる内容ではなく、それはコウガも理解していた。

 シンラが引退したら順当にリンドウかレイナが次の討伐局局長になるのだろうが、これからも局長たちはシュウに苦労させられるのだろうなとコウガは同情した。


 クオンの準備が終わり街へと出たクオンとコウガは、クオンの行きつけの店数店で買い物を済ませてから近くの喫茶店に入った。


「思ったより掘り出し物があってよかった」


 コウガに持たせた紙袋四つ分の戦利品を見ながらクオンは嬉しそうに笑った。

 今日二人が見て回ったのはアイギスに数店しかない古物商店で、これらの店に並んでいる邪竜が現れる前の時代の品々は店の主すら読めない書物や使い道の分からない道具などほとんどががらくただった。


 しかしクオンの様に邪竜出現前の文化を研究している者にとってはこれらの書物は大変貴重な資料で、飛び飛びでしかそろっていない漫画ですら研究者たちにとっては貴重な資料だった。

 もっとも全ての書物が現在アイギスで使われている言語で書かれているわけではないので、クオンも全ての書物の内容を理解できるわけではない。


 そういった場合は古い書物の翻訳を行っている団体に手に入れた書物を預け、彼らが内容を翻訳するのを待つしかなかった。

 しかしアイギスにある古い書物の数はそれ程多くなく、クオンも興味を引く書物にはそう簡単には出会えなかった。


 そのためそういった書物の翻訳は仕事としては成立せず、研究局やいくつかの企業から金銭的な支援を受けた有志二十人程が細々とやっているのが現状だった。

 そうした事情はクオンから聞きコウガも知っていたが、それでもクオン自ら古物商店に顔を出す必要は無いのではとコウガは考えた。


「買い出しなんて部下に任せればいいだろう。目ぼしいものが必ずしもあるか分からないというならなおさらだ」


 コウガも別にクオンと出かけるのが嫌というわけではないが、それでも毎回荷物持ちをさせられるのはおもしろくない。

 そのためコウガはこの様な不満を漏らしたのだが、コウガの不満を聞いてもクオンは涼しい顔をしていた。


「うちの局員たちってあんまり外に出たがらないからしかたがない。それに本はともかく道具は部下に任せるとどうでもいいものまで買っちゃうし」


 古物商店に並んでいるものは全てが貴重なものというわけではない。

 それらしく作った道具を邪竜が出現する前の時代の品物と偽って売る悪質な店も少なくないため、実際の品物の購入はある程度知識がある人間が行う必要があった。

 そして邪竜が出現する前の時代に詳しい人間は今のアイギスではそれ程多くないため、クオンが自分で店に行くしかなかった。


「それにこういう機会でもないと私も外出しないし、気の利かない幼馴染のために早めの誕生日プレゼントを買わせてあげた」

「そうか。だったら来週のお前の誕生日は何もしなくていいな」


 来週の水曜日はクオンの誕生日で、コウガはクオンの部屋に招かれていた。

 もちろん今日買い物に付き合ったぐらいでその誘いを断る気はコウガには無かったが、今日の買い物の代金を支払わされたコウガとしては皮肉の一つも言いたくなった。


 そしてそんなコウガの考えはクオンにはお見通しで、コウガの皮肉を受けてもクオンは全く動じなかった。


「寂しいこと言わないで。超楽しみにしてるから」

「ふん。精々邪竜が現れないように祈っていろ」

「そうする」


 毎度のこととはいえ自分に悪態をつかれても全く動じないクオンにコウガは毒気を抜かれ、それをごまかすようにコウガは注文したコーヒーを飲んだ。

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